第十二話 美衣奈との親睦
学校終わりの放課後、心太はある人物に付き合い街の方へと繰り出していた。いや正確に言うのであれば強引に付き合わされたと言った方が正しいのだろう。
自分の隣で鼻歌交じりに歩いている人物を見ながら心太は口を開く。
「それにしてもお前も強引だな。いきなり放課後予定がないなら付き合えなんて」
「いーじゃない。息抜き目的なんだからさ」
心太の言葉にそう返しながら美衣奈は軽くケラケラと笑っていた。
この二人がどこに向かっているかというと特に当てがある訳ではない。とりあえず美衣奈としては賑やかな街へと繰り出して遊ぼうという行き当たりばったりなプランを提案しており、心太も仕方なしに同行しているという感じだ。
別に心太としては息抜き目的に連れ回される事は苦ではない。だが折角遊びに出掛けるなら自分よりも気の合う他のクラスメイトの方が良かったのではないかと思えて仕方が無かった。
「それにしてもお前も物好きだな。俺なんざと遊ぶよりも他のクラスメイトと遊べばよかっただろうに」
「もーまたそうやって自分を卑下しちゃってさ。心太って元ヤンのわりには卑屈っぽいよね」
「うるせー、余計なお世話だ」
自分も大分クラスに馴染め始めたという実感はある。それでもまだ一途と美衣奈の二人と比べると他のクラスメイト達とは壁を感じるのも事実だった。対照的に陽キャである美衣奈は既にクラスの皆と打ち解けている。友人に困るはずの無い彼女が自分の様な孤独感溢れる男と二人っきりで出かけるメリットが見当たらない。
「それにしても残念だなー。本当なら一途も混ぜて3人で遊びたかったんだけど」
何気なく言ったその一言で心太はどこか後ろめたさに似たものを感じた。
当初の美衣奈の予定では一途も含めた3人で遊びに出掛けるつもりだったのだ。だが一途はとある理由からこの誘いを断り今はこの場には居ない。
しばらくテンション高く話し続けていた美衣奈だったが、ここでこの場に居ない一途の話題を持ち出し始める
「でも立派なもんだよね一途も。自分の時間削ってまでおばあちゃんの居る介護施設まで通っているんだから」
そう一途が美衣奈の誘いを断った理由、それは祖母との面会のために時間を割いているからだ。
春休み中に彼女と付き合いのあった心太は既に関知している事だが、一途は去年からバイトも辞めて祖母の介護に自らの時間を削っていたのだ。心太としても春休み中に時間があれば色々と彼女の手助けをしたが、休み明けの手前で遂に彼女の祖母は介護施設へと入居する事が決まった。
介護施設に居る祖母との面会はいつでも自由という訳ではない。事前連絡により予約を取る必要があり、更に面会する祖母の健康状態によって日にちがズレる事もある。だからこそ面会可能な日は一途は祖母へと顔を見せる様にしているのだ。
ちなみにこの話を聞いて心太と美衣奈の二人も最初は同行しようとしたのだが、家族以外の面会は禁止ではないが予約を取っていなければ許可が下りないらしい。
一途は気にしないでも大丈夫だからと言って、二人には放課後に楽しんできてほしいと言っていた。美衣奈は素直に従ったが、心太としては気にならないと言えば嘘になる。
「せっかく一途が気を使ってくれたんだもん。なら予定通り楽しむのも筋っしょ」
「そうかもな。できればあのばあちゃんとまた話したかったけどな」
春休みという短い期間だったが心太は一途の祖母に優しくされた記憶を振り返っていた。とても穏やかで温かく包容力のある人だった。
あの人と接していた時間を心太は反芻し、死んだ自分の祖母との思い出が重なり懐かしさが胸に去来した。
いつも優しく、だが叱るときには叱る。そして……最期の瞬間まで自分の今後を想ってくれた。
「ばあちゃん……」
「ん、今何か言った?」
無意識に口から零れ出た言葉に美衣奈が反応を示す。幸い小声だったため聞き取れなかったらしく適当に濁しておいた。
「何でもねぇよ。それで、結局どこで時間潰すんだ?」
話しながら歩いているうちにいつの間にか歓楽街へと到着していた。とは言え心太はあくまで付いてきただけなのでここからどう行動するかは決めていない。
隣に居る美衣奈は周辺に立ち並ぶ娯楽施設をひとしきり見渡すと最初の行き先を決定した。
「そだねー……よし、それじゃまずはあそこのゲーセンに決定! 実はここ最近の私は音ゲーにハマっちゃってるんだよね~」
「お、おとげーか。単語は聞くが今いちどういうものかよく分からねぇんだよな」
美衣奈の口から出て来た単語の意味が詳しく分からず合点の言っていない顔を作る心太。そのリアクションを見て美衣奈は小さく吹き出してしまう。
「ぶふっ、音ゲー知らないってマジ? 心太ったらいくらなんでも世間知らず過ぎてウケるんですけど」
「ぐっ、うるせぇな! ゲーセンなんてほとんど行った事ねぇんだから仕方ねぇだろ!」
小馬鹿にするような笑われ方をして思わず心太もムキになる。
喧嘩に明け暮れグレた一匹狼時代の彼は近所のゲームセンターにすら全く遊びに出掛ける事も無かった。何しろ外を出歩けば喧嘩を売られる確率が高かったからだ。しかしそれでも音ゲーを知らないというのは確かに世間知らずかもしれない。
心太としても何となく誰でも知っている事を自分は知らなかったと自覚があるのだろう。珍しく羞恥心を露にしていた。
「それじゃあ今日は美衣奈センセーが娯楽について色々教えてあげる。ほら付いてきなさい!」
「うおっ、そんな引っ張るなよ」
ひとしきり笑い終わると美衣奈は心太の腕を掴んでゲームセンターへと連れて行った。傍から見れば二人はまるで気の合ったクラスメイトというより仲の良い姉弟のようだった。
だがそんな仲睦まじげな二人を遠目から歪な笑顔を浮かべて観察して居る1人の女が居た。
「やっぱりあの顔……間違いない。まさか中学卒業してからもアイツと逢う事になるなんて思わなかったわ」
派手な金髪に染め上げている長髪をかき上げながら、その女はゲームセンターに消えて行く美衣奈を見て嗤った。
「まーた別の男と一緒にデートとは、相変わらず節操ねーな〝ビチ奈〟ちゃんは」
そう言ってその女は二人の後を追ってゲームセンターへと入って行ったのだった。




