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夜踊-1

「着いたな、フィーリス。」

リュカが町の入り口を見上げながら言った。

「ここまでは順調でしたね。」

チェルシーも、穏やかに微笑みながら頷く。

「今日はここで1泊することにしましょう。」


リュカは周囲を見回しながら、宿を探しに歩き始めた。

しかし、町の通りは妙に静かで、人影がほとんど見当たらない。リュカは不思議そうに眉をひそめた。

「なんか、人少なくないか……?」

チェルシーは少し困った表情で答える。

「ここはもうアメパインの管轄外ですから、情報が少ないんですよね……」

二人はしばらく歩いた後、ようやく宿を見つけて中に入る。古びた宿だが、温かな明かりが灯り、女将が迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。お泊りですか?」

女将が優しい声で尋ねた。

「はい、1泊、2部屋で。」

リュカが答えた。

「お連れさん、別々の部屋でよろしいので?」

女将はチェルシーの方をちらりと見て確認する。

「ええ、それで大丈夫ですわ。」

チェルシーが落ち着いた声で返したが、何かを感じ取ったように、女将に少し顔を近づけて小声で尋ねた。


「ところで、何かありましたか……?」

チェルシーは警戒心を隠しながら、慎重に聞いた。

「言いにくいんですがね……魔物です。」

女将は少しためらいながら、暗い表情で話し始めた。


「近くに出没したんですか?」

チェルシーが顔をしかめて尋ねる。

「ええ、幸い街道のほうではないのですが……町からそれほど遠くない北西の森のほうです。」

女将は小声で周囲を気にしながら説明した。


「ハンター呼んだのか?」

リュカが少し鋭い声で問いかける。

「もちろんです。ですが、まだ依頼が受注されたという連絡はなくて……」

女将の声には不安が滲み出ていた。

「そういう事情ですので、キャンセルされるお客様も多くて……」

女将は申し訳なさそうに言葉を続けた。

「なるほど。心中お察しいたしますわ。」

チェルシーが丁寧に答える。


リュカは笑って肩をすくめ、

「俺たちはキャンセルしないからな、安心してくれていいぜ!」

「ありがとうございます。精一杯おもてなしさせていただきます。」

女将は少しほっとした様子で、二人に感謝の意を伝えた。


◇◇◇


リュカの部屋に戻り、二人は宿でのやり取りを思い返していた。

「だいぶ参ってましたね。」

チェルシーが静かに呟く。

「依頼出しちまってるんじゃ、勝手に討伐するのも面倒なことになるしなあ。」

リュカは少し困った様子で言う。

「そうなんですよね……現時点では特にできることはないかもしれませんね。」

チェルシーは頷きながら続けた。


「ところで。」

チェルシーが突然話題を変える。

「よく考えたら、私たち、女二人旅なんですよね。」

リュカは一瞬間を置いて考え込み、

「そういえば……そうか。」

「別の部屋って、なんだか違和感ありますよね……。」

チェルシーは少し微笑んで言った。

「たしかに、訳ありっぽいかもしれないな。」

リュカも肩をすくめて笑った。


「今回はたまたま部屋も空いてましたし、よかったですけど……。」

二人は少し気まずい空気になりつつも、お互いの旅の関係について改めて考えさせられる瞬間だった。

「それは次までに考えるとして……。」

リュカは軽く笑いながら言った。

「そうですね、もう少しだけ町の様子を見てみましょう。」

チェルシーも同意し、二人は宿を出て、フィーリスの町を歩き始めた。


しばらくして、リュカが何かを指差した。

「あれか?」

その指の先には、大きな掲示板が見える。


二人は近づいて掲示板を確認すると、チェルシーが掲示を読み上げた。

「魔物に襲われ重体、討伐依頼中、と書いていますね……もう1週間ほど前の記事のようです。」

リュカは腕を組み、

「なんか特徴とか書いてないのか?」

チェルシーはもう一度掲示板を見て、

「オオカミのような獣、二足歩行、木ほどの大きさ、ということらしいですね。」

リュカは少し考え込んでから、

「単体ならそんなに難しくなさそうだけどな。」

彼は冷静に判断しているが、どこか警戒する表情も見せた。


「町の北西に、少しだけ仕掛けておきましょうか、念のため。」

チェルシーが、少し得意気に提案した。

「いいものあったのか?」

リュカは興味を示しつつ、彼女の手元を見つめる。


「折角なので、どれくらい使えるものなのか確認しておかないと。」

チェルシーはそう言いながら、幻書(アルカナ・)の記(コーデックス)から何かを取り出した。リュカの前に現れたのは、小さくて奇妙な植物の形をした人形。魔技装(マギクラフト)泣き叫ぶもの(マンドラゴラ)」だった。

「かわいい。」

チェルシーは満足そうに微笑む。

「そうかな……。」

リュカは首をかしげた。


「いくつか設置しておきましょう。これには少量の魔力が込められていて、手を出すと大声で知らせてくれます。」

チェルシーは、泣き叫ぶもの(マンドラゴラ)を周囲に配置しながら説明する。これはメジャーな罠であり、魔物が侵入すればその叫び声で警告を発する。だが、普通の人間が引っかかるとは考えにくい。


「人間相手ならまず引っかからないだろうけど、魔物相手なら充分だな。」

リュカは警戒を強めながら、設置作業を見守った。


「勝手にやってることですし、このくらいにしましょうか。」

チェルシーが手を止め、設置を終える。

「わかった。これが発動しなきゃいいけどな。」

リュカは苦笑いを浮かべた。

「そう祈りましょう。」

二人は町外れに仕掛けた罠に一抹の不安を抱えながらも、宿に戻ることにした。


◇◇◇


部屋に戻ると、リュカはさっさと食事の準備を進めながら言った。

「今日は早めに食事を済ませて休んでおこうぜ。」

「そうですね、わかりました。」

チェルシーも同意して、簡単な夕飯を一緒に取った。初日だからこそ、予想以上に疲れているのだとリュカが言う。

「初日って意外と疲れてるもんだしな。」

その言葉に、チェルシーも静かに頷き、二人はそれぞれの部屋に戻る。


突然用語説明コーナー


泣き叫ぶもの(マンドラゴラ)

攻撃すると大音量の声を上げるトラップ。業界では割とメジャー。

今回のお話のように市街戦で使うと敵にも味方にも住民にも被害が及ぶのでノーマナー。

使用の際はよく考えましょう。

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