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第六十二話 小川軽卆の後悔①

小川軽卆の憎しみ④からの続きです。


 久しぶりに再会した悪友の先輩である戸村に、自分の不幸話を語る小川。

 しかし彼の話している内容は少々、いやかなり歪曲している。あろうことか彼は自分の悪辣な部分を改ざんして一途が悪者になるように事実を歪めて伝えた。

 

 「なるほどねぇ。つまりお前の幼馴染はちょっと『別れる』って冗談言っただけで、あっさり別の男に乗り換えたんだ」


 「そうなんですよ。ひどい話だと思いません?」

 

 「あー、思う思う。そりゃ復讐したいわな」


 「でしょ! 長い付き合いの俺の冗談なんて普通は見抜けますよね!?」


 「あーそうだなそうだな」


 これまで周囲から冷たい目に晒され、屈辱の連続だったせいか同情的に接されて小川は調子づく。

 そんな興奮気味になっている彼とは対照的に、話を聞いている戸村の表情は冷めきっている。相槌もかなり適当なのだが、それでも小川にとっては理解者を得た気持ちだった。

 

 「よし、じゃあお前の復讐に乗ってやるよ」


 「マジですか! ありがとうございます!!」


 「その代わり、お前にもしてもらいたい仕事がある。協力してくれるな?」


 「全然OKですよ。あいつ等に天誅を下せるなら」


 やったやったやった! これであの裏切り者の一途も、人の幼馴染を寝取った元ヤンの神侍にも痛い目を見せられるぜ!!


 この時の彼は二人が痛い目に遭う想像をして有頂天だったが、すぐに自分が取り返しのつかない相手と〝約束〟をしてしまったと後悔する事になる。


 「よし、じゃあ報復代行の計画を練ってやるから、そいつ等二人に関する情報をくれよ。その代わりお前には……えっと、あったあった。はいコレ頼むわ」


 「え……なんですかコレ……?」


 戸村さんから手渡されたのは小さなビニール袋だった。その袋の中に入っているのは真っ白な粉で、まるで刑事ドラマで見るような薬ぶ………!?


 そこから先の思考が完全に停止してしまう。

 自分の頭の中に浮かんだ答えが恐ろしすぎて、思わず手渡された代物を手から落としてしまった。


 「おいおい落としてんじゃねーぞ。これ高けーんだからよ」


 「あ、あの……それって何ですか?」


 地面に落ちた粉入り袋を拾っている戸村に尋ねると、彼はあっさりとこう返してきた。


 「あん、決まってんだろ。気持ちよくなれるお薬だよ。風邪薬な訳ねーだろ」

 

 「そ、それを……俺にどうしてほしいと……」


 「決まってんだろ。お前の復讐を代理してやんだ。お前には代わりにコイツをさばいてもらう」


 突き付けられた交換条件に思わず背筋が凍る。


 嘘だろ……俺に薬物を売りさばけって……あはは……。


 ハッキリ言って小川にそんな事ができるわけがなかった。

 張りぼての虚像人間である小心者。それが小川という人間なのだ。こんなヤバい物を取り扱う度胸などある筈もなかった。


 「先輩すいません。俺…ちょっとこういう行為は……ぶべっ!?」


 できません、その言葉を言い切るよりも先に拳が飛んできた。

 顔面に固く握られた拳がめり込み、そのまま地面に小川は転がる。


 「おいコラ、今更なに日和ってんだテメェ」


 「え……?」


 顔を上げて目に入った戸村の顔を見て小川は硬直してしまう。

 顔面から零れる鼻血など気にならないほど、自分を見下ろす男の表情が怖ろしかった。


 「テメェの愚痴を親身に聞いてやって、そんで復讐の代行もしてやるってんだ。それにお前さっき言ったよな。協力してくれるって」


 「ででででも、こんな法に触れる事をやるのは……」


 「おいおい人に復讐頼む人間が言う事か? 二人の人間を完膚なきまで壊すように頼んだ男がよぉ」


 な、なに言ってんだよこの人は? 俺はちょっとあいつ等を痛い目に遭わせるだけで……。


 小川にとっての復讐は二人へちょっとした嫌がらせ程度の事だった。言うなれば学校内での居場所をなくせれば成功と考えていた。だから戸村の言った〝壊す〟と言うワードに頭が混乱する。

 そしてここまで来れば嫌でも思い知る。目の前の人間はもう自分が知っている悪友でなく、本物の悪党に変貌してしまっていることに。


 「まさかお前、この俺の頼みを断らねぇよな?」


 「あ、ああああの……」


 「俺はテメェの家だって知ってんだ。それによ、クスリを見られた以上もうお前は無関係じゃねぇ。テメェが嫌だろーがなんだろーが仕事はしてもらうぞ」


 「わ、分かり……ました……」


 「うんうんいい返事だねぇ」


 こんな代物を売買している現場なんて見られたら親の説教で済む次元の話じゃないだろう。間違いなく人生が詰んでしまう。

 だからと言って断る選択肢など自分にはないとも悟る。


 だってここで拒絶などしようものなら……。


 「それから言っておくけどよ、サツにチクったり親に相談したりしたら……コロスゾ? こっちはお前の家も知ってんだからな」


 普段何気なく喧嘩や挑発、冗談などで使う〝殺す〟と言う単語。

 だが先輩の口から出てきた言葉にはリアリティがあり、もう馬鹿みたいに頷くしかできなかった。


 ここから小川の人生は一気に転落する事となる――地獄の底の底まで……。



 

ここからどんどん堕ちていきますよ~。

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