①
旅立ったアレンの姿。
それを見送り、村人たちの顔に浮かぶは嘲笑。
そして、マリアとアレンの父も蔑みの表情を浮かべていた。
だが、彼等まだ気づかなかった。
アレンの心に宿る闇。
それは既に、勇者のソレではなかったということを。
〜〜〜
村を捨てたアレン。
その足元に広がるは、影ではなく闇。
一歩。一歩。アレンが前に進む度、その闇は更にその濃さを増していく。
世界を救う。という使命。
勇者としての、使命。
風が吹く。
風はアレンの髪を撫で、アレンの心を見透かすように吹き抜ける。
その風に混じり、アレンは聞く。
「このダークウルフッ、まだ子どもだな!」
「成長して脅威になる前に討伐しておこう」
「へへへ。久しぶりにストレス解消できそうだな!」
「ふふふ。魔法の試し打ちしちゃおっかな?」
同時に響く、鈍い打撃音。
呼応し、悲痛なダークウルフの鳴き声が響く。
その音にアレンは足を止める。
「きゃはははッ、苦しんでる!! 苦しんでる!!」
「弱っちいな。もっと痛めつけてやろうぜ!」
「手足を切断してッ、全身骨折とかどう!?」
自然とアレンの足が、声の方へと向く。
そこにあるのは、理性ではない。
あるのはーー
「人と対を為す魔を守る」
という、歪んだ思いだった。
〜〜〜
舗装された砂利道。
そこから外れた森の中。
拓け、背の高い草に囲まれた場所。
そこに、光景はあった。
己の血溜まり。
その中に丸まり、息も絶え絶えになっている幼いダークウルフ。そしてそれを囲み、へらへらと嗤う4人の男女の姿。
「ねぇッ、そろそろトドメさそうよ! わたしもう飽きちゃった」
「あ? まだまだ弄ぼうぜ。まだ虐めたりねぇぜ、俺」
「はははッ、やっぱり弱い魔物を虐め倒すのは楽しいな!!」
「だな。こいつらをいくら狩ってもお咎めなし。ほんと、魔物共は俺たち人間様にとって、いい玩具だぜ」
響く、歪んだ声。
それに、アレンは呟く。
「ゴミはどっちだ」
よみがえる、昨夜の出来事。
勇者として、世界を救う。
既に闇に塗りつぶされたその思い。
気づけば、アレンは、彼等の元に歩みを進めていた。
アレンに気づく、面々。
「あ? なんだ、お前」
「なになに?」
「なにか文句でもあんのか?」
「てめぇもこの魔物と同じように」
刹那。
「救済」
アレンの口。
そこから無意識に漏れる言葉。
勇者の力。
それは、世界を"救済"する力。
あらゆる苦痛。あらゆる苦悩。それらを救済する力。
だが、闇に染まりしその勇者の救済はーー
目から光をなくし、糸が切れた人形のように倒れ伏せるリーダー格の男。
生きることすらも"苦悩"とみなし、その対象とする。