なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか
聖女は静かにすごしたい ~あたしってばスラムではおやさしいレディって言われてたから~
うららかな学園の正午。
女学生たちの『秘密のお茶会』なんだってさ。
しかも場所は廃校舎ときてる。
うっそくさ。
「聖女様はほんとうに聖女様なのか確かめさせていただけませんか」
あたしの正面に座った『わたくし下賤なあなたと頭のできがちがうんです』オーラを放ってるお嬢サマがしかけてきた。
確か親父が天文学者だかいう公爵令嬢だっけ?
ほら来た。
面倒くさいなー。
高位貴族どもってホント面倒くさい。
わざわざ図書館までゾロゾロ押しかけて来て『秘密のお茶会』だとか言われた時から、あやしーとは思っちゃいたけどねー。
あたしは、もともとスラム育ちで、こんなお高くとまった学園とやらに来たくなかったんだけどさ。
馬車の事故でおっちんだお貴族サマを、死にかかった野良猫を治したついでに治しちゃったら、大騒ぎになっちゃってさ。
野良猫治した程度で聖女とかやっすいよねー。
でも、学園には図書館とやらがあって、本がくさるほどあるって言うからさ。
それが楽しみで来てるんだけなんだよねー。
登校しても授業でないでいいっていうしさ。
一応、礼儀とやらを守って会話やるかぁ。
「確かめる、とは、どういうことなのでしょうか?」
ま、わかってる。
あたしに出された紅茶、ヤバイ薬が入ってた。
アレだな。
あたしを眠らせて、寝ている間にいろいろエロおやじみたいなことして、男どもでも呼んでみたいな。
さっき、通り過ぎた空き教室に男どもの気配がしたもん。
むんむんしてた。
とりあえず全員に「なえろ!」と念を送っておいたから、今頃しおしおとお帰りでしょ。
「もげろ!」じゃなかっただけ感謝して欲しいわ。
ったく、貴族サマってのは、アレだな。
単に力があるだけのゲス集団だよねー。
別のお嬢サマが、
「うふふ、聖女様に生まれたままの姿になっていただいて、身体の隅々まで調べさせてもらうということですわ」
わ、露骨に言ったよこいつ。
確かこの7人の中で、いっちばんえっらそーなこいつ王女だっけ?
権力があると思ってる人間はこわいねー。
なにしても許されると思ってる顔してら。
まぁ、聖女が出たのなんて、300年ぶりらしいから、忘れ果てててもムリねぇけど。
魔王だかだって、大きくなる前に、科学力でさくっと倒してるらしいしさ。
そりゃ聖女なんてヒカガクテキなもんバカにするようになるってもんだ。
あたしだって自分がそうじゃなきゃ「聖女? んなもんいたら詐欺だろ詐欺」だもんね。
「なるほど、だから紅茶に薬が入っていたんですね。わたしは、てっきり、多忙な聖女に休んでもらおうという余計な親切かと思ってました」
あたしは目の前の紅茶が入ったティカップに手を翳して、消した。
奴らの顔が一気に青ざめる。
魔法ってヤツだ。しかも、こっちも現れたのは300年ぶりだろ。
まぁ、魔法に青ざめたんだか。
あたしが眠らないことに青ざめたんだかは、わかんないけど。
「あのカップは、収容魔法でちょっとしまったんで、あとで提出させていただきます」
どんな薬かは判ってるんだけどね。
えぐいやつ、意識残ってるのに体動けなくなるやつ。
ちなみに提出するとかはウソ。
だって、消したモンがどこへ行くかなんて、あたしだって知らんし。
「な、なんで効かないんですの! 貴女は死んでもおかしくないくらいのクスリを飲んだんですのにぃ!」
と王女らしきお嬢サマが絶叫する。
こちとら聖女なんで。
ついでに、空間つなげてこの声を王様に届けておいたんで、あとはよろしく。
さて、どうでるかな?
あたしとしちゃ、図書館に戻って小説の続きが読みたいんだよね。
嵐にであった探検船ドロシア号とその勇敢な乗組員たちの運命やいかに!
「あ、ありえませんわ! て、手品よ! まやかしよ! 科学的にいって魔法なんてありえない!」
あ、公爵令嬢までわめきだしやがった。
科学の子ってやつか。
でもよー。本当にカガクテキならさ、あたしに薬が効かないってことになんか言うべきじゃね?
「なるほど。じゃあ」
あたしはわめいている公爵令嬢を消し――
手を翳しかけてストップ。
あーそりゃまずいか、どこへいっちまうかわかんないからね。
あたし、こう見えて、スラムじゃおやさしいレディで通ってたからね。
「――体験してみますか?」
公爵令嬢の額に、ぴたり、と人差し指をつきつけた。
「え……あ、おええええええええええ」
公爵令嬢の口と目と鼻と耳から、なんだか黒くてドロドロしたものがあふれだしてくる。
ばっちい。
スラムのドブよりくさいや。、
スリとかゴロツキにやってやった時なみにくせー。
お嬢サマどもすくみあがってら。
いいじゃん、消すよりも。
あたしってほんとレディだよね。
相手が無法者でも消さないんだからさー。
真っ黒ドロドロは、テーブルを汚し、床を伝い、甘ったるい腐臭が広がっていき。
ぱっと消えた。
残ったのは全てを吐き出しきって目も口もまんまるに開ききった公爵令嬢(だっけ?)と、青ざめてぶるぶると震えている残り6名のお嬢様がただけ。
トイレでも我慢してんのか?
公爵令嬢だったものは、ぱちぱちとまばたきすると。
「セイジョサマスゴイデス。スゴイデスセイジョサマ。イッショウツイテイキマスセイジョサマ」
止まらないオルゴールみたいにさえずりだした。
「わかりました。わかりましたから静かにしてくださいな」
「ハイッ!」
公爵令嬢だったものは静かになった。
「このお嬢様はわかってくれたようですよ。他の方も体験してみますか?」
ぐるっとテーブルを見回した。
「ひっ」
「ば、化け物っ」
お嬢サマたちは逃げ出した。
椅子には、ほかほか湯気をあげるおしっこのあとが残ってた。
やっぱトイレ我慢してたんだね。
やれやれ。
これで二度と、聖女に手を出そうなんて奴は出ないだろう。
「……」
あ、いかん、公爵令嬢だったなにかが残ってた。
「あなたも行きなさい」
「ハイッ!」
バネ仕掛けみたいに立ち上がると、くるり、と背を向けて規則正しい足取りで立ち去って――
「あ。ちょっと待ってください」
「ハイッ!」
「この椅子掃除しておいてください」
「ハイッ!」
返事はいいけど、ぜんぜんはじめない。
「椅子掃除してください」
「ハイッ!」
なめてんのか?
あ、そうか。
貴族のお嬢サマだから掃除の仕方を知らねぇのか。
めんどくせー。
「!」
そうだ! これならお嬢サマだったもんにもわかるでしょ!
「その椅子、舌で舐めてきれいにしておいてください。終わったら帰ってください」
「ハイッ!」
これでよし!
さて、これで明日から好きに本が読めるってもんだ。
今のは冒険小説だから、次はラブロマンスにしよっかなー。
たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。
最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。
少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、
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別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。




