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第九話 風紀委員長との対面


 時間の経過というのは早いもので2年生の新クラスとなってから2週間が経過した。初日からカラオケ店でのトラブルはありつつも、今の心太はクラスに意外と馴染みつつあった。

 最初は心太が元不良ということもありクラスの皆も敬遠しがちではあったが、一途や美衣奈の二人が積極的に彼に関わる姿勢を見て他のクラスメイトも勇気を出して声を掛けるようになったのだ。そこからクラスで打ち解けるのには時間が掛からなかった。大概の生徒は心太という人間を中学時代の悪評だけで危険な人柄だと決めつけていたが、いざ話してみれば思ったほど怖いイメージが薄い人と感じたのだ。

 1年生の頃は孤独だった心太にとってこの2週間は新鮮と感じる事ばかりだった。クラスメイトと交わす他愛もない話すらにも心の中では嬉しさを感じていた。


 これで去年は得られなかった〝平穏な日常〟を謳歌できると思う様になった心太であったが、彼の持つ過去の経歴はそれをすんなり許してはくれないようだった。


 今は学生にとっての休息の時間である昼休み。だが心太は一途から手渡された弁当にありつけず『風紀委員室』へと連行されていた。


 「さて、それでは詳しく聞かせてもらおうか」


 「はぁ……いいっスけど……」


 昼飯を食べていないすきっ腹と、精神的な疲労を混ぜ合わせた様な顔をしながら心太は1人の女子生徒と向かい合っていた。


 心太と向かい合っている相手はこの常翔高校(じょうしょうこうこう)の風紀委員長を務めている3年生女子、中村薫(なかむらかおる)と呼ばれる女性だ。

 上級生ではあるが彼女については心太も有名人と言う事でそれとなく知っていた。規律に厳しく厳格で一部の生徒から苦手意識を持たれている。だがそれ以上に何倍も多くの生徒から支持を得ている。

 外見がかなりの美人と言う事も人気の1つなのだが、相手が教師であろうが凛として振る舞う威風堂々の姿。更に剣道部の一員であり去年は全国大会で準優勝をはたした実力。学年テストでは常に上位3位以内をキープする秀才、容姿端麗、文武両道を体現した人物なのだ。

 本来であれば心太とは一切接点など持つことのない人物に思われるだろう。だがこの薫という人物、とある理由から1年生の頃から心太をずっと見ていた、いや〝見張っていた〟と言った方が正しいだろう。


 「まずはこちらからいくつか質問をしたい。一切取り繕わず正直に返してくれればいい」


 「……はいどーぞ」


 まるで尋問のような扱いに内心で苛立ちつつも心太が返事をする。

 さてどうして彼がこんな状況に立たされているのか、少し時間を巻き戻して説明しよう。


 時間は午前の授業が終わり昼休みに入ってすぐの事だった。最近では一途に加え美衣奈の二人と机を付けて昼食を取る事が心太の日課となっていた。

 美少女二人を独占していると周囲の男子からはやっかみの視線を向けられるが2週間もすれば気にもならなくなった。そして今日も同じように机を3人が引っ付けようとしたと同時、教室に薫がやって来たのだ。


 『神侍心太君は居るか? 少々話がしたいのだが……』

 

 教室内を見渡して心太の姿を見つけると彼女はツカツカと歩み寄って来た。


 この学園でも有名な上級生の登場に教室内はざわめいていた。しかも相手は風紀委員長であり、呼び出されている人物が元ヤンとなれば猶更だ。クラスの一部はまさか心太が問題行動でも起こしたのかと囁いていると薫が訳を話し出した。


 『少し前に君がとあるカラオケ店で騒ぎを起こしたと耳にしてな。事情を説明願いたいので同行してくれるか?』


 彼女の口から出て来た言葉に心太は呼び出し理由の悟った。

 交流会の意味合いを込めたカラオケ店での馬鹿共とのいざこざ、あの一件はいつの間にか他のクラスにも広まりつつあった事は心太も知っていた。大方クラスの誰かが他のクラスの誰かに面白半分で話したのだろう。その噂話が流れ流れて風紀委員にも伝わったのだろう。


 『(ようするに俺が問題を起こしたんじゃないか疑ってるって事だろ)』


 クラスでは打ち解けだしたとはいえ学校全体から見れば自分の評価が低い事は自覚もある。ここで下手にごねても心象を悪くするだけだと思い渋々ながらも席を立つが、自分よりも先に異議を唱える者が二人いた。


 『待ってください。神侍君は何も問題なんておこしていません』


 『そーですよ先輩。むしろその件で私ら助けられてるし』


 まるで心太を護るかのように立ちはだかる二人に薫は溜息を吐く。


 『すまないが彼と二人で話したい。大人しく引き下がってくれないか?』


 そう言いながら彼女からの圧力が僅かに増す。流石はこの学校の規律を代表して守る風紀委員長、その迫力に二人が僅かにたじろぐ。だがそれでも言い返そうとするがそれを心太は制した。


 『やめろって二人共。ここでこの人とワーワー言い争っても意味ねぇよ。俺が素直に出向きゃいいだけだ』


 『だけど……』


 『やましい事が無いならむしろごねるべきじゃねぇよ。じゃあ行きましょうか先輩』


 『感謝するよ。では風紀委員室の方に来てくれるか』


 こうしてひと悶着ありつつ心太はこの風紀委員室へとやって来たという経緯だ。


 てっきり他の風紀委員も待機して詰め寄る準備を整えていると思ったが部屋には誰もおらず少々気が抜けた。だがすぐに対面に座る薫からの圧力が増して部屋の空気を重くした。


 「では最初の質問だ。噂となっているカラオケ店で君が喧嘩したという噂、その真偽から答えてくれるか」


 鬼神と言われた心太に一切物怖じせず猛禽類の様な視線で射抜きながら質問を繰り出す風紀委員の長。こうして重苦しい空気の中で二人の対談が始まったのだった。



 

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