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第十五話 美衣奈の過去


 美衣奈の口から語られた過去、それは中々に壮絶だった。

 彼女の生活が一変したのは小学3年生の頃だった。それまでは優しい父と母に愛され円満な家庭環境で育った美衣奈であったが、その穏やかな生活は実は偽りだった。なんと彼女の父は裏で浮気行為に走っていたのだ。

 家族の前で見せる父の温かな優しさ、その偽物の愛情に隠蔽された醜悪な本性が明るみになって美衣奈と母親は絶望に突き落とされた。


 「当たり前だけどクソ親父とは離婚したよ。まだ私が幼稚園の頃から裏で他の女と関係を持っていると知ったときはショックだったなぁ。トイレで何回嘔吐したっけ?」


 「そうか……苦しいならもうそれ以上はいいぞ」


 出来るだけ場の空気を沈めたくないのか、普段通りの口調で重い過去を吐露する彼女がかえって痛々しい。

 無理に話さなくてもいいと心太は気を配るが彼女は首を横に振って拒否を示す。


 「いや私から話すって言った以上は最後まで喋らせて。それに一回口に出して全部ぶちまけたい気分だし」

 

 そう言いながら美衣奈は話の続きを語り出しす。

 離婚後の生活は不貞行為を働いた元父親からの慰謝料と養育費が支払われる事となった。しかし当然だがそれだけで食っていけるほど世の中は甘くない。

 これまで専業主婦として生きていた母親はパートへと出たがそれでも生活は中々に苦しかった。

 父親が消えてからの暮らしは苦しくて仕方が無かった。だがそれは決して生活が質素な事に対してではない。気苦労が掛かっている母の姿を見る事が辛くて仕方が無かったのだ。母は娘に対して『あなたは悪くないのに苦労掛けてごめんね』と謝る事が多くなった。

 別に美衣奈は質素な生活に不満など無かった。むしろ母を助けたいと思い自分もバイトで生活の足しにしたいと申し出たくらいだ。だが母は大事な時間を削るべきではないと言ってそれを許しはしなかった。


 「私がバイトに出ようとしてもお母さんは首を横に振ったんだ。きっとお母さんは自分とあのクソ親父のケジメを娘に負わせたくなかったんだろうね」


 「優しいおふくろさんじゃねぇか」


 「うん、私もそう思ってたよ。でもさ、本当に苦しいなら私からすれば相談してほしかった。もしそうだったら……」


 そこで美衣奈は口を堅く結んで表情を一変させた。その顔には悲しみだけでなく僅かな怒りの気配も覗かせており心太が怪訝な顔となる。


 「ここから先は更に面白くなくなるから注意してね……」


 そう前置きをすると彼女は更に過去語りを続けた。

 しばらくはカツカツの生活を送っていた美衣奈たちだったが、ある日を境に生活に変化が現れたのだ。例えば食卓に出て来る食事が少し豪華になった。父と離婚後に壊れて放置していたスマホを新しい物に買い替えてくれた。わずかながらお小遣いを毎月くれるようになった。

 決して大きな贅沢とは言えないがそれでもこれまでの生活環境を考えると明らかな変化、当然だが美衣奈も母に何故こんな変化が起きたのかを質問をした。


 「お母さんは自給の良いパートを見つけたなんて言ってたけどさ、どうにも違和感は拭えなかったんだよね。ただ生活水準も一気にグレードアップした訳じゃない。あくまで離婚前に戻った程度だったし私もあえて深くは踏み込みはしなかったんだ」


 だが美衣奈はすぐに真実を知る事となる。その切っ掛けは彼女がレンタルビデオ店へと出向いた時の事であっだ。

 学校終わりの放課後に美衣奈は当時話題となっていた人気映画を借りようと赴いたのだ。

 店内をしばし徘徊していると美衣奈はある人物を発見した。


 「うわ~……まさかこんな場所で遭遇するなんてね~」


 彼女の視線の先に居た人物は彼女と同じクラスの男子だった。別段親しい間柄ではないがクラスではそこそこ話す顔見知りの相手でもある。

 ただ同級生を見つけただけなら別に問題はない。だが何度もこのレンタル店に訪れている美衣奈は知っている。彼が眺めているエリアは成人向けの作品が並んでいるアダルトコーナーなのだ。

 まぁ思春期の中学生、こういう物に興味が湧いても仕方がない。ここで声を掛けるのもかわいそうなので気付かないフリをしてしばし様子を伺っていると、その男子は結局手に取っていた作品を棚に戻してその場をいそいそと後にした。

 

 「一体どんなの見てたのかな~?」


 同級生が去った後、美衣奈はなんとなく彼の眺めていた作品が気になり棚から取り出してみた。だがこの時に美衣奈は自分の興味心から出た行動に死ぬほどの後悔をした。

 

 「え……え……?」


 表紙に映っている女優を見て美衣奈は思考が停止した。

 自分の視界に映り込んでいる光景が俄かに信じがたく現実感が出なかった。


 「あはは……これって何? 他人の空似だよね?」


 だって……その表紙に映っている人物は自分の母親と瓜二つの人間だったのだから……。




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