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カフェデートに浮かれる私



 高速バスから降りてついつい周囲を見回す。

 ルーベン城下町はそれはそれは賑わっている。魔術列車の駅前ということもあって人通りはとても多い。

 最新の魔術モニターからは様々な広告が流れ、どこか疲れた表情の人々が昼夜関係なく行き交う。

 

「ジオ、ジオ!ウィングブーツの新作発表されてる!」

「ああ。というかウィングブーツは危険すぎて禁止されてなかったか?」

「使用時間に制限つけて、かつ、マジックロード専用で、さらには資格所有者限定なんだって」

「そこまでして空中を歩きたいか?分からないな」

「う〜ん、そこは浪漫だよ浪漫。私は高いところ苦手だから嫌だけど」

「アンタも興味ないのかよ」


 たいして興味もないアイテムの広告に食いついていた私にジオは呆れたような表情を浮かべる。

 それはまぁ、若者として十代に人気のアイテムについては流行を押さえておきたかっただけである。あと、ウィングブーツはとにかく夢のあるデザインなのでその点だけは評価している。

 ビリー研究員と連絡をとるジオの隣で、どこか腰を落ち着けそうな場所はないだろうかとキョロキョロと見回す。人が多くて駅前というだけでは合流できそうになかったからだ。


「あ、あのカフェ良さそう。ジオ、あのカフェで待ち合わせしない?」

「ああ、そうだな。じゃあ追加のメッセージを送っておく」


 私の提案に賛同したジオは再度マジックデバイスを起動する。

 通話や動画視聴、マジックネットワークにもアクセスできるとても便利な魔科学アイテムの一つである。一般市民にまで一番広がっているものではないだろうか。

 ジオの使うタブレット型の他にも腕時計型、眼鏡型など様々なものがあるが、腕時計型が主流だ。

 どうしてもタブレットや手帳型より処理能力が落ちるので、ジオみたいな研究者は大型のデバイスを持ち歩くことが多い。私は研究所でできた友人からお下がりを格安で譲り受けたので、流行の腕時計型ではなくジオと同じタブレット型を持っている。


「すごいね、人ってこんなに居るんだね」


 私の感想にジオは痛ましいものを見るような表情を浮かべる。

 どうだろうか、私は自分が幸運な方であることを理解しているのだけれど。


「いらっしゃいませ、店内飲食とテイクアウトどちらでしょうか?」

「店内飲食でお願いします」

「ご注文はお決まりでしょうか?」


 カフェに入るとシンプルながら可愛らしい衣装の店員さんに声をかけられた。

 私は呪文のようなメニュー表を見て、首を横に振る。

 どうやら外出初心者の私には難易度が高すぎたようだ。


「期間限定のアレで」

「同じもので」

「はい、ベリーベリーホイップお2つですね」


 モニターで一番大きく宣伝されているものを指さして事なきを得ようとする私の後ろでジオも乗っかってくる。


「ジオ、相当甘そうだけどいいの?」

「別に甘いものが苦手という訳じゃない。糖分補給は大事だしな」

 

 話をしている間にジオがタブレットでピッと会計を済ませてしまう。


「自分で払ったのに」

「飲み物奢るくらいは全く負担にならないから気にするな。金なんて滅多に使わないし」

「うーん。わかった、ありがとう」


 少し納得はいかないものの、断り続けるのも相手に失礼なのでお礼を言う。

 そうするとジオもどういたしましてと満足そうにしていたので、これで良かったのだろう。


「甘いねぇ」

「そうだな」


 二人でテーブル席で向かい合って座ると、ピンクと赤を基調とした色の可愛い飲み物を飲む。

 顔色の悪いジオがそんなファンシーな飲み物を手にしている違和感にちょっとだけ笑いながら、カフェで一緒にいるのがなんだかデートみたいで幸せを感じてしまう。

 どうにも私は少し浮かれすぎているかもしれないと気を引き締めようと冷静になるために腕輪を見つめる。


「あら、なんだか甘ったるそうな飲み物ね」


 とくに会話もなく数分ほど過ぎたところで、いつの間にか近づいてきていた水色の髪の可愛らしい少女が私の服を引っ張った。おそらく私が話しかけられたのでとりあえず頷くことにする。


「そうだね、甘いよ。あなたはどこの子?」

「わたくしはフレアミーナ・レインよ。ビリー・レインの娘。あなたたちがジオとステラでしょう?」


 むんっと胸を張る5歳くらいの少女は、どうにも子供らしくない物言いをする。

 どうやら既に駅前には来てくれていたのだろう。


「……?ビリーさんの娘さんは亡くなったはずじゃ」


 何かを言いかけて口元に手をやるジオの顔には眉間に深いシワが刻まれている。

 ジオのそんな顔を見てフレアミーナは頷く。


「ああ、そのこと。それはここで話すことじゃないわね。ビリーが自分が入るにはこの店は厳しいって言ってるから早く行くわよ」


 フレアミーナが指差す店の外には、出入り口付近で居心地が悪そうに縮こまっているくたびれた服装の、五十代くらいの丸メガネをしたおじさんが立っていた。

 なんとも心もとなさそうで、立たせておくのが可哀想になる。私とジオは飲みかけのジュースを手にとると急いで店から出た。

 私たちの姿を見てビリーさんは嬉しそうに表情を緩める。


「やあジオ、ここじゃなんだから研究室に行こう」

「ビリーさん」

「ああ、わかっている。わかっているとも」


 睨んでいるようなジオの視線と言葉に、ビリーさんは肩を竦めながらいそいそと歩き出す。その背中はまるで叱られるのに怯えているかのように見えた。


「パパ、子どもみたいな態度でどうするの。堂々となさい」

「わかったよアミー」


 すっと手を差し出すフレアミーナと手を繋ぐ姿は仲の良い親子にしか見えない。

 けれどなんともチグハグな印象を受ける。

 そもそもフレアミーナという存在が異質なのだ。


「そうだわ、あなたたち。わたくしのことはアミーと呼びなさい」


 ビリーさんと手を繋いだまま振り返った彼女は、私たちにそう命令する。

 これでもかというくらいに偉そうだというのに、それが様になっている不思議な幼児である。




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