足手まといだと言われて冒険者パーティから追放されたのに、なぜか元メンバーが追いかけてきました
「ユウト。正直にいうけど、最近のあなたは足手まといになっている。もう、ここらへんが限界だと思う」
静かなだけど重みのある声で切り出したのはリリカだった。
その重々しいトーンは、この話が決して冗談じゃないことを物語っていた。
「そうですわね。このまま無理したらユウトは死んでしまうんじゃないかしら」
そこにメリッサも同調する。
口調こそは優しいが、その瞳には僕に対する哀れみのような色が滲んでいる。
「俺も……お前を守りきれる自信がないぜ」
意気消沈したかのようにルチアが呟いた。
いつも明るくムードメーカーな彼女。そんなルチアですら、この瞬間は覇気がなかった。
僕たち4人は冒険者だ。
パーティのリーダー兼アタッカーのリリカ、メイジのメリッサ、タンクのルチア。
そこにヒーラーの僕を入れた4人で組んだ冒険者パーティ。
だけど、問題があったのだ。
僕と彼女たちの実力には深い溝があったせいで……
彼女たちとは初めから実力の差があった。だけど僕は伸び盛りだし、そのうちに追いついていけばいいと思っていた。彼女たちもそう言ってくれていたというのもある。
彼女たちの実力もどんどん伸びていく。その結果、僕は……彼女たちにずっと追いつけなかった。
3人の実力に合わせた依頼を受けると、僕だけが足を引っ張ってしまう形になる。
もちろん、努力しなかったわけじゃない。
みんなに追いつこうと精一杯、死ぬほどがんばった。
でもダメだった。
――僕には才能がなかった、ただ……それだけの話だ。
「私、リリアがリーダーとして宣言する。ユウトはここでパーティから外す」
ここが僕の引き際なんだろう。
いずれこうなるんじゃないかという予感はあった。
実際にその時を迎えると、思ったより精神的なダメージが大きいみたいだ。
「うん、わかった。今までありがとう。楽しかったよ……」
「私も」
「わたくしもですわ」
「俺だって」
この3人と活動することができなくなる、そう思うととても寂しかった。
彼女たちと冒険者として過ごした2年間、本当に楽しかった。
実力に合わせた依頼を受ければ、僕でも冒険者としてやっていけるのは分かっている。新しいパーティに加入する手もある。
でも、僕の冒険は一旦ここで終わりにしよう。
とてもじゃないけど、こんな沈んだ気分で冒険者は続けられない。新しいパーティに加入するなんてとても無理だから。
「話は終わりかな? じゃあ、僕は部屋に戻るよ。またどこか出会えた時はよろしく」
いつも明るい3人なのに不気味なくらい無言だった。
みんな思い詰めた様な表情をして、伏し目がちになっていて……こんな彼女たちを見たことがない。
僕が不甲斐ないせいで、彼女たちに気まずい思いをさせてしまっているのだ。
そう思うと本当に胸が痛い。
お荷物の僕は早く立ち去るのが彼女たちのため。
僕は彼女たちに「さよなら」を告げて、この部屋を後にした。
◆
ユウトが部屋を退出したのを見送ると、私はホッと一息をついた。
――ここまでは計画通り。
これでユウトを死なせずに済む。
「これで良かったと思う」
私たちがいくら言っても聞かず、無理に高難度の依頼を受けてしまうユウト。私たちに合わせようと必死になっていたのだろうけど、あのままでは彼が死んでしまう。
「そうですわね」
「ああ……」
メリッサとルチアも同じことを感じていたようだ。
ユウトを守るために芝居を打つ必要があった。
後衛職であるユウトはどうやっても戦闘に関する実力は私たちよりも下。でもそれは、戦闘職じゃないから仕方ないし、ヒーラーなら普通のこと。
決して恥じることじゃないし、男だからって無理して戦おうとしなくていいのに。
ユウトはヒーラーとしての能力が高く、そこそこ前衛で戦える貴重な存在。そんなユウトが足手まといなんてことは断じてない。
私にとって1番の問題はユウトが死んでしまうこと。
ユウトをスカウトしたのはリーダーの私だ。彼は少年のようなかわいさを残していて、冒険者としてやっていけるのか不安もあった。
それは杞憂だった。
ユウトは私たちに追いつこうと常に努力を怠らなかったし、私たちに優しかった。結果としてユウトを加えてからパーティーの雰囲気は明るくなった。
彼の優しさをメリッサとルチアも好意的に受け止めているのは見れば分かる。いつの間にかユウトは、私たちの怪我だけでなく心も癒やしてくれる、そんな存在になっていたのだ。
私にとって、ユウトがメンバーという枠を超えて大切な存在になるまでに時間はかからなかった。
かわいいユウトを死なせたくない。
大好きなユウトを死なせたくない。
そう思うと、冒険者という危険な生活を続けるのが苦しくなってきて……
ユウトを死なせないためには、冒険者をやめて貰うしかなかったの。
もちろんコレは私の独断。
メリッサとルチアには私の真の計画を知らせていない。
でも2人はユウトをパーティから外すことに対して賛成してくれたから、彼女たちも私と似たような事を考えていたのだろう。
絶対に先をこされるわけにはいかない。
ユウトの性格上、明日には実家に帰るはず。
ルチアは単純でイノシシ女だから何するのかだいたい分かるけど、メリッサは考えが読めない。メイジだからか変に頭が回る。私が警戒すべきはメリッサだろう。
仕掛けるなら万全を期すべき。
「じゃあ、解散にしよう。それとしばらく活動は休止しようと思う」
私はそう告げて席を立つ。
「ええ、わかりましたわ。そのほうがわたくしも助かります」
「そうだな……俺たちには、少し時間が必要だ」
メリッサとルチアも納得してくれたようで、その場はお開きになった。
さて、彼女たちを出し抜くために……早く行動を開始しないと。
◆
あのリリアがユウトをパーティから外すなんて言いだした時は正気を疑いましたわ。
それでも、よく考えたらユウトを死なせたくなかったのでしょうね。
ふふ、リリアったら単純なくせに色々考えちゃうのね……。
今頃、私を出し抜こうとか考えているんじゃないかしら?
でも、もっと単純なのはルチアよね。
彼女、自分の感情に素直だから。その単純さが、逆に読めなくて恐ろしいのだけれどね。
はぁ……やっぱり、ユウトみたいに話せるタイプって良いわよね。
ヒーラーなだけあって魔術に関しても詳しいのも最高。
『メリッサの優しい喋り方って、すごく癒やされるよね』
『メリッサが魔術を使う時は凛々しくて、つい魅入っちゃうんだ』
もうこれ、私に惚れてると考えていいのよね。
『今日の料理当番ってメリッサだよね。すごく美味しいね。毎日でも食べたいくらいだよ』
ああ……これは『婚約しよう』って意味ですわね。
可哀想に、きっと今頃落ち込んでいるでしょうね。
でも大丈夫ですよ、ユウト。
わたくしが、すぐにそちらに向かいますからね。
◆
明朝、僕は昨晩まとめておいた荷物を持って馬車を探して宿を出た。
行き先はもちろん、フォールンにある実家だ。
一度、実家に帰ってゆっくりしようと思う。両親とも久しぶりに話をしたい。
父さんと母さん、いきなり僕が帰ってきたら驚くだろうな。
色々と考えながら馬車乗り場へ向っていると、見知った人影が目に入った。
引き締まった身体にショートカットの赤い髪の女性……ルチアだった。
でも……なぜこんなところにルチアが?
「ようユウト。お前、実家に帰るのか?」
「うん、そのつもりだよ。王都には思い出がありすぎるから」
楽しかった思い出にすがっていたら、僕はきっと一歩を踏み出せない。このままダメになってしまいそうだから。
「そうか……その……」
何かをいいかけたみたいだったけど、ルチアは下を向いてしまった。
ルチア……思えば僕は、彼女にさんざん助けられてきた。
彼女はタンクという役割柄、誰よりも怪我をする。僕が回復魔法を使った相手として真っ先に思い浮かぶのはルチアだ。
その代わりかもしれない、ルチアにはいっぱい守ってもらった。僕たちは互いを守り合う関係で、なにかと関わりが多かったんだ。
そんな相棒のような女性だったルチアが、僕に言った。
「なあ……俺も、ついて行っていいか?」
「でも、僕クビになったんだよ?」
「…………」
一瞬、聞き間違いかと思った。クビにした男についてくるなんて、ビックリするよ。
でもルチアの眼差しは真剣でとても冗談には思えなかった。
「それに僕の実家、結構遠いよ? パーティはどうするのさ。ルチアがいなくなったら2人も困るんじゃない?」
「パーティはしばらく活動休止だ……問題ない」
「でも…………」
僕の実家は田舎だ。行ったところで何もすることなんてない。わざわざどうして?
「俺っ……俺はユウトが好きだ!」
「え……本当に?」
「本当だ」
突然そんなことを言われても信じられない。僕はみんなから見捨てられたんだよ?
「だって昨日は『お前を守りきれる自信がない』って……」
「あれは……! ユウトを失うことが怖かったんだ」
「てっきり僕は見捨てられたのかと……」
「そんなわけ無いだろ。俺は本気だ。お前と離れたくないんだ!」
「うそでしょ。ルチアが……僕を?」
「本当だ、頼む! 俺を一緒に連れてってくれ。俺はお前が好きなんだ……」
目を潤ませたルチアが懇願するように手を握ってくる。
彼女らしい熱い告白だった。真っ直ぐな彼女の気持ちが伝わってくる。
「そ、そうだ。連れて行ってくれるなら交通費は俺が払う。こう見えても金はしっかり貯めてきたんだぞ」
「ルチア……お金は払わなくていいよ」
「そうか……そうだよな……こんなガサツな女なんて、好きになってくれるわけないよな。ハハッ、馬鹿だよな俺」
寂しそうにそう言うと、ルチアは僕に背を向けた。
あーこれ、勘違いしてるやつだ。
「まってよ。そういう意味じゃない」
誤解して帰ろうとするルチアの腕を掴んで、慌てて引き止めた。
振り向いた彼女の目には薄っすらと涙が滲んでいて、思わずドキッとしてしまう。
「か、彼女との……初めての旅だったら、彼氏である僕に、お、奢らせて欲しい……なと思って」
「ユウト……お前、それって!」
「うん。ルチアのことはす、好きだよ。でも、まだルチアのことを女性として好きかどうか、本気なのか、よくわからないんだ」
「お、おう。そうだよな。突然だしな」
「でもそれは……! これから気持ちを育んでいけばいいと思って。こっ、こんな僕で良ければ、よろしくお願いします」
「ユウトっ!」
「ぐはっ!!」
力のあるルチアが勢いよく抱きついてきたから思わずよろけてしまった。それでも僕はなんとか彼女を受け止めて、男としての役割を全うした。
彼女の体温と柔らかさが、じんわりと伝わってくる。
男っぽい喋りかたでショートカットのルチア。
よく鍛えられた引き締まった身体をしているけど、見た目は……全然男っぽくない。
むしろ抜群のプロポーションなので、その……セクシーなお姉さん系だったりする。
そして彼女は胸が……人よりもかなり大きい。
さっきからルチアの身体でも1番柔らかい部分(え~と、その、胸です)が、グイグイと僕に押し付けられていて……なんていうか幸せで……もう本気で惚れそうです。
落ち着け僕、こんなことでグラグラしてたら彼女に申し訳ないぞ!
◆
実家へ向かう馬車に乗っている最中は、ずっとユウトと手を握っていた。
これが恋人か……ドキドキするぜ。
せっかく2人きりだと言うのに緊張して喋れやしない。
俺にできるのは手を握ることくらい。それでも恥ずかしいのに……まあ充分幸せだけどよ。
ユウトの体温が、掌と指を通して伝わってきやがる。
コイツの手は冒険者としては柔らかくてきれいだ。
はっ!?
俺のゴツゴツした手なんか握らせちゃって、大丈夫かよ?
まさか。き、嫌いになったりしないよな?
心配になってユウトを見ると、視線に気がついたのか俺と目が合う。
「どうしたのルチア?」
「な、なんでもねえよ……」
っ~~!! 目があった途端これだよ。恥ずかしくってまともに喋れねえぞ。
くそ、どうしちまったんだよ俺。さっきまであんなに気軽に話せてたってのに。
もう顔が熱いのなんの。赤くなってないか気になるじゃねえかよ。
「実家についたらルチアのこと、その……両親に紹介するね」
「そ、そ、そうか。よろしく頼む……ぜ」
マジか。両親に紹介……? やべえ、もっと緊張してきた。
でもよ。ここで好印象を残せればさ、もしかしたら……お、お嫁さんになんてことにも、なるんじゃねえの??
「お、俺は、その、お前とずっと一緒にいるつもりだから……そうしてくれると嬉しい、ぜ」
「うん」
ユウトは顔を真赤にして、そう言って微笑んでくれた。
何だこの生き物……かわいいだろうがよぉぉ。
くう~、早くユウトの家に着かねえかな。両親にも俺を認めてもらいたいぜ。
◆
「ただいま」
「あらユウト! 突然どうしたの?」
「あの、実は冒険者やめようかと思って」
「そう、大変だったわね……」
母さんは深く追求することもなく僕を受け入れてくれる。コレが家族の優しさか。
「しばらくうちにいてもいいかな?」
「もちろんよ。遅いわって話していたところなの」
「母さん、実は紹介したい人がいて、こちら恋人の……え? 遅い?」
「そうよ。婚約者さんが先に来て待ってるんだから。お父さんも喜んじゃって大変なのよ」
「はあ!? 婚約者?」
母さんは言いたいことだけ言って中に入っていった。
玄関前に残されたのは僕と……激昂したルチア。
「おい、ユウトぉ……どういうことだ!? まさか、俺はお前に騙されて……」
怒ったと思ったら、今度は泣き出しそうになっている。
いやいやいや。僕は無実だって!
「ち、ちがうよ。婚約者なんていないし! 彼女だってルチアが初めてなのに!」
「そ、そうか。じゃあ……何なんだ?」
何なんだと言われても……全く心当たりがないんだけど。
「先に入って確かめてくるよ。もしかしたら母さんたちが詐欺師に騙されてるのかも」
「なるほど……じゃあ、俺はここで見張っておくぜ」
ルチアを残して居間に行くと、父さんと若い女性が談笑していた。
相手はうっすらと紫がかったロングヘアーで上品な話し方の女性。
この人が詐欺師……ん? 聞き覚えのある声のような?
「おお、ユウト帰ってきたか! こんなべっぴんさんを捕まえるなんてお前やるな」
父さんが陽気に笑っているけど、とても笑える状況じゃない。
その人は詐欺師なんだってば。
あれ? いや、でも……この後ろ姿……誰かに……似てる……気がする。
僕の勘違い? だってその人は……こんな場所にいるはずがない。
戸惑いながら身構えていると、女の人が振り向いて僕に話しかけてきた。
「あら~ユウト、おかえりなさい。ちょうど、お義父様とお義母様にご挨拶していたところですの」
「メリッサ!? どうして僕の家に?」
「どうしてって、わたくしたち婚約者じゃありませんか。ご両親にご挨拶するのは当然のことですのよ」
上品に微笑んだメリッサが、右手の指輪をキラリと光らせた。
ピンク色の宝石があしらわれた高そうな指輪だ。
それを見た僕は言葉を失ってしまった。
へえ。僕……いつの間にかメリッサと婚約してたのか。知らなかったなあ。
きっとあの指輪って僕がメリッサに買ったんだよね?
でも、いつ買ったんだろう?
全く覚えてないや。初めて見る指輪だなあ。ハハッ。
もしかして僕、記憶障害でもあるのかな。
「ささ、恋人さんもどうぞゆっくりしてくださいな」
「いや、でも俺は……」
僕が言葉を失っていると、母さんが外に待機していたルチアを強引に連れて来た。
そして2人が出会ってしまった。
「「あぁ!?」」
目があった2人は瞬時に一触即発の空気を作り出した。
だけど、その空気をまったく読めない人がいた。
「おお、こりゃ……またすごい綺麗な人じゃないか。ユウトはモテモテだな。父さんびっくりだぞ。はっはっは!」
ちょっ、やめてくれ父さん。これ以上、2人を煽らないでくれ……。
「どうしてユウトのご実家にルチアがいますの?」
「そりゃ、こっちのセリフだぜ、メリッサ」
「ところで恋人ってなんですの?」
「はあ? そのままの意味だが。メリッサこそ婚約者なんて、どういうだよ。あぁん?」
ほら! 2人がバチバチし始めちゃったよ。父さんも笑ってないで止めてくれ。
はやく、どうにかしないと……。
カオスな空気が漂う部屋に、コンコンと扉をノックする音が割り込んできた。
「あら、今日はお客様が多いわね」
そう言うと母さんは玄関に向かっていく。
お客様が多い……だって?
やめてくれ母さん。扉を開けちゃダメだ。もう嫌な予感しかしない。
そんな心の声は届かず、母さんは扉を開けてしまう。
「はじめまして、お義母さん。私、ユウトの妻のリリカと申します」
「ユウト~。お嫁さんが来たわよ!」
なんと、僕にはお嫁さんがいたそうだ。世の中は知らないことでいっぱいだな。
というか、なんでリリカまで僕の家に。僕、君たちのパーティから外されたよね?
それなのにメンバー全員が実家に揃うとか意味不明すぎるんだけど。
僕は初めてできた恋人を両親に紹介しようとしただけなのに……なんでこうなった?
「婚姻届に不備があったので、書き直してもらいに来たんです」
「あら、そうなの。わざわざご足労頂いちゃって、ごめんなさいね~」
「いえ、お義母さまが謝ることじゃありません。私たちの幸せのためですから」
そうだよ、母さん謝らなくていいから。だって僕、そんな書類書いた覚えないんだけど。
いや、それよりもだよ?
恋人と婚約者とお嫁さんがさ、同時にいたらおかしくない?
お願いだからそこを疑問に思ってよ、母さん!
それに、もしその異常な関係が事実だったとしたらさ。まず息子を叱ろうよ……とんでもない悪い男じゃん。
ああ、いや……事実じゃないよ。無実だけど。
「ん? なんでメリッサとルチアがここにいる?」
居間に来たリリカが、メリッサとルチアがいることに気がついたようだった。
「リリカ。お前、なんでユウトの家に来た?」
「私はユウトの妻だからここにいるのは変じゃない」
「ふふ、婚姻届けは受理されていないのでしょう。まだ妻とは言えないんじゃなくって?」
そうだよ、さすがメリッサは頭の回転が早い。
だが、リリカも負けていなかった。
「ユウトにサインさせて提出するだけだから、もうほとんど妻」
サインさせる……か。そっか、僕はリリカに力じゃ勝てないもんね~。
あれれ?
なんだろう、無理やりサインさせられる未来が見えるぞ?
「わたくしがそんな暴挙を許すと思いますか?」
「俺もだぜ。ユウトの正式な恋人として見過ごすわけにいかないなぁ!」
「「正式な恋人?」」
一瞬『リリカ VS メリッサ&ルチア』という構図になりそうだったのに、ルチアが爆弾を投下して様相が混乱していく。
「そういうことだ。お前たちと違って『捏造や妄想』の関係じゃねえってことだ」
「ふーん……」
「あら、そうですの……」
3人の目つき、やばくない? 殺し合いでも始めそうなんだけど。大丈夫だよね?
この場で楽しそうなのは父さんと母さんだけ。
空気読めないよね~この2人。昔からかわらないなあ。
「それで、ユウトとはどこまで進んだんですの?」
「まさか……もう蹂躙し尽くした?」
「いや、まだ手……握っただけだ」
「ふーん……」
「まあ、ウブですこと」
照れながらルチアが言うと、リリカとメリッサは余裕を取り戻したみたいだった。
いや、リリカさん。蹂躙ってなんなのさ。言い方ぁぁ!?
というかさ、誰もそこにツッコまないのはなぜぇぇぇ?
僕は助けを求めようと、父さんと母さんに視線を送る。
「母さん、これならすぐに孫の顔を拝めそうだな。しかも3人ともとんでもない美人だ。いや~うちの息子はすごい男だな。鼻が高い」
「ええ、そうですねお父さん。私、初孫は女の子が良いわ」
「だそうだ! 頑張れよユウトっ」
だめだ……父さんと母さんは当てにならない。
この状況でどうしてこんなに呑気でいられるんだ。「ファイト!」じゃないんだよ、全く。
この3人の雰囲気は最悪。家の中で暴れられたら、大変だ。
高ランク冒険者がバトルなんてしたら、あっという間に廃屋になってしまうぞ。
ここは僕がなんとかしないと……。
「あ、あの……話し合いなら外でしようよ!」
僕は恐る恐る3人に提案する。『お前は黙ってろ』とか言われそうな展開なので、内心冷や汗ものだった。
「ん、そのほうが無難」
「そうですわね。そのほうが賢明ですわ」
「ああ、ここじゃ狭くてやりづれぇしな」
僕の予想と違い、3人は素直に提案を受け入れてくれた。よかった。
いやでもさ、外に出たところでヒリつく空気は変わらないよ~。
「ユウトは私が好き放題にすると決めている」
「リリカに取られるくらいなら、俺がユウトをめちゃくちゃにしてやるぜ」
「あら、わたくしがユウトに新境地を教えて差し上げる予定ですのよ」
あれ……なんだろう。3人の話を聞いていると僕の心もヒリついてくるから不思議だ。
「じゃあ、誰がユウトにふさわしいか決めよう。勝負を提案する」
「ええ。望むところですわね」
「ああ、いいじゃねえか。やってやるよ」
ギラついた目でお互いを牽制し合う3人。
なんでこうなった??
どうしてこんな状況になったんだろう。
僕の分かるのは、彼女たちが心に炎を灯らせているということだけ。
どんな勝負が始まるのか……それは彼女たちにしかわからない。
外に出たからってさ、Aランク冒険者が暴れたら家がめちゃくちゃになっちゃうよ。あたり一面焼け野原だよ?
この状況はまずい。でもみんなは臨戦態勢だ……。
「ねえ~ユウト。ちょっとお買い物頼めるかしら? せっかくだから4人でいってらっしゃいな~」
玄関から母さんの間延びした声が聞こえてくる。
母さんにはこの雰囲気がわからないらしい。平和だね……
「みんな泊まっていくんでしょう? 夜ご飯の買い出しに行ってきて欲しいのよ」
何言ってるんだよ、母さん!?
こんないがみ合ってる3人が家に泊まる? そんなわけ無いじゃないか!
「わかりましたわ、お義母様」
「俺達に任せてくれ……ください、です」
「お金なら私たちで出しますから、大丈夫です」
え? うそ。なにこの連帯感?
3人が笑顔で答えたのを見て、僕は何も言えなくなってしまった。
「あら、わるいわね。良いお嫁さんたちじゃないの。大事にするのよ」
「う……うん、そうだね母さん」
良いお嫁さんたち? えっと~、僕って3人と結婚するの?
「…………一旦、休戦協定を結ぼう」
「ふふ、そうですわね」
「ああ、おもしろくなってきたところだけど……仕方ねえよな!」
なぜか3人とも嬉しそうだ。もう意味がわからない。誰か正解を教えて下さい。
僕が放心していると、リリカが率先して母さんから買い物カゴを受け取った。
「じゃあ、行ってきます」
「ええ、気をつけるのよ」
「もちろんですわ」
「ユウトは俺が守ってやる……なんです」
「それじゃ、よろしく頼むわね」
母さんはそう言うと、のほほんと家の中に入っていった。
僕は3人の顔を伺うが、さっきまでのピリピリした雰囲気はまったくない。
「ユウト、道案内をお願いしたい」
「そうですわね。わたくしたち土地勘がありませんものね」
「そうだな。はやくこの村に慣れたいところだぜ」
「うん……分かったよ」
あれ? 修羅場は切り抜けたみたいだけど、なんか雰囲気がおかしいぞ?
「わたくしたち、お嫁さんですもの」
「そう、私はお嫁さん」
「はあ、俺だけのユウトだと思ってたのによぉ……」
ん? あ? ええ? おぅ?
さっきまでの殺伐とした感じはもうない。それはそれでいいんだけど、みんなどうしたの?
「ずっとこうなる気はしてたんだよな~」
「ルチアに出し抜かれるとは思いませんでしたけどね」
「出し抜いてない。ただ手を繋いだだけ。まだ挽回できる」
「ああ? 俺は恋人だぞ!」
「今はわたくしたち、お嫁さんですわ。同じスタートラインです」
「くっ! 手を出しとけば良かった……」
僕は悟った。
彼女たちは僕を追放したんじゃない。
僕を「誰にも邪魔されない安全な場所」に追い込んで、一気に囲い込みに来ただけだったんだ。
才能がなくても、みんなに追いつけなくても、どうやら僕は、選ばれる側になれたらしい。
でもコレって……修羅場ってやつなんじゃ??




