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女の頭。

それを咀嚼するダークウルフ。ぼたぼたと滴る、赤黒い肉片。夥しく口元から流れ落ちる血。


そして、ダークウルフの敵意に満ちた眼差し。それは既に逃走する男二人に向いていた。

恐怖で悲鳴をあげることすらできず、男たちは必死にこの場から忌避しようとする。


だが、ダークウルフは彼等を逃すことなどない。


姿勢を低くしーー


遠ざかっていく、二人の背。

その揺れる姿に照準を合わせ、一気に駆け出した。


吹き抜ける、風。


アレンはその憎しみに彩られた風に髪を揺らし、ただ光景を見つめる。


響く断末魔。

染み渡る咀嚼音と、血肉が飛び散る音。


それを余韻に、アレンはその身を翻す。

アレンの足元。そこにあるのは、影のカタチをした闇。


「ワオーン!」


轟くダークウルフの遠吠え。

そこには込められていた。


アレンに対する敬意と、畏れ。

それが鮮明に。まるで、未だ見ぬ"魔王"にアレンの姿を被せるかのように。


【救済】


遠吠えに応えるように、アレンは胸中で呟く。

呼応し、周囲を囲む木々が生を失い枯れていく。


"生きる"ことさえ、苦悩。

それを体現するかのようにして。


枯れゆく森林。


その中をアレンは進む。


"「アレン。勇者様はね」"


「全部の苦しみから、みんなを救ってくれる存在なんだよ」


幼き日。温かなベッドの中。

そこでかけられた母の言葉。


それを呟き、アレンはその目から一筋の涙をこぼす。

しかしその涙をこぼした瞳に宿るのは、光ではなく混じり気のない闇そのものだった。


〜〜〜


「まだ帰ってこないのか?」


「うん」


「ちっ。近郊の魔物退治なんて一瞬で終わるはずだ」


「あいつらのことだし。どうせまた、だらだらと遊んでるんでしょ」


揺れる蝋燭の灯火。

それに影を揺らしながら、二人は居た。

軽装と軽鎧。それに身を固めた小柄な女と長身の男が、そこに。


薄暗い室内。光源は蝋燭と、小窓から差し込む微かな日光のみ。


「もしかして。やられちゃった……とか?」


どこか楽しそうな小柄な女。


「なにに?」


「さぁね」


「レオナ、憶測で物を言うな。この周辺に脅威のある魔物は存在しない」


「だね。魔法使い一人に剣士が二人。斧使いが一人だもん。この辺の魔物じゃまずやられはしない。でも、もし。そんな魔物がいたらさ……一攫千金。だね、クリス」


唇をつりあげる、レオナ。

その顔は嗜虐に満ちている。

歪んだ思い。それを隠す気はレオナにはない。


「出るぞ、レオナ。調べる価値はありそうだ」


「はーい」


クリスの抑揚のない声。

それに応え、レオナはクリスの後に続く。

二人の顔に宿るは、欲望。

混じり気のない、金に対する欲だった。


〜〜〜


踏まれる苦しみ。

それから【救済】され、アレンが踏み出す度、砂利はその場から消失していく。


アレンが歩みを示した場所。

そこには闇が広がり、虚無と化していた。


そしてアレンが見据えるは、木の壁に囲まれた街。

アレンの村から最も近い、小規模の交易の街だった。

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