表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/35

誕生-2

「そうと決まったら早速動いていかないとな。」

リュカは力強く言い放ったが、すぐにユージーンが首を振り、少し落ち着いた声で返した。


「まだ目を覚ましたばかりなんだ。少しはその体に慣れたほうがいい。」

リュカは不満げに顔をしかめたが、すぐにニヤリと笑ってから、からかうように返した。


「あら、優しいおじさま。」

ユージーンの表情がピクリと反応し、少し困ったように顔を歪めた。


「そういうのは心を抉ってくるから程々にしてくれ……」

その言葉に、チェルシーもクスッと笑いを浮かべた。


「私も、2、3日休んだほうがいいと思います。体がまだ慣れていないかもしれませんし。」

だが、リュカは即座に反論する。

「そんなに休んでられるかよ!」


その勢いに対し、チェルシーは冷静なまま軽く肩をすくめた。

「どんな体なのかまだわからないんですよ。明日目が覚めたらスライムになってるかもしれない……」

その言葉に、リュカの表情が一瞬固まり、少し真剣に考え込んだ。

「……縁起でもねえ……いや、でも……まさかな……」


ユージーンが笑みを浮かべながら頷いた。

「そうだな、少しゆっくりしてくれ。おじさまの命令だ。」


リュカは少し不満そうにため息をつき、考え込んだ後に言った。

「すこし、歩いてきていいか? やることがないとウズウズしてきた。」

ユージーンは軽く頷いた。

「構わん。だが、屋敷からは出ないようにな。」


チェルシーも優しく微笑みながら付け加えた。

「私は部屋に戻ります。また食事の時に声をかけてくださいね。」

「わかった。」


一人で庭を散歩するリュカ。穏やかな風が吹き抜ける中、彼は自分の体に対する違和感と向き合っていた。

「あー、何もかもが違和感だな……落ち着かねえ。」

小さな手を見下ろし、ため息をつきながら自分の体を改めて確認する。


「体はなんか小さいし、手足も短いし……」

リュカは思わず、ぴょんと軽く飛び跳ねてみた。その瞬間、思っていたよりも体が軽く感じられた。だが、何か別の違和感が同時に襲ってきた。

「飛び跳ねたときに地味にちょっと胸が重い……?」

彼は一瞬考え込み、驚いたように目を見開く。


「いや、でも……自分の体だしな……確かめておかないと……」

そう思いながら自分の胸元に手を当ててみた。すると、顔が一気に赤くなり、焦り始める。

「クソ、変態みたいじゃねえか……! あとでおじさまのところに相談だな……」

リュカは頭を抱え、ため息をつきながら歩き続けた。体に慣れるというのは想像以上に厄介なものだった。だが、目の前の花々や緑に囲まれた庭を歩きながら、次第に少しずつ落ち着きを取り戻していく。


「いざ、この体で過ごせって言われるとな……どうすりゃいいんだか……」

一人ごちるリュカ。ふと、反射する水面に映る自分の姿を見つめ、少しだけ呆然とした。

「……あと俺、ちょっと可愛いよな……」

そう呟いて、リュカは顔を赤らめながら笑みをこぼした。


そんなことをしているうちに、突然お腹が鳴る音を聞いて、眉をひそめた。

「……何も食ってないもんな。」

自分の体を見下ろしながら、思わずため息をつく。新しい体になってから、何も食べていないことを思い出した。

「しかし、この体も腹は減るのか。神秘だな……」

そう呟きながら、リュカは不思議そうに腹を押さえた。この新しい体で何が普通なのか、まだ理解しきれていないが、とにかく腹が空いていることだけは確かだった。


「ここまでくると、どこまで人間なのか気になってきた……」

リュカは軽く肩をすくめ、屋敷に戻ろうと足を踏み出した。

「とにかく飯だ、おじさまおじさま、ごはんですよーっと。」


食事の準備が整い、リュカ、ユージーン、そしてチェルシーが食卓に座った。リュカは初めてこの新しい体で食事をすることに、少し興奮していた。

リュカはフォークを手に取り、口に運びながらニヤリと笑う。ユージーンはその食べ方を見て、少し困惑した様子で呟いた。

「もうちょっと食い方はなんとかならんのか……?」


リュカの動作はどこか荒々しく、優雅さとは程遠い。しかし、その勢いで次々と食べ物を口に運んでいた。

チェルシーが、リュカの皿をじっと見ながら言った。

「あの……リューガさんのときより食事量多くないですか……?」

リュカは一瞬考え込んだが、すぐに肩をすくめて返した。

「そうか?飯がうまいからじゃない……?」


チェルシーはさらに疑問を深めた。

「食べた分がどこ行ってるのかわからないですよ……」

「そうなんだよ、おじさま。」

リュカが唐突にユージーンに話を振ると、ユージーンは困った表情で顔をしかめた。

「だから、唐突なおじさまはやめろと……」

リュカは笑いながらも、真剣な表情に切り替えた。

「俺、どこまで人間なのか確かめたいんだ。」


その言葉に、ユージーンは驚いたようにリュカを見つめた。すると、リュカはさらに言葉を続けた。

「だから後で風呂行こうぜ。」

その提案にユージーンはさらに眉をひそめ、問い返す。

「お前、それは自分の体を見て言ってるのか?」

「……たしかに。」

リュカは急に冷静になり、困惑した表情を浮かべた。自分が少女の体になっていることを忘れていたようだ。


「え、俺どうすりゃいいの……」

リュカは軽く頭を抱えながらため息をついた。

「誰か正しいこと教えてくれよ……」

すると、リュカはチェルシーに視線を向けた。

「なあ、チェルシー。」

チェルシーは静かに目を伏せ、少しだけ笑みを浮かべた。

「お断りします。」

その一言に、リュカはさらに困惑し、ユージーンは小さく笑った。

そうして小さな晩餐は終幕へ向かうのであった。


食事が終わった後、リュカは静かに考え込んだまま、ユージーンのもとに向かった。今まで冗談半分で話していた体の違和感が、どうにも拭えない。彼は一度立ち止まり、心の中で覚悟を決めた。

「おじさま、ちょっと本気で話していいか?」

ユージーンはその言葉を聞き、リュカのいつもの軽い口調が変わったことに気づいた。彼は顔を引き締め、リュカの方をじっと見つめた。

「どうした、リュカ。何が気になる?」


リュカは少し間を置き、深呼吸をしてから静かに言った。

「俺、この体……本当にどうなってんのか、よくわかんねえんだ。魔法で体が変わったのはわかってる。でも、どこまで俺が俺なのか、どこまで人間なのか……それがわかんねえ。」

ユージーンはリュカの目を見つめ、その真剣さを理解した。そして、ゆっくりと息を吸い込みながら答えた。


「どこまで人間か…ねえ。細かいことはいいんじゃないか?ちゃんと腹は減ったんだろう?食って出して寝て、それができてりゃ体は人間だ」

リュカはその言葉を聞いて、少し安心しながらも眉をひそめた。

「なんか雑じゃね?」

ユージーンは真剣な表情を崩さず、リュカの肩に手を置いた。

「そうだなあ、少しずつ今の体を理解していくしかないんじゃないか。無理に動かすんじゃなく、少しずつな。体がどう反応するのか、どう感じるのかを知ることが重要だ。」


リュカはその言葉に静かに頷きながらも、まだどこか腑に落ちない気持ちが残っていた。

「でも、俺が自分の体をちゃんとわかるには……正しいことを誰かに教えてもらわねえと……」

その言葉にユージーンは、少しだけ苦笑いを浮かべた。

「その話なら、チェルシーに聞いてみたらどうだ?俺にはわからん、なんたって俺は男だからな」

リュカはため息をつき、冗談めかして答えた。

「そういうことだってのはわかってたんだな。まあそうだよな……おじさまにはわかるわけないよな……」


チェルシーの部屋の前に到着したリュカは、軽くノックをした。

「チェルシー、いるか?」

部屋の中から優しい声が返ってきた。

「どうぞ、開いていますよ。」


リュカは少し戸惑いながらも、ドアを開けて中に入った。チェルシーは机の上に並んだ書類に目を通しながら、リュカを迎え入れた。

「どうしたんですか、リュカさん?こんな時間に。」

リュカは少し不機嫌そうな表情を浮かべつつ、ため息をついた。


「……仕方なく来たんだよ。おじさまに相談しろって言われてな。」

チェルシーは微笑を浮かべながら、リュカの姿をじっと見つめた。

「それはまた仕方なく、ですね。でも、何か困っていることがあるなら、お聞きしますよ。」

リュカは腕を組み、しばらく黙っていたが、やがて観念したように口を開いた。


「正直言って、俺、自分の体がどうなってんのか全然わかんねえんだよ。魔法でこうなったのはわかるけど……どこまでが俺で、どこからが違うのか……さっぱりだ。」

チェルシーはリュカの言葉をじっと聞き、考え込むように視線を合わせた。そして、ふっと優しい微笑を浮かべながら、軽く肩をすくめた。

「そうじゃ、ないですよね?」

「え?」


リュカは思わず眉をひそめた。チェルシーは冷静に、しかし核心を突くように言葉を続ける。

「あなたはそんなに細かいことを気にする人じゃないはずです。」

「いや、その……」

リュカは言葉に詰まり、視線をそらしたが、チェルシーは続けて容赦なく追い打ちをかける。

「あなたが困っているのは……ただ、あなたが『女の子』だからでしょう?」


チェルシーは一息つき、さらに真剣な口調で続けた。

「まあ……男の子的には色々と困る部分があるのかもしれませんが……」

リュカはその言葉を聞いて、少し頬を赤らめ、困惑した表情を浮かべた。

「まあ……そうだな……いろいろと……」

チェルシーはクスッと笑みを浮かべたが、すぐに冷静な表情に戻って話を続けた。


「でも、慣れるしかないですよ。女の子だって人間なんです。繊細で、ガラスのように扱わないといけないなんてことはない。私たちは、ただの人間ですから。」

リュカはその言葉を聞いて、しばらく黙り込んだ後、ため息をついた。

「……全く解決する気がしないんだが。」

チェルシーは軽く笑みを浮かべながら、リュカに優しく言った。


「3日もすれば慣れますよ、あなたはそういう人です。」

そう言い残して、チェルシーは扉を静かに閉めた。

バタン、とドアが閉まる音が部屋に響く。リュカは一人取り残され、呆然と立ち尽くしていた。

「……なんか気合い入れて相談に来たのに、これでいいのか……?冷たくねえ……?」

彼はしばらく考えた後、仕方ないと思い直し、軽く肩をすくめた。

「しょうがねえ……また明日にでもおじさまに相談するか。」

リュカは再び廊下に戻りながら、次の手を考え始めた。

「とりあえず今日は寝るか……」

突然用語説明コーナー


魔力

魔法を使うときに必要なエネルギーの総称で、魔女の力の源。元来、女性の体内に存在しており道具に込めたりすることで他者に利益を享受させることも可能であった。

使い魔(ファミリア)、魔物などから精錬抽出することが可能となったため、様々な魔力を使う機構が開発されることとなり、文明は大きく発展した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ