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〜〜〜


「あの奴隷。まだ、この街にいるのか?」


街一番の大商人ダーゴ

その屋敷の中にある豪奢な部屋。

そこに、不機嫌な声が響く。


「はい。どうやら、未だ」


従者は応える。


「さっさと殺せ。いつまでもこの街に居座られては、俺の評判が下がる。未だあの薄汚い奴隷に慈悲を抱いているのではないか……とな」


雨が降りしきる街並み。

それを大きな窓から見つめ、ダーゴは眉間に皺を寄せる。

体格は太く。見るからに、私腹を肥やした見た目がそこにはある。


「俺の傭兵共はどうした? クリスとレオナはどこにいる?」


「只今、近郊の調査に」


それを遮ったのは、扉が開かれる音。

そして響く声。


「ただいまー。一攫千金はできませんでした」


「……」


不満げなレオナと、無言を貫くクリス。

微かに濡れた二人がそこに居た。


「なにをしていた……いや、それより。今は」


ゴーダは振り返り、二人に命を下す。


「金は弾む。さっさと仲間を引き連れ、この奴隷を始末してこい。俺の評判が下がらぬうちな」


忌々しげに懐から紙を出し、二人に投げ渡すゴーダ。

その紙には、一人の奴隷少女の姿が鮮明に描かれていたのであった。


〜〜〜


ジークの死。

それに呼応し、雨が滴る。

人々は慌て、手近な建物の中へとその身を置く。


喧騒は雨の音にかき消され、街はしばしの静寂や包まれる。雨が地を叩く音。それのみを残して。


その中をアレンは、歩む。


【救済】


【雨に濡れることから】


雨にその身を濡らすことなく、ただ静かに。


その中で、アレンは足を止める。

そして、見た。


薄汚れた壁に背を預け、力無く頭を下げる少女の姿を。

手足は痩せ細り、痣が滲むその身。


気づけば、アレンはその少女の元へと歩み寄っていた。


芽吹く、闇の気配。

それに自らの闇が呼応するのを、アレンは感じる。


そして、アレンは少女を見下ろす。

光なき双眸で。ただ、静かに。


呼応し、少女は顔をあげる。


その顔。

それはひどく、腫れていた。

その目。

それはひどく、虚ろだった。


だが、その瞳には確かに"闇"が宿っていた。


〜〜〜


その幼き少女は、ソコに座りただ静かに空を見つめていた。

ボロに身を包み、その頬に痛々しい痣を滲ませながら。何度、ぶたれたのか。少女はもはや覚えてはいなかった。


手足は痩せ細り、その瞳は虚ろ。


行き交う人々は、見て見ぬフリをする。

中には嘲笑い、石を投げる者も居た。


"「捨てられた奴隷だ」"


"「どうせ。主に粗相を働いたのだろう」"


"「自業自得だ」"


"「さっさと野垂れ死んだらいいのに」"


浴びせられた、罵詈雑言。

しかし少女の表情は変わらなかった。

ただ一筋の涙。それをその瞳からこぼすだけで、少女は壊れた心にその身を委ね続ける。


首をさげ、少女は嗚咽を漏らす。


ぽつり。ぽつり。と、雨が降る。


雨は少女の身を濡らしーー


ふと、雨が止む。


少女は顔をあげ、空を見ようとした。

光なき虚な眼。それをもって空を見ようとした。


だが、その潤んだ視界にうつったのは灰色に濁った空ではなかった。


闇。少女はそう思った。

人のカタチをしている。

だが、その姿はどこか朧げで儚かった。


そして、それは声を落とした。


「救済する」


「心の痛み。それを堪える苦しみから」


その時。


少女の中で、なにかが弾けたのであった。


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