残酷な天使の……
人間暦2026年、下級天使たちが人間の街を破壊し尽くすのを見下ろしながら、上級天使たちは白い部屋で談笑していた。
「あはっ! 見てよ、あの人間、空に向かって祈りを捧げてるよ」
「僕らに救いを求めているんだね。アハハッ!」
「おまえらの信じる神なんていないのに」
「存在するのはおまえらに罰を与える僕ら天使だけだというのに」
残酷な天使たちは皆、片手にテンペを持ち、生でちびちび齧っていた。ちなみにテンペとは納豆に似た、インドネシアの食べ物である。
「ところで俺たち、なんでテンペ食ってんだ?」
「さぁ……?」
「知らん……」
食欲が止まらなかった。
天使たちはそれぞれの手に持ったテンペを生のまま、貪るようにちびちび食った。
「食欲が止まらんのよ」
「人間が滅びて温暖化が止まったからかな?」
「いや、そんなのもう百年はかかるよ……うっ!?」
天使たちが喉をおさえて苦しみはじめた。
「こっ……、これは……」
「テンペに毒が入っていたのか!?」
「大体、このテンペ、持ち込んだの、誰よ?」
「それは私です」
そう言って、インドネシアの全知全能の神、サン・ヒャン・ウィディ・ワサがにっこりと手を挙げた。
「誰?」
「誰よ?」
「誰なん?」
「サン・ヒャン・ウィディ・ワサと申します。神です、絶対にして唯一の。以後、お見知りおきを」
「サン……?」
「ヒャン……?」
「ウィキペディア……?」
「わさび……?」
「私のことはご存じなくとも、この三神のことはご存じでしょう?」
サン・ヒャン・ウィディ・ワサがそう言い、両手を広げると、そこに有名なヒンディー教の三神が出現した。
破壊神シヴァ!
創造神ブラフマン!
生命神ヴィシュヌ!
「あ……、知ってるー」
天使たちが明るく笑う。
「メガテンとかによく出てくるよねー」
「かっこいいー」
唯一神サン・ヒャン・ウィディ・ワサはその顔に少し嫉妬の色を浮かべながらもにっこり笑うと、天使たちに聞いた。
「ところで天使たちよ、テンペの毒にやられたのではなかったのかな?」
「あ! そうだった……」
「ぐぉえ!」
「ひでぶ!」
天使は皆、見た目が少年だった。
少年は神話になった。
そして大宇宙を抱いて羽ばたいた。
その茶番を見ながら、シヴァ、ヴィシュヌ、ブラフマンたちは声を揃えて言った。
「おそろしいテンペだ」
「テンペだ」
「ペテンだ」
地上では人間たちが相変わらず苦しみ続けていた。