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誕生-3

リュカは朝の光を浴びながら、ユージーンの部屋に向かって歩いていた。前日の体についての戸惑いはまだ残っていたが、今日は別の問題に頭を悩ませていた。


「おじさま、いるか?」

部屋の扉をノックしながら声をかけると、中からすぐにユージーンの返事が聞こえた。


「入れ、リュカ。」

リュカは扉を開けて中に入り、ユージーンの前に立った。彼は少し真剣な表情で、今回の相談を切り出した。


「今日相談があるのは、戦闘服のことだ。」

ユージーンはその言葉に眉を上げ、興味深げにリュカを見つめた。

「戦闘服? どうかしたか?」

リュカは苦笑しながら、自分の服を軽く摘んで見せた。

「体動かしてみようと思うんだが、もうちょっと動きやすそうな服ってないか?」


ユージーンはリュカの言葉に笑みを浮かべながら頷き、少し考え込むようにして言った。

「実はな、アメパイン家には伝統の戦闘服があるんだ。」

そう言って、ユージーンは背後のクローゼットから何かを取り出した。それは……際どい角度のレオタード。


「これは……!なかなかだな……」

リュカはその服を見つめ、言葉を詰まらせたが、かろうじてそう呟いた。ユージーンは満足げに頷きながら説明を続けた。

「そうだろう? ちなみにチェルシーには『死んでも着ません』と言い捨てられたよ。」

「まあ、そうだろうな……」

リュカはため息をつきながら、ユージーンとチェルシーのやり取りが簡単に想像できてしまった。


「ものは試しだ、着てみるよ。」

その言葉に、ユージーンは驚きの表情を浮かべた。

「本気で言ってるのか?」

リュカはユージーンの驚きをよそに、腕を組みながら返した。


「そっちこそ、嘘は言ってないよな?」

ユージーンは一瞬困ったように眉をひそめたが、すぐに軽く笑みを浮かべた。

「まあ……嘘は言ってないぞ、嘘は。」

リュカはユージーンの言葉を半信半疑で受け止めながら、服を脱ぎ始めた。

「……だから!そういうところを気をつけろと言ってるんだ!」

ユージーンは慌てて手で顔を覆い、焦りながら言った。リュカはその言葉に動きを止め、軽く頭をかきながら困った顔をした。


「……そうだった。どこで着替えたらいいんだ?」

ユージーンはため息をつき、少し考えた後、指で奥の部屋を指さした。

「そこで着替えろ。だが……本当に着るのか、それ?」

リュカは笑いながら、レオタードを手に取り、部屋の奥へと向かっていった。しばらくしてうんうんと試行錯誤をしている声が響いてきた。


静かになったあと、リュカが部屋の奥から出てきた。際どいレオタード姿だったが、彼の表情は意外にも満足そうだ。

「着たぞ、思ったより悪くないな。」


ユージーンも腕を組んで、真剣な表情でリュカを見つめた。彼はしばらくリュカを観察し、軽く頷いた。

「なるほど……思ったより……悪くない。」

その言葉にリュカは軽く笑みを浮かべるが、そこへ静かに忍び寄った存在に気づいていなかった。

「なーにが『なるほど』なんですか。」

突然、背後からチェルシーの声が響いた。リュカは驚きながら振り返り、チェルシーの冷ややかな視線と鋭い言葉に直面した。


「やっぱりただのおっさんだろ、こいつ。」

リュカは軽く肩をすくめ、ユージーンをからかうように言った。ユージーンはため息をつき、困ったように眉をひそめた。

「まったく、何を着せてるんですか。」

チェルシーがユージーンに詰め寄る。だが、リュカはすぐにフォローに入った。

「いや、チェルシーさんよ。見た目はアレかもしれないが、機能的には結構すごいぜ。」


リュカは自分の体にフィットしているレオタードを指しながら説明を続ける。

「適度な締めつけと動きやすさ。上の山のカバーもバッチリだしな。」

その言葉に、チェルシーは呆れたようにリュカを見つめ、少し頬を赤らめた。

「何言ってるんですか。」

リュカは苦笑しながらも、さらに真剣な表情で付け加えた。

「それよりも、何よりすごいのは……体の中の魔力の流れが整った気がするんだ。」


その一言に、ユージーンとチェルシーは一瞬驚いた表情を浮かべた。チェルシーはすぐに気づきを得たように、驚きの声を上げた。

「魔力の……? そうか、魔力ですよ……!」

リュカはその反応に首を傾げ、眉をひそめた。

「どうした?」

チェルシーは少し興奮気味に説明を始める。


「いえ、女の子になったってことは……そういうことですよ。体の中に微量ながら魔力が存在しているってことです。」

ユージーンもその言葉を聞いて、納得した様子で頷いた。

「それは確かにそうだ、俺もそこは盲点だったな。」

しかし、リュカは眉をひそめたまま、少し不安げな表情を見せた。

「微量……? 溢れ出してる感じがするけど、これで微量なのか……?」

リュカがそう呟いた瞬間、チェルシーとユージーンは二人とも目を見開き、驚愕した表情を見せた。

二人の表情がすごいことになっている。リュカはそのリアクションに、少し戸惑いながらも自分の中で感じている魔力の変化を再確認していた。


「ちょっと動いてみるぜ。」

リュカはそう言いながら、中庭へと歩き出した。チェルシーとユージーンも後ろからついていく。


「勝手にあの服を出したこと、まだ許してないですからね?」

チェルシーは、ユージーンに向けて少し不満そうな視線を送る。

「へいへい……とりあえず見に行こう。」

ユージーンは軽く肩をすくめ、様子を見守るように立ち止まった。


中庭に出ると、リュカは軽く肩を回し、手足を伸ばしながら体をほぐすように動かし始めた。少しずつ足元の感覚を確かめるように、軽いステップを踏む。

「ひゅー、動きやすいな、これ。」

リュカは軽く跳びながら、軽快に動き回った。戦闘服のフィット感と、体の軽さに驚いていた。次第に自分の身体に流れる力が高まってくるのを感じながら、少しずつ動きが鋭くなっていく。

次の瞬間、リュカはふと自分の得意としていた剣術の型を思い出した。無意識のうちに、体がその動きを再現しようとする。彼は、足を大きく開いて構えを取り、手に剣があるかのように空中で剣を振るような動作を始めた。


「なかなか可憐じゃあないか……」

ユージーンがそう呟いた。

リュカは流れるように一つ一つの型を決めていく。軽快に踏み込んで攻撃のポーズを取ったり、軽やかに身をひねりながら防御の動作を決めたりして、次第に体に馴染んでいく感覚をつかみ始める。


「……なんだ、やっぱ体の動きはいい感じだな。」

リュカは、型を一通り終えると軽く汗を拭きながら、体がしっくりくることに少し満足そうな表情を見せた。しかし、次の瞬間、体の中に異様な感覚が押し寄せてきた。


「……ん? なんだ、この感じ……」

リュカは急に違和感を覚え、足元を見下ろした。体の中で何かが高まっていくような、不思議な感覚が広がっていた。それは単なる筋肉の疲れではなく、まるで体内から何かが溢れ出しそうな気配だった。


「やば、なんか出そう……」

突然、リュカは顔をしかめ、慌てた様子を見せた。チェルシーは驚いて目を見開き、すぐに駆け寄った。


「待ってください、出さないで!」

意味がわからないまま、チェルシーは焦ってリュカを止めようとする。しかし、リュカが軽く手を振り上げた瞬間――


リュカの手の中に突然一振りの剣が現れた。

「……これ、剣?」


リュカは驚いた表情で手に生み出された剣を見つめた。それは、完全に彼の魔力から作り出されたものだった。重みのある確かな感触があり、まるで実戦用の剣のようだ。


「これ、魔法で剣作り出して戦えるってことか……?」

ユージーンとチェルシーはリュカをじっと見つめ、驚きを隠せなかった。リュカは剣を握りしめながら、過去の記憶が一気に蘇った。


「そうか……あいつ、そんな魔法を使ってきたな……俺の剣、全部止められたんだ……」

リュカはその時、自分がかつて戦った少女――自分の体を奪った相手が、同じように剣を生み出して戦っていたことを思い出した。そして今、リュカ自身がその力を手にしていることを実感する。


「これが……あの時の力か……」


中庭での特訓が続いていた。リュカは剣を握り、魔力をコントロールしながら一心に技を繰り出す。剣の切れ味や動きには、時折成功と失敗が混ざり、魔力の流れを掴みかけては逃すような感覚があった。

「魔力がきれいにコントロールできるって、こういうことなのか?」

リュカは汗を拭いながら呟いた。その声には戸惑いと疑問が混ざっている。


チェルシーは、少し疲れた様子で頷きながら答えた。

「私は魔技装(マギクラフト)にだいぶ頼っちゃってますから……魔力のコントロールだけっていうのは、なかなか難しいんですよ。」

「そうか……魔技装(マギクラフト)を持ってたときは、なんかありもしない魔力を吸い取られるような感覚があったんだよな。だが、こっちは違う。溢れるエネルギーをきれいに出せるかどうか……そんな感じだな。」

リュカは手の中に剣を作り出しながら、魔力の流れを感じ取っていた。その感覚にまだ慣れ切れていないが、確実に進歩しているのがわかった。


チェルシーはその姿をじっと見つめ、軽く笑いながら言った。

「リュカさん、魔力を使いこなしてるじゃないですか。」

リュカは苦笑いを浮かべながら、少し首を振った。

「こういうもんなのか……正直、いまいちわかんねえけどな……」


チェルシーはリュカの顔を見て、微笑んだ。その表情に、リュカは一瞬戸惑ったが、すぐに問いかけた。

「なんだよ、何か変か?」

「嬉しそう。」

「え?」

「なんでもないです。」

チェルシーは軽く肩をすくめ、視線をそらした。


「さすがにそろそろ疲れてきたんじゃないですか?」

リュカは剣を握り直し、軽く振ってみせた。少し息が切れていたが、彼は頑丈な笑みを浮かべながら答えた。

「いや、まだまだ大丈夫だ。もう少し特訓していく。」

チェルシーは少し心配そうに眉を寄せたが、やがてため息をついて頷いた。

「わかりました。無理しちゃダメですよ。」


リュカは軽く頷き、再び魔力を集中させて剣を振り始めた。チェルシーはしばらくその姿を見ていたが、ふと何かを思い出したかのように口を開いた。

「私は気になることができたので、先に部屋に戻りますね。」

リュカは短く返事をした後、ユージーンをちらりと見た。


「おじさまも、いつまでもリュカさんを眺めてないで。お仕事とか、ないんですか?」

チェルシーが少し皮肉交じりに言うと、ユージーンは軽く肩をすくめ、苦笑した。

「そうだな……名残惜しいが、そろそろ戻るとしようか。」

そう言いながらも、ユージーンはしばらくリュカの動きを眺め続けていた。その姿は、リュカの成長を見届けたいという思いが感じられるものだった。


突然用語説明コーナー


魔技装(マギクラフト)

魔力を動力に作動する機械。生活用から戦闘用まで様々なバリエーションがある。

ただし、燃料となる魔力はそこまで安価ではないため、生活用のものは低燃費で安定性の高いものが求められている。乗り物などは燃費が悪く、特に公用のものとしてはあまり発展していない。

逆に、自前で魔力を入手するすべがあるハンターたちの間では高コストの乗り物が使われるケースもある。

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