第一話 新学期と見知らぬ美少女
桜が舞い散る春休み明けの登校日、新たな新一年生の入学、そして自分達在校生の進級と言う事もあり通学中の学生達の大半はどこか初々しさが見て取れた。新たに始まる1年間の高校生活に生徒の中には髪型を大幅に変えたりと所謂イメチェンを果たしている者も居た。
だがそんな連中が霞むほどに大幅な変化を遂げた人物が2年生のとあるクラスに居た。
「なぁあの可愛い娘って誰なんだ? あんな綺麗な娘って去年は居なかったよな?」
「もしかして新しく来た転校生とかか? でも担任に紹介される前から教室に居るのもおかしいよな……」
「スタイルも凄くいいよな。モデル並じゃね?」
始業式も無事に終わった2年生のあるクラス内では、1人の女子生徒が教室中の注目を集めていた。
その女子生徒はモデル並の整ったスタイルと端正な顔立ちの美少女であり、男子だけでなく同性の女子すらも思わず見惚れるほどの可憐な容姿をしていた。
だがクラスメイト達の誰もが同学年の中でその女子生徒についての記憶を持ち合わせては良かった。それ故に誰もが遠巻きに様子を伺うだけで話し掛けないでいると遅れて1人の生徒が教室へとやって来る。
「うーっす」
気怠そうな挨拶と共に新たなクラスにやって来たのは学校内で不良のレッテルを貼られている神侍心太であった。彼は適当に挨拶するが教室の皆が露骨に視線を逸らした。
「(はん、分かりやすい奴等)」
皆の目を見れば良く分かる。よりにもよってコイツと同じクラスなんて最悪だ、口に出さずとも表情から容易に読み取れた。
しかしもうこんな扱いも慣れっこの心太は特に気にしない。欠伸をしながら自分に宛がわれた席に座ろうとするが、そんな彼に話しかける人物が居た。
「おはよう神侍君。今年もまた同じくクラスだね」
クラス中で怖れを抱かれ浮いている心太に自分から話し掛ける人間は基本居ない。それ故に彼に声を掛けた人物に注目が集まる。
挨拶をしたのはなんとあの謎の美少女だった。誰もが極力避けている不良に自分から挨拶をする美少女に皆が驚いた。
小走りで近づき茶色のショートボブをかき上げ、子犬がじゃれる様な振る舞いと共に心太へ笑顔を振りまく。その可憐な微笑みを見て他の男子は思わず頬を染めて見惚れてしまう。
だが次に心太の口から飛び出した名前にクラスメイト達の大半は度肝を抜かれる事となる。
「たくっ、夏休み明けから良くそんなテンション高くできるよな新井よぉ」
彼の口から出て来た新井と言う名を聞きクラスの数人が耳を疑った。
進級した教室の中には去年新井と同じクラスメイトだった生徒も当然居る。だが彼等の記憶の中の新井一途は小太りな女子生徒だったはずだ。どう考えても心太が新井と呼んだ女子とは似ても似つかない容姿だ。
しかしかつての彼女を知っているクラスメイトがよくよく彼女を注視する。すると体型こそ激変しているがいくつか面影の重なる部分も見て取れた。つまり……あの超絶美少女は正真正銘の……。
「「「えええええええええええええッ!!??」」」
大幅の時間を消費してかつての一途を知るクラスメイト達はようやく現実を受け止める事が出来た。
そこからはクラスメイト達が次々と別人のように変わった一途へと押し寄せて質問を投げ掛けて行く。
「うそでしょ、本当にあの新井さんなの!?」
「ダイエットしたってこと? だとしてもここまで変わるなんて信じられない……」
「新井さんって美形だったんだな。かなりタイプなんだけど……」
まるで濁流の様に押し寄せる質問の波に一途は動揺を見せる。
一斉に疑問を浴びさせられてパニックになりそうな彼女であったが救いの手が伸ばされた。
「おいガキみたいにうるせぇんだよ。質問なら1人1人順番にしろよ」
低い声色で心太がクラスメイト達を睨みつけながら制する。
まるで肉食猛獣の様な鋭利な視線で睨まれたクラスメイト達は気圧され一気に黙り込む。そこへタイミングよく担任がやって来た事で一先ず騒ぎは収まった。
「ありがとう。助かっちゃった」
「別に大したことはしてねぇよ」
そう言いながらぶっきらぼうに返す心太。そんな無愛想な彼の反応を見てクスッと笑いながら小さな声で一途は囁いた。
「もう素直じゃないんだから」
「うるせ」
ちなみに朝のホームルームの際には別人の様に変わった一途に気付かず、担任が彼女に『クラスを間違えていないか?』と聞いていた。他のクラスメイトが事情を説明してから見せた担任の間抜け面には少し吹き出しそうになった。
まあとはいえ、実際に春休み明けで新井の容姿は激変した。クラスの連中が度肝を抜かれるのも無理はないだろう。長期休みを利用して徹底的にアイツのダイエットに協力はしたが、まさかここまでビフォーアフターするなんて俺も思いもしなかったからな。
すっかり別人と化した一途を改めて見ると目が合った。すると彼女は顔を赤らめながら視線を慌てて逸らす。
「(おっとジロジロ見過ぎたか? そりゃいい気分しないわな)」
大方自分が盗み見るような真似をしたので腹が立って怒ったのだろう。そんな事を考えつつ担任の話に耳を傾ける。
そんな見当違いな勘違いをしている彼の事を一途が熱のこもった視線を向けているとも気付かず。
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