0-0.鼓動
彼は灯台の地下で目を開けた。
隣には仲間達がまだ静かに寝ていた。
久しぶりに動かす体はなんだか軋む。しかし、流石自分の体だ。もうしばらく体を動かせばまたいつものように活動して行けるような気さえしてくる。
「この調子なら、まだ持つか」
そう独り言を言って立ち上がった。少し歩くと、暗い部屋に勝手に明かりがついた。
目の前に広がる、まだ綺麗な状態で動いている計器類に目をやる。誰かがきちんと定期気にメンテナンスをしてくれているようだ。
しかし、その計器は何も示していない。つまりそれはそこに生命の反応は無いという証明だ。
――まぁ、そうだよな。人類は存在していないよな。
それだけじゃない、外はとても静かだと、その計器は教えてくれる。
動物の声はしない、鳥のさえずりも聞こえない、虫の囁きも聞こえていない。
履歴には、海の波の音が何千何万、何億回とただ連続して続いている。
命の気配は今だ消え去ったままだ。
しかしここを守るための外の環境は未だに保たれている。大きな災害はまだ起こっていない。
それでも100年以上大災害が起こっていないとなると、少し不安にもなる。
――もうそろそろなんだろうな。その時だけは皆で起きて、みんなで頑張らないとな。
仲間と顔を合わせることが出来る時といえばそんな緊急時のみであろう。
彼は少し歩くと、目の前にある機械に目をやった。
――これが一回目の鼓動。
彼がその機械に触れて、そこに自らの鼓動を残す。
その機械は鼓動を受け取り、その鼓動は地上の灯台から世界へと広がってゆく。
しばらく時間が過ぎると、この星でまだ生きている彼の仲間達は、寝ている者でも起きている者でも関係なく、それを受けとり、時が過ぎたことを知る。
仕事は終わった。また寝て、次も必ず起きないといけない。
今は命の気配が無かったとしても、この先に紡ぎ、微かな火を消さずに灯し続けることが、彼らが彼らの父であり母である人類と交わした約束なのだから。




