第六十一話 条件
久々の投稿になります。
自分が非常識な頼みをしていることを百も承知で俺は頭を下げ続ける。
そこからしばし静寂が二人を包み込み、両者は互いに無言となった気まずい時間が流れた。
重苦しい空気に心太は自らの心臓音が聞こえる気がしたが、それでも引き下がるつもりはなかった。
ここで折れるわけにはいかねぇ……。3人全員を幸せにするって言っておいてあっさりその約束を破る訳にはいかない……!
あの日、屋上で3人の少女はこんな自分に対して心の底から愛を伝えてくれた。
それに対し全員を幸せにすると誓っておいて、少し現実を諭されただけで折れるなんて裏切り以外の何物でもない。
無論、この恵さんの言い分にも理解はできる。
いくら一夫多妻制が認められたとはいえ、母親の目線から見れば娘の未来に不安を感じても仕方がないとは思う。
まだ高校生の小僧っ子の頭など、娘を生んで育ててきた母親からすればいくら下げても軽いのかもしれない。
それでも心太は決して引き下がろうとはしなかった。本気で3人を愛してしまったのだから。
「頭を上げて頂戴……」
土下座の態勢を維持したまま床に額をこすり付けていると、落ち着いた口調で恵さんが頭を上げるように言ってきた。
顔を上げればそこには呆れ顔の恵さんが俺を見下ろしていた。
だがその表情は今までとはどこか質が違った。さきほどまでは怒りや動揺が見え隠れしていたが、今はさっぱりとした顔でこちらを見ている。
「本当なら私はあなたの歎願を断りたいところだわ。でも、土下座までして頼み込むってことはそこまで本気なのね」
「はい。決して軽い気持ちで言ってません」
「そう……」
小さく一言だけ呟くと彼女はしばし俯く。
やがてゆっくりと顔を持ち上げた彼女は俺にこう言ってきた。
「分かったわ。美衣奈や他の二人の子も了承していると言うならあなたと娘、いえ娘達との関係を認めてあげてもいいわ。ただし、1つ……いえ2つ条件をださせてもらう」
そう言いながら恵さんは俺の前に2本の指を立てて交際を赦す条件を提示してきた。
「1つ目の条件は、娘以外のあなたがお付き合いしている他の二人の娘の両親から交際を赦してもらう事、そしてもう1つは……娘を絶対に幸せにすることよ」
そこまで言うと恵さんは一気に柔らかな表情へと変わった。
「それが守れるなら私はあなた達の関係を認めるわ」
「は、はいッ!!」
張りつめていた空気が一気に弛緩し、俺の中の緊張も急速にしぼんでいった。
土下座の態勢からゆっくり立ち上がり、改めて美衣奈との交際を認めてもらったことに礼を述べようとするが、背後から軽い衝撃がトンっと走る。
背中に張り付いた衝撃に振り替えると美衣奈が背中に抱き着いていた。
よく見れば一途も柱から顔をちらっと出してこちらを見つめていた。
「もう、今日はただの勉強会だって言っていたじゃん。それなのに私を置いてお母さんに何をカミングアウトしてんのさ」
背中に張り付きながらいつも通りの口調で不満をぶつける美衣奈だが、その体は微かに震えていることに気付く。
心太は気付いていなかったが、いつまでたっても部屋に来ない心太に疑問を抱いた美衣奈と一途は途中から二人のやり取りを見ていた。
二人のやり取りに一途はもちろんだが、美衣奈の緊張は想像を絶するほどのものだった。そりゃあそうだろう。何しろ自分が目を離した隙に、彼氏が母親に自分を含め3人の女性と交際してます宣言をしていたのだから。
実際のところ何度二人の合間に飛び込もうか悩んだ美衣奈だが、真っ向から母に訴える愚直な姿を前に出るに出れなかった。
だからこそ母が一応は交際を赦してくれた事実に緊張の糸が途切れ、美衣奈の全身からはぶわっと安堵感があふれ出す。
「ほんと……もし断られたらどうする気だったのさ」
背中から離れるとポカポカと美衣奈が軽く小突いてきた。
その子供のような仕草に苦笑しつつも、彼女を宥めようと正面から抱きしめた。
「何度断られてもお前を諦めたりなんかするもんかよ。一生幸せにしてやるって誓ったんだからな」
背後で恵さんが見ているのもお構いなしに自分の気持ちをぶつると、勝手なことをしてむくれていた美衣奈の機嫌も直ってくれた。それどころか普段の調子に戻った彼女は一途を手招きしてこんな事を言い出す。
「ほーら一途も来なさいって。それとも私だけ心太君を堪能していいのかなぁ?」
「だ、ダメ!」
恐らくは恵さんに遠慮していたのだろう。それまで遠巻きに様子を伺っていた一途だが、挑発じみた美衣奈の発言に火が付いたのか素の感情を露わにして一緒に抱き着いてきた。
「おかーさんもありがとね。私らのこと認めてくれて」
「はぁ…まだ完全に許したわけじゃありません。そこに居る一途ちゃんや、もう1人の恋人さんのご両親からも同意してもらわなきゃだめよ」
「それなら大丈夫だよ。うち等のボーイフレンド君はお母さんが思っている以上に粘り強いから。ね、心太君」
「ん、ああ。絶対に一途と薫先輩のご両親も説得してみせる。だから何も心配するな」
そう言って俺が頭を撫でてやると、今日一番の、花が咲いたような満面の笑みを彼女は魅せてくれるのだった。
無事に1人目のご両親の説得完了です。
残り二人、一途の薫の両親ともいずれ対談の時が来ます。




