プレゼントされる私
修理した車を走らせて、隣国に入った私とジオとアミーは買い出しに街に出ていた。
ルーベン王国の隣国ジュウトは、選挙で首長を選ぶ議会制の国である。隣人との距離はどこか遠く「自己責任」という言葉を好み、生涯独身者が多いことが特徴だ。
「わあ、アミー。業火の魔女記念館なるものがあるよ」
「ああ、わたくしの生家を再利用して観光施設を作ったのね」
「ここってフレアの生家なんだ」
「思ったより普通だな」
確かに大きな屋敷ではあるものの「魔女」の館としてはとても普通の外観だった。
「見学していく?」
「過去を振り返ったところでねぇ」
なんとも悩ましそうな仕草の幼児は違和感しかないはずなのだが、相変わらず様になっている。
「でも三百年後の祖国では評価が違うかもよ?」
「……そうね。王政がなくなったのだから、かつてのわたくしの評価も正しいものになっているかしら」
「ジオも一緒に行く?」
「いや、僕がさっさと買い出しを終わらせてくるから、ステラはアミーと見てくるといい」
「分かった」
記念館の入口でジオと分かれると、入場料をタブレットで支払う。それからアミーと手を繋いで記念館の中に入った。
窓の多い廊下からは明るい日がさし、廊下にはレッドカーペットが敷かれていて足取りは軽い。
「わあ、とっても美人」
順路の最初の部屋には燃えるような赤い髪とピンク色の瞳の、絶世の美女の絵画が飾られていた。
思わず感嘆する私に「出来はまあまあね」と頷いているアミーを横目に、私は絵の下に飾られている説明を読んだ。
『業火の魔女フレア・ルージュ。現在の魔術理論の基礎を築いた高名な魔女。当時の王族によって冤罪で処刑され、わずか二十歳で非業の死を遂げてしまう。彼女が生きていたら魔科学はもっと発展していたことだろう』
そこまで読んで「あ、魔女フレアは祖国ではとっくに見直されていたんだ」ということを理解する。
でもいつまでも彼女の評価が悪女なのはそれが間違いという真実よりも「悪女」のほうが面白いから、だからいつまでも汚名のほうが残っているのかもしれない。
このパネルによればきちんと魔術理論のことも評価されているし、アミーにとっては嬉しいことではないだろうか。
『この記念館は魔術理論の母である魔女の功績を辿り、来館者に正しくフレアを理解してもらうことで、いつか彼女が正しい評価をされるよう願って開館した。初代館長ゲイル・ブロード』
私が読まなかった部分まで読み切ったアミーは説明のパネルの館長の名前を撫でながら何かを呟いていた。もしかしたら、大切な人だったのかもしれない。
「アミー、次の順路に行く?」
「ええ」
掴んだ手のひらはとても冷たかった。
「ゲイルさんってアミーの知り合い?」
「共同研究をしていたレオンクレアの学者よ」
「そっか。信じてもらえて良かったね」
「パンフレットを見てごらんなさい」
入口でいつの間にか握っていたパンフレットを私に渡すのでとりあえず素直に読む。
順路が書いてあるごく普通のパンフ
レットだ。
「開館日」
「この国が議会制になってすぐ、100年前だね」
「そうよ、わたくしと研究した男がわたくしのために記念館をつくるのはいいけど、どうも違和感があるわ」
「子孫に頼んだとかじゃないの?」
「そうかしら……?そうね、そういうこともあるかしら」
私の言葉になんとか納得したような顔をしたものの、順路が進むにつれ、アミーの表情はますます厳しいものになってしまった。
「あの男、子孫にこんなに詳細なわたくしの記録を残したというの。それにわたくしのドレスや宝飾品……どうやって手に入れたの。鳥肌が立つわ」
「はは」
最初は喜んでいたはずなのに、すっかりストーカーされているかのような反応になっていて私も乾いた笑いをこぼすしかない。
「デビュタントのドレスへのパネルなんて『これを着た彼女は世界一美しかった』って、もはや説明じゃなくて感想じゃない」
「それはそう」
「もういいわ、いくわよ」
腕をさするアミーに急かされて、そのまま記念館を後にした。
さて、予定より早くなったしジオと連絡をとろうとタブレットを出す。
「あら、もういるみたいよジオ」
アミーの指差す先には、記念館前の木によりかかり目を閉じているジオがいた。
慌てて駆け寄るとジオが顔をあげる。
「早かったな」
「うん、アミーが鳥肌がたつから限界って急いだから早く終わったよ。待たせないで良かった」
「そうか」
ジオによると買い出しの荷物は宿に送ってもらっているらしい。
だからそのまま帰ろうとのことだが、ジオの手には小さな紙袋が3つ握られていた。
紙袋の持ち手をグシャッと握ったあと、私に向かって突き出す。
「ステラ」
「なに?」
「これ。似合うかと思って」
確認するように促されて見てみると、渡された紙袋の中にはカチューシャが入っていた。
星空のようなデザインで、近くで見ると星がキラキラと輝いて可愛い。もしかしたらなんらかの魔術が組み込まれているのかもしれない。
「ついでに、ほら」
「あら、ありがとう」
もう一つの紙袋はアミーに渡していて、その中には幼児がするぶんには愛らしいだろう髪ゴムが入っていた。
そうだった、よかった、プレゼントは私だけじゃなかった。あやうく興奮で心臓が止まるところだった。
「バランスどうかな、アミー」
「ちょっと屈んで。よし、ちゃんとできたわ」
「ありがとう」
せっかく確認したのだからと、すぐに身につけてみるが、鏡がないのでバランスをアミーに見てもらう。
ちゃんとできたという言葉に、私は気合をいれてジオを見上げた。
褒めてもらえたら嬉しすぎて倒れるかもしれない。ちょっと落ち着こう。
「似合うかな?」
「ああ、似合ってるよ」
嬉しそうに微笑む、私の好きな人が素敵すぎて、どれほど覚悟しても私の心臓が止まりそうなのどうにかしてほしい。
顔を真っ赤にして、慌ててしゃがんだ私はアミーの紙袋からゴムを手に取る。それからアミーの水色の髪を鞄から取り出したクシをつかって二つ結びにして、ジオのプレゼントした髪ゴムを飾る。
世紀の美少女である。
「褒める許可をあげるわ!」
飾り終わったことを理解して、むんっと胸を張るアミーを見てジオは「可愛い可愛い」と棒読みで返している。私はあまりの可愛さなので全力で褒める。ジオはセンスもいいらしい。私の好きな人は完璧すぎる。
アミーの髪飾りは濃い青のキューブがついていて、派手ではないものの、可愛いのは間違いなしなのだ。青色がグラデーションしつつ時間経過で変わっていくので、たぶんこれにも魔術が組み込まれてるのだろう。
「ありがとう、ジオ!大切にする!」
アミーを褒めていたらだんだん落ち着いてきた。お礼を伝えてから、嬉しさのあまりアミーを抱き上げてその場で一回転する。よろけて倒れそうになったら、ジオがそっと背中を支えてくれた。
私もジオに何かプレゼントしたいと、ソワソワしてきてしまい思わず身体を揺らしてしまう。
「ジオ、ジオは欲しいものないの?」
「とくになにも」
「なにかないの?」
「ないな」
アミーの頭を撫でたジオは少し寂しそうに笑って「笑ってくれたら嬉しいよ」と、私とアミーを見つめながら言った。
遠回しに断られると、それ以上なにもできそうにはない。
「お留守番しているロイドにもお土産を買ったんだ。早く戻ろう」
なんだかジオとの間に思ったよりも心の距離を感じて、すっかり肩を落としているとアミーが私の耳元に囁く。
「ああいう男には手作りのものが一番よ」
「そうなの?」
「ええ、マジックネットワークの掲示板に書いてあったわ」
「それ信じて大丈夫かなぁ。うーん、でも、ジオには確かに手作りがいいかも」
それならば何を作ろうかと考えたことでなんだか元気がでてきた。
アドバイスに感謝を伝えながらアミーを地面に降ろして手を繋ぐと、そこまで離れていないジオの後ろ姿を駆け足で追いかけた。