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第四話 クズな幼馴染へのざまぁ完了


 木霊した一途の大声に教室内は一気に静まり返る。クラスメイト、自分を手酷く振った幼馴染、そして自分を庇ってくれた恩人、それらの視線を一身に受けた彼女は一瞬たじろいでしまう。だがすぐにキリっとした力強い目となり小川へと思いの丈をぶつけた。


 「あなたみたいな容姿で人を貶す人と違って、神侍君は肥満で悩んでいた私を何の見返りもなく助けてくれたの! 自分の大事な時間や自由を削ってまで私をサポートしてくれたの! 彼のお陰で私も自分に自信を持てた! そんな恩人をあなたみたいな平気で人を騙して裏切れる人に貶す資格はないわ!」


 顔を赤くしながら憤慨する一途に思わず見物していたクラスメイトや小川は何も言えなくなる。

 正直に言えば心太も彼女の迫力に思わず圧されてしまっていた。春休み中にダイエットに協力したため、必然的に彼女とは何度も交流はあった。だがその間でもここまで怒りを灯した瞳を見た事は無かったからだ。

 皆が呆然としている中で唯一時が止まっていない彼女は小川にトドメと言わんばかりに言い放つ。


 「1年生の別れ際のセリフ、そっくりそのまま返してあげる。もう二度と恋人面や幼馴染面して絡んでこないで。この女の敵の下種野郎!」


 「ぐ、ぐううううう!!」


 何も言い返す事も出来ず小川はいかにも負け犬の様な呻き声を上げて退散した。

 こうして休み前の屈辱を見事に果たした彼女であったが、小川が居なくなると今度はクラスメイト達へと言葉を投げ掛けた。


 「みんなにもハッキリと言っておきたいの。神侍君はみんなが思っているような人間じゃないよ。さっきから見た目だけで彼を悪人だと決めつけているけど全然違う。私は彼に何も変な事は一切されていないから」


 小川の時の様に声を張ってこそいないが僅かな怒気がその声には込められていた。

 クラスの皆は全員がバツの悪そうな顔をしながら俯き、その様子を見て彼女は小さく鼻を鳴らすと自分の手を握って来てこう言った。


 「それじゃあ一緒にお昼にしよう神侍君」


 そう言いながら満面の笑みを浮かべる一途と共に心太は教室を出た。


 「……お前良いのかよ。あんな風に変に目立つような真似をして……」


 自分と違い1年生の時からクラスの連中と彼女は上手くやっていけていた。それがクラス中から疎まれている自分の様な元ヤンを庇えば下手をすれば自分と同じくハブられる可能性もあるだろうに。

 だがそんな心太の心配などどこ吹く風と言わんばかりに一途がこう言って来た。


 「私なら全然大丈夫だよ。それよりも……神侍君があらぬ噂を立てられる方がよっぽど嫌だよ」

 

 そう口にする一途はまるで自分の事を言われてるかの様に悲しそうな顔を浮かべる。その彼女の顔を見て何故か心太の胸がきゅっと痛んだ。


 「(あれ、何で俺の胸が痛むんだよ……)」


 自分の事ならどれだけ言われようと気にもならなかったはずなのに、彼女の痛ましそうな顔を見ると何故だかジクリと胸に痛みが生じた。


 その痛みの正体も分からず謎のまま一途と共に屋上へとやって来た。

 この学校の屋上は解禁されており木製のベンチも用意されている。そのベンチに二人は並んで座り、それぞれの弁当箱を開いた。


 「うおっ、相変わらずレベルたけぇな新井の弁当は」


 「え、えへへ…そう言ってくれると嬉しいな……」


 教室で彼女から渡された弁当の中身はかなりのクオリティだ。当然見た目だけでなく味の方も抜群であり、思わず頬を緩め舌鼓を打っていると隣で彼女がこちらをチラチラと見ている事に気付く。


 「ん、どーかしたか?」


 「い、いや何でもないよ! 喜んでくれて良かったって思ってね!」

 

 急に話し掛けられて驚いたのだろうか? 新井は何やら慌て気味で弁当をかっ込み出す。


 「んぐっ、ケホケホッ……!」


 「たくっ、何やってんだよほら」


 「あ、ありがと。んぐっ……」


 呆れながら自販機で買っておいたペットボトルのお茶を渡してやる。

 あれだけ勢いよく白米をかっ込めばむせるのも当然だろう。渡したお茶をゴクゴクと喉を鳴らしながら飲んでいた。


 「ぷあっ、ごめんね神侍君……あれ、これって飲みかけ?」


 「ん、ああ悪い。思わず俺が少し飲んだヤツ渡してたわ」


 そう言った途端に何やら彼女の顔がゆでだこの様に変色していく。

 そのリアクションに首を傾げるがすぐに理由が分かった。自分の飲みかけの物なんて気持ちが悪くて仕方が無かったって事だろう。


 「ああ悪い。男の飲みかけなんて汚ねぇよな」


 「いやいや全然汚くないよ!? む、むしろ嬉しいと言うか思わぬ役得と言うか!?」


 「あん、嬉しいとか役得ってどーゆー意味だよ?」


 「あああああ言い間違え言い間違え! とにかくお昼食べちゃおうよ! ね、ね、ね!!」


 「お、おおう……」


 何やら奇天烈なリアクションに戸惑いつつも昼食を再開する。だが騒がしい彼女を見て無意識に心太の口は緩み笑みが浮かんでいた。

 1年生の頃は学校でほとんど寂しい昼休みを過ごしていた心太であったが、この高校生活で初めて充実したお昼時間となったのだった。



 

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