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救済の闇  作者: ケイ
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絶命した、レオナ。

その亡骸に少女は呟く。


「よかった。ね」


「あなたも、すくわれて」


響く少女の声。それは無機質そのもの。

まるで道端に転がる石に語りかけるかのような、そんな声の質だった。


立ち上がり、少女は振り返る。

己の闇に埋もれた双眸。そこにアレンを宿し、少女は自分の胸に手をあてた。


つたわる、小さな鼓動。


"「ーー。ごめんね、ごめんね」"


少女の記憶の片隅。

そこに残る、だれかの謝罪。

その謝罪はとても辛そうで、とても悲しげだった。


「どう、して。あやまるの?」


朧げな記憶。

少女はそれに問いかける。


「なにも。わるいこと、してない」


「ただ。ちょっとだけ、おかあさんは。とおくにいくだけなのに」


口をついて溢れる、少女の"置いて行かれた"時の思い。


「おなか。すいたな」


「おみず。のみたい」


「おかあさん。おそい」


「おじさん。だれ?」


「わたしをどこに。つれていくの?」


こぼれ続ける涙。

壊れた蛇口のように。涙は少女の闇色の瞳からぽたぽたと滴り続ける。


ふらふらと。


少女はアレンの元へと帰ろうとする。


唯一のつながり。唯一の、救い。

たとえそれが、闇による【救済】だとしても、少女にはもうそれしか残されてはいなかった。


だが、その歩みは止められる。


「とまれ」


少女の脳内。

そこに響く声。


止まった、少女の足。

いや、止められた。


そんな不自然に、アレンは自身に力を行使した。


【救済】


【未知の力を知らぬことから】


瞬間。

アレンは、少女に触れた力の質を知る。


「言霊の類」


力を知り、瞳に闇を瞬かせ、アレンは更に意思を表明する。少女に向け、躊躇いなく。


【救済】


【言霊の影響から少女を】


「レオナを殺ったのはーー」


おまえか?


三度、少女の中に響かんとしたその声。

しかし、その姿無き"声"はアレンの意思により遮られる。


止まれ。

という命令。

それを、アレンの【救済】によって解かれ、少女はアレンの元へと駆け寄る。


アレンに縋り、足元で震える少女。

だが、アレンの意識は既に奴に向いていた。


声の主は姿を現す。

レオナの亡骸。

その後ろに続く、月に照らされた道の奥から。


レオナと同じ銀髪を揺らす男。

腰に剣を携え、その容貌はどこか底知れぬ雰囲気を纏っている。


アレンは、男を見る。

そして、淡々と力を行使した。


【救済】


【耳障りな声から】


アレンの耳。

そこにまとわりつく、闇。


「動くな」


アレンに言霊を下す、男。


「指一本も動かせないはずだ。俺が直接、声をかけてやっているのだから」


「……」


ただ静かに男を見据える、アレン。


「最後に名を覚えておけ。クリス。それが、俺の名だ」


剣を抜き、クリスはアレンとの距離を詰める。

一気に。風さえも置き去りにして。


アレンは、動けない。

そう確信して。


そして、アレンの眼前に身を置きーー


「死ね」


と、クリスが忌々しく吐き捨て瞬間。


「てめぇが死ね」


アレンは呟き、容赦なく、クリスの顔面に闇を纏った拳を叩き込んだのであった。

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