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ラジオ体操は何処で生まれたのか

作者: シャス
掲載日:2026/02/12

あの日、小学四年生の私は給食当番だった。


そこへ担任が慌てた様子で教室へやって来て、給食配膳中の私達にこう言った。

「お前達、、、」

教室を首を振って生徒達を見回す。

「給食食べたら、全校集会するからグラウンドに出る様に」と、、、


なんだろう?

普通は月初めにする全校集会、今は月半場しかも給食後のタイミングでって、、、


やがて給食を食べ終わり、私たち給食当番は食器を集め、配膳台車を一階の給食室に送る貨物エレベーターに乗せていた。

三階建て校舎の貨物エレベーターは他のクラスともタイミングが重なり、集中したのでいつもより時間がかかったのだった、、、


遅れてグラウンドに出ると、

「遅いぞ!なにしてる!」と、急がせる様に先生は大きく腕を回す。

「給食当番でーす」

「ああ、、、ご苦労様」

先生もそこまでは気が回って無い。


遅れた私達給食当番は各クラスの後尾に整列した。

前を見ると先生方に混ざり、見慣れない人が居た。

整列が済むと、見慣れない人は一人朝礼台に上がった。


少し腰の曲った、痩せた体、細い顔、スーツは紺色に銀色の糸が縦にキラキラしていた。

子供が見ても高そうなスーツだと分かった。


腰が曲がって見えたせいか、「新しい教頭先生かな?」などと誰かが言い出す程だった。

小学生の私達には担任も教頭、校長も何歳なのか、感覚的にしか判断していなかったから、見た目で皆がそう思ってしまうほどの容姿、第一印象は「痩せた老人」だった。


彼は挨拶をした。

「こんにちは」

数十人は返事をしたが、見慣れ無い相手からの挨拶で思わず気後れしたのだろう。

「声が小さいね。お昼食べてないのかな?

もう一度、こんにちは」

老人は男性っぽい低く、優しい声だった。

今度は半ば叫ぶ様な返事を子供達は返す。

「こんにちは!」

「元気だね。今日はね、、、

私の名前はどうでもイイので、ラジオ体操を覚えて帰ってもらおうと、やって来ました。」


ざわつく生徒達。 

「出た!どうでもいいさん。」

「はっ?ラジオ体操?」

運動会は先月だったし、秋より冬寄りの季節、時期的にも子供達には、おかしな事だと思われた。


ざわつく生徒達に痺れを切らし、教頭先生が皆にメガホンで説明する。

「この方は、ラジオ体操を作られた方です」


更にざわつく生徒達。

「そんな有名人が、田舎小学校に来ないよ」

「嘘だー」

当時流行った子供番組の体操のお兄さんが、丸顔の人だったからか、顔も痩せた老人とのイメージの差が、体操と結びつかなかった事もあったのだろう。

それに、当時は未だ町で市にもなっていない、校舎のベランダから周りを見ても、田畑が殆どの景色で誰が見ても田舎であった。

だから誰も信じようとはせず、騒ぎは収まらなかった。


すると、壇上の痩せた老人は、姿勢を正すと

声を張って、こう言い放った。

「今日も元気に、ラジオ体操で始めましょうー!」


そう、あの夏休みに毎日の様に聞いた高く、元気になるあの声!

生徒達は一瞬ビクリとして、やがて騒ぎは更に大きくなった。

「本人!」

「ホンモノだ!」

「鳥肌が、、、」

「スゲー!」

だか、今度は自分から

「シー!」

「話すぞ!」

目をキラキラさせて、ラジオ体操マスターの話しを聞こうとする子供達。

ラジオ体操の掛け声、当時のラジオの声も作者本人、、、でも、この時殆どの生徒達が初めて知ったのだった。


「とりあえず、やってみようか。」

生徒代表でデレデレに照れた生徒会長が指名され壇上へ、、、


「体操の前にまずは、、、右手はグゥー、皆んなするよ!、左手もグゥー!では二つのグゥーをくっつけて、足の間に入れるよ。

これが、ラジオ体操の足の位置だよ。

よく、肩幅とか言われるけど、

肩幅は人によるし、開くと、広すぎて身体の外のラインが、くの字になる。」

生徒会長の身体で指差して見せる。

「くすぐったかったかい?」

身をよじる会長。

「今度は、足を揃えてピッタリ付けると、細くなり過ぎて、安定しないよね。」

身体を揺らされ、ふらついてしまう会長まぁ、生徒会長は朝礼台に上がる前から、デレデレでフニャフニャしてた。


「それでは、両手をグウにして、靴の間へ入れてみて、、、皆さんもするよ。」

今度は身体の外ラインは真っ直ぐになる。

「そのまま、しゃがんで」

「膝が、真っ直ぐ前方向に出るの判るかな?」

確かに、この足幅以外では、膝の向く方向は真っ直ぐ前には向かないのだ。


「では、ラジオ体操やって見せて」

一通りラジオ体操第一を全校生徒と先生でやった、、、


「うん!皆さん出来てます。良いですよ。

でも、一点だけ、、、

と、その前に、ラジオ体操は何処で生まれたか判りますか?、、、」

生徒達には何を聞かれたのか良く分からない。


「いや、質問が難しいのかな?

では、ラジオ体操を作るのに私は何処へ行ったのでしょうか?」


「学校?」

「小学校」

「多分、ちゅうがくってとこじゃないかな?」

生徒達には「学校」しか思い付かない。


「学校。うん、学校も2回程行ったかな、でも、一番行ったのは「工事現場」です。」

子供達には工事現場は判らなかった、見たことも無いし、立ち入る事の無い場所、想像も追い付かない。


「工事現場にはこんな掛け声があります。」

左足を前に、右手の人差し指を地面に差し、

「手元、足元ヨシ!」

約500メートル程先にある麓から高さ30メートル程度しか無い禅台寺山にこだました。

もちろん、あの声である。


生徒、先生方もキョトンってなった。


「私はラジオ体操の依頼を受けた時、この体操が、どんな人に必要なのかを考えた、そう、毎日身体を使い働く人、その人達の準備運動として、この体操をつくりました。」


「ラジオ体操の中に、手足の運動その2があります。この体操は手足と名は付いていますが、実は首の運動です。」


「そう、手を下、肩、上にを繰り返す運動です。ひょこひょこ手を上げ下げするだけで無く、最初は足元を見て、正面、挙げた手、、、

ラジオ体操の殆どは手元や足元を目で追う様にすれば、綺麗に決まる様に設計しました。」


私も、この日の出来事全ては覚えているわけでも無い。

ただ、私の記憶に強くこの時の話しが残っていたのは、この部分を、工事現場を知らないがゆえ、この場の誰もが理解して居ない様に思えて、疑問と違和感を残したのだった。


後は生徒達の質問で、こんな話があったと思う。


「体操に合わない曲があるんです」

「ごめんなさいね。曲はピアノの先生に4拍の繰り返し曲を幾つか頼んで、後から体操を組み込んだので、上手くスピードを合わせて

ね。あと、人の身体の柔軟性、、、柔らかさは人それぞれです。アレンジしても良いので、柔らかくなるのを心がけていれば、準備体操としては良いのです。」


「何でラジオの声と普段の声が違うのですか」

「ラジオはね、、、」

少し照れ臭い仕草。

「緊張するの、、、だからあの声なんだよ。」


「最後にラジオ体操は上半身には良く作られているけど、下半身には余り柔軟になっていないので足の運動を補足してほぐしてね。皆んな元気で、、、」

結局最後迄、名前を名乗らず、朝礼台を降りてしまうのだった。


私は、この時の出来事、特に「手元、足元ヨシ!」が、耳に残りそして数十年の時が経った。

あの日から40年、私は大手ゼネコン各社と共に仕事をする事となった。


何処の工事現場の所長さんも、ラジオ体操を重視していて、必ず朝に行う、いい加減な体操をしていると、やり直しを命じる事さえあった。

真剣に体操しない言い訳は主に、ラジオ体操が夏休みの宿題みたいで恥ずかしいってのが多かった。


そして、あの掛け声「手元、足元ヨシ!」を毎日の様に、、、


今更ながら、身に染みて解ったあの時の言葉の意味、身体をほぐして居ないと、いざ危険を回避しようにも、身体が動かない、背骨や首、手足の可動域が広がる事で、咄嗟に回避出来るしなやかさ、体操しているか、していないかでは反応スピードも、可動域も全然違う。


況してや、工事現場次第で人体への危険性は一般の仕事とは比較にもならない。

工事現場では、ヒヤリハットと呼ばれる、危険の抽出アンケートがある、、、しかし、作業員の殆どがコレに協力的では無い。

本当は経験あるけど、アンケートに書く事で詳細を聞かれ、問題点、対策、注意喚起等面倒が増える事を知っているからだ。


危険予知、安全規則等ルールは年々増えていく、それでも、事故は少なくなっても無くならない、、、


そもそも人間の視認する速度は大差は無いのだろう、事故や怪我を回避又は軽症に出来るのは、手元や足元に気を配る事、柔軟性の大切さなのだと。


これらを踏まえて、天文学的数式を、、、

ラジオ体操する人✖️日✖️年

何人、何日、未来永劫マスターは、、、


あの日以来、私にはもう一つ疑問があった、普通あんな急に全校集会は開かれない、、、

お金にもならないのにマスターはなぜ?と、、、


これは想像でしかないが、マスターはあの日飛び込みで小学校にやって来たのでは?


最近に知った事だが、体操や、歌のお兄さんお姉さんは専属契約でお金は多く貰えるが、契約期間中は他の仕事が出来ないし、契約以外やらなくて良いのだと、、、


私はマスターの名前を知らない。

多分、当時の国民の殆どが、声を知っていて名前を知らない有名人だろう。

今なら、ネットもあるから、調べる事は容易だろう、当時の私は多分四年生、約50年間、今まで一度も調べなかったし、例えば誰かが私に伝えようとも、マスターの名前を覚える事はこれからも無いのだろう。

マスターはそんな事を望んではいないのだ。


「私の名前はどうでもイイ、、、」



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