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血の臭いと、救いを求める声なき思い。
それにアレンの闇が僅かに震える。
月に照らされた、夜の道。
そこで足を止め、アレンは自らの闇に導かれ、その求める思いが滲むほうへ意識を向ける。
風に揺れるアレンの髪。
そのアレンの表情。
そこに宿るは、静かでそれで確固とした【救済】の意思だった。
〜〜〜
月は厚い雲に覆われ、わずかな光すら届かぬ夜。
風が吹けば、焦げた木材の匂いと、血の鉄臭さが混じり合って漂う。
村は沈黙していた。人の気配はなく、軒並み倒壊した家々の間に、黒ずんだ血痕が乾いている。
その中を、一人の影が歩んでいた。
黒衣に身を包み、その身に闇を纏う――アレン。
彼の足取りは重くも迷いなく、倒れ伏した骸を越えて進む。
【救済】
【見えないということから】
その救済の力。
それにより、アレンは月の光源が無くとも村の惨状をミることができた。
倒壊した家の前、焼け残った壁に小さな影が凭れていた。
幼子の屍だ。母親の腕に抱かれたまま、苦しげな表情を浮かべている。
アレンは立ち止まり、無言でそれを見下ろした。
その瞳は深い闇のようでありながら、不思議な静けさを湛えていた。
怒りでも、悲嘆でもない。
ただ、そこにあった命の終わりを受け止めるような、底知れぬ静謐。
彼は静かに膝を折り、屍の上に破片の布をかけてやる。同時に瞼を閉じ、アレンは知る。
【救済】
【この村でなにが起こったのか。それを知らぬことから】
アレンの中。
そこに流れこむ、光景。
〜〜〜
「俺が救ってやる」
「生きる。ということから」
そう呟き、剣を振り上げ、人々を殺める一人の男。
名はゼルグ。
元王国の処刑人。
〜〜〜
やがてアレンの唇がわずかに動く。
「救い。か」
瞼を開けた、アレン。
その瞳に宿るは、静かな憤り。
ゼルグが語った言葉。それが村の死の匂いと共に忌々しく蘇る。
生を罰とし、死を救済とする思想。
だがアレンが纏う“救済”は、まるで意思を表明するかのように揺れ動く。
アレンの闇。
それは、己が勇者として託された力がそのカタチを変えたモノ。
生者を屠るためではなく、絶望の中に置き去りにされた魂へ闇として寄り添うためのもの。
アレンはゆっくりと立ち上がる。
冷たい夜風が黒衣を揺らし、影が血塗られた地に長く伸びた。
その背に宿るものは、光から生まれた救済の闇。
だが同時に――滅びた者たちに寄り添う、静かな救済の祈りでもあった。
【救済】
【ゼルグが存在する場所。それを知らぬことから】
闇はアレンに応える。
ゼルグの存在する場所。
それをアレンに示し、同時にアレンの拳が握り締められる。
【救済】
【殺された者たちの魂を】
そして、闇を纏いしアレンは、滅びた村を後にした。
アレンの向かう先。
それは、忌々しい闇を生み出した存在の元。その、救済を語る忌々しい存在が闇を生み出す場所だった。




