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難しい話なのでおとなしくしている私



 ビリーさんの研究室は見かけは普通の家だったが、地下に続く階段を降りていくとだんだんと普通ではない研究の有り様がみえてきた。

 

「魔法人形、ですか」

「……ああ」

「大陸で禁止されている研究なのは」

「わかっているとも、わかっているとも!」


 犯罪行為に等しい研究なのかと私にはよくわからずに説明がしてほしくてジオを見つめる。


「ジオ、どういうことなの?」

「ドール研究単体ならそこまで問題ではないが、ビリーさんの研究はどう考えても死者蘇生を目的としているだろう」

「死者蘇生」

「彼女、アミーもおそらく人間じゃない。あんな優秀な疑似人格が人間に作れるのかといえば疑問だが」


 ジオの言葉に振り返ったアミーは唇を釣り上げてまるで妙齢の女性のように微笑む。


「ええそうよ。わたくしは疑似人格ではなく魂のあるもの。もともとは業火の魔女フレアと呼ばれていたといえば分かるかしら」


 業火の魔女フレアとは、三百年前に隣国で内乱をおこし火あぶりにされた魔女の名だ。貴族でありながら天性の魔術の才能を人を虐げることにしか使わなかった、人を人とも思わぬ悪女。

 そんな魔女の魂が今、魔術人形の中に入り込んで人のふりをして生きているという。


「怯えなくても良いわ。わたくし今はフレアではなくアミーなの。あの頃と同じではないのだから。まぁ、パパに危害を加えるというならわたくしが相手をしてあげるけれど」


 彼女の手のひらから燃え盛る炎をみて、魔力とは魂に宿る力だという話を思い出す。その見解はあながち間違いではないのかもしれない。

 

「事故死した妻と娘がいないことに耐えられなかったんだ。できるはずもない研究なのは理解していた。だが、人形をつくることはやめられなかった。そうしていたらある日、ミーナの人形にフレアが入った」

「そうよ。ようやく適合する肉体があったからわたくしの復讐に付き合わせようと思ったのに。わたくしが死んだのは三百年も前のことだというのよ?まったく。仕方がないからこのどうしようもない男の娘になってあげてやっているの。わたくし優しいでしょう?」


 説明が飛びすぎてよくわからないものの、復讐相手がいないというだけでビリーの娘としてそばにいることにした彼女は確かに優しいのかもしれない。


「うん。アミーは優しい子なんだね」


 そう感じたら昔からの癖もあって、しゃがんでアミーの頭を撫でる。すると彼女は満足そうに笑って、まるで本当の小さい子のように私にしがみついてきた。

 それにしても「妻と娘がいないことに耐えられなかったと」いうわりに、作りかけの人形は子どものものばかりだ。


「婦人の人形は作らなかったんですか?」

「……作れなかった」


 少女の人形しかないことに違和感を覚えたためにした、私のなんてことのない疑問に、ビリーさんは絞り出すように答えた。

 試みたことは試みたのだろうか。あまりつついても良さそうなものではないと理解して口をとじる。余計なことを聞いてしまったかもしれない。


「だいたい、いくら魔術を極めようとも死者なんて蘇生できるものじゃないのよ」


 三百年前の魂をもつアミーの言葉が、ステラにはどうにも意味がわからずに腕の中の彼女の顔を見る。


「魔女と名高いわたくしでも、適合する肉体を待つ間せいぜい魂を維持することしかできなかった。わたくしの前の肉体は失われたわ。もとのまま復活することなど、どれほど魔科学が発展しようとも絶対に叶わないのよ。だって魂の維持にはわたくしくらいの才能が必要で、魂が入る肉体をつくりあげるには偶然と奇跡が必要なの。なにより成人の肉体の素材はレオンクレアの皇帝が独占しているでしょうね」

「……レオンクレアの千年帝って実在しているの?」

「さあね、わたくしが生きているときでも伝説のような存在ではあったけれど。わたくしがこんな風に肉体を手に入れたのよ。千年帝が実在の人物だとしたら、わたくしが蘇ったのと同じ方法が一番ありえることだと思うわ」


 ぬいぐるみをさすっていたジオは「そうだよな」と光のない暗い瞳で呟く。

 これって多分、ジオには生き返らせたい誰かがいるってことなのだろう。私自身は踏み込んではいないけれど、あのクマのぬいぐるみとおもちゃの剣は遺品かなにかというのは聞いたことがあった。


「わたくしを蘇らせた礼としてビリーの娘としてフレアでもミーナでもなくフレアミーナのアミーとして生きることに決めてやったのだから、研究はやめさせたわ。危ないだけだもの」

「それはいいんだが、旅券はどうするんだ?」


 ふと冷静になったジオがアミーの市民権はどうなっているのだと問えば、ビリーさんは気まずそうに「前所長が逮捕されたときに保護された子供たちの中から引き取ったということで申請した」と答えた。

 私の所属する組織って国を欺き過ぎではないだろうかと呆れる。


「そもそも旅の目的は腕輪の解呪だったわよね?大抵のものならわざわざレオンクレアにいかなくてもわたくしがなんとかしてあげてもよくってよ」


 そういって私の腕をとると腕輪を確認する。するとアミーはみるみるうちにしかめっ面をした。


「なにこれ。これって呪いっていうより……」

「だからレオンクレアに行くしかないんだ」

「……そう」


 ジオが強い口調で断言すると、アミーは怪訝そうにしながら私から手を放した。


「悪いわねステラ、わたくしには解呪できるけどできないわ」

「なんだか、謎掛けみたいだね?」


 アミーの物言いに首をかしげてから「解決しようとしてくれてありがとう」と感謝を伝えると、彼女は頬を上気させた。


「わたくし、そうやって感謝されるのが大好きなの。これからもわたくしへの感謝を忘れなければ守ってあげてもよくってよ」

「ありがとう、アミー」


 気分の良さそうな彼女に再度感謝しつつ、これが歴史に名を残す人を人とも思わない「業火の魔女」だというのがいまいち結びつかない。

 

「パパ、わたくしステラとお話をしてくるわ。旅についてはあなた達で準備を終わらせなさい。いえ、パパが全部終わらせてね。ジオはせいぜい死なないように休みなさい」


 私の手を引き誘導しながら、扉の前で指示を飛ばす彼女に男たちは素直に頷く。

 どうやら私達のリーダーはアミーで決まりのようだ。




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