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第三話 最低で身勝手な幼馴染


 昼休みに他クラスから心太のクラスへと一途の幼馴染である小川がやって来た。彼は休み明けで別人の様に生まれ変わった幼馴染の姿を見ると人当たりの良さそうな笑みを浮かべて馴れ馴れしく近づき始める。


 「いやー随分と見違えたな一途。どうやったらそこまで激変するんだよ?」


 友好的な雰囲気を醸し出しながら一途の肩へと小川が触れた。

 自分の肩に気安く触れて来た小川の行動に彼女は青ざめながら数歩後ずさった。


 「い、今更あなたが私に何の用なの?」


 「おいおい、自分の〝恋人〟を昼食に誘う事がそんなにおかしいか?」


 さも当たり前の様な顔で小川は理解し難い発言をしてきた。

 このズレた発言は事の成り行きを見守っていた心太ですら眉を顰める。


 「(おいおいコイツは何言ってんだ? 休み前にあれだけ盛大にフっておきながらよ)」


 終業式の日にこの男が一途を罵声のおまけつきで手酷く振っている場面は心太も見ている。にも関わらずこの男はそんな過去など無かったかのように振る舞っているのだ。

 当然だがフラれた張本人である一途は怒りを滲ませながら物言いをする。


 「ふざけないで。もう私とあなたは終わった関係でしょ。それにあなたには彼女さんが居るんでしょ?」


 「ああ、その娘とはもう別れたよ。今はフリーなんだ」


 「なっ……そう……でももう私とあなたは無関係だから……」


 どちらにせよ自分の心はお前の中には無いと突っぱねる一途だが、そんな彼女の態度を物ともせず小川は肩に手を置いた。


 「まあまあそう怒るなよ。終業式の時に色々言った事さ、俺もこの休み中に反省したんだよ。だからまた幼馴染同士いちからやり直して……いてっ!?」


 「オイオイさっきからおかしいんじゃねぇか。オメェ確か幼馴染面して話しかけんなとかこいつに言ってたよな?」


 チャラ男のあまりの身勝手さにイラつき、気が付いたら一途の肩に置いている汚い手を心太は掴んでいた。


 突然横から割って入って来た心太の存在に苦言をぶつけようとした小川だったが、自分の腕を掴む心太の握力に苦痛から顔を歪ませる。


 「いでで…!? な、何だよおま……神侍……君?」


 何とか腕を振りほどいた小川は怒りの形相でこちらを睨む。とは言えだ、中学時代に喧嘩三昧だった心太からすれば子犬に威嚇されているのと大差ない。

 どうやら悪い意味で学校の噂となっている自分の事を小川も知っていたようで、腕を掴んでいる相手が自分だと知ると一気に弱腰となっていた。

 あまりにも見掛け倒しな精神に内心で拍子抜けする心太だが、それでも護るかのように一途の前に立ち真正面から睨みつける。


 「黙って聞いていたらお前の都合の良い方向へと話を持っていこうとすんじゃねぇよ。屋上でお前が新井を手酷く振った事は知ってんだよ。何だっけか、確かこいつのバイト代を部活の為に必要な費用と偽って〝恋人料金〟として懐に入れてたんだっけか?」


 「な、何でその事を……あ!?」


 まさかあの日の出来事を目撃されていると思わなかった小川が狼狽の声を上げる。その反応を見ていたクラスの生徒達が不穏な空気を察知し始めていた。


 「えっ、恋人料金?」


 「うそでしょ。自分の彼女からそんな物を取っていたの? しかも騙す形で……」

 

 「さいってい……」


 周囲からの軽蔑の眼差しを向けられてしどろもどろとなる小川に対し心太は更に圧力を掛ける。


 「別に俺はこいつを振った事に対してはなんも言う気はねぇよ。男女の間で失恋なんざ珍しくねぇ。だがな、テメェからフっておいて、しかも質の悪い騙し方で金までむしり取って謝罪すら無くヨリを戻そうとする考えが気に喰わねぇ」


 「ひゅいっ!?」


 その瞬間教室内の空気が心太の圧力で一気に張り詰めた。

 かつて他校の不良たちから恐れられた〝鬼神〟の異名を付けられた男。そんな人間の迫力に一般生徒が耐えられる訳もない。遠巻きで様子を伺っていた生徒ですら冷や汗を流し、そして間近で直接圧を掛けられている小川はと言うと……。


 「あ、ああ……」


 もはや言葉すら出ずその場でへたり込んでいる始末。

 そのまま教室から追い出そうとするが、ここで小川は急にこちらへと噛みつき出して来た。


 「お、お前が俺の幼馴染を裏で誑かしてんだろ!」


 「はあ、いきなり何言ってんだ?」


 「はんっ、よく言うよな! お前、学校中で噂になってんだぜ? 中学時代から手の付けられない不良のクソ野郎だってなぁ!!」


 そう言いながら小川は教室全体を見渡しながら明らかにワザと大声を出して喚く。すると今まで小川に向けられていた軽蔑の眼差しは自分へとシフトチェンジした。


 「(ああ成程な。本当に小狡い野郎だな)」


 ここでコイツの狙いが何となく察する事が出来た。

 大方コイツはクラス中の蔑視の矛先を自分に向けさせ有耶無耶にしようと考えているのだろう。事実さきほどまで小川に非難を向けていたクラスメイト達は今は自分を侮蔑の目で見ている。


 「(はん、くっだらねぇ)」


 理由なく悪者扱いされている事など慣れている。どうせ悪者にされるならとことんやってやろうと小川の首根っこを掴んで叩き出そうとした。

 だが敵だらけの教室の中、1人の少女が抗議の声を上げたのだった。


 「ふざけないで! あなたみたいな人間と神侍君は全然違うんだから!!」




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