君だけがいない
※あえて最終話のみ書いてみるという実験的な作品です。
最終話以前を想像しながら読んでみて下さい。
あらすじ
主人公は、どこにもいない「君」を想いながら、路頭で死んでゆく。
――『君に会いたい』。
そう願う時、僕の瞳はいつでも涙を浮かべていた。
高濃度アルコール、焦げ付いた覚醒剤…。
甘い毒に犯された胡乱な視界。
幻覚質の真実が、僕を涙させるのだ。
たくさんのものが見える。
戦場に置き忘れた友の亡骸、幼い日の夢と、太陽の匂いが染みたテラスの情景。
けれど、そこにはいつだって…
そう、どんなに願い、待っても…
『君だけがいない』…。
幻覚の中でさえ、錯視や夢想の一隅にさえ、君は見つからない。
会いたい、もう一度だけ。
そう望む。
神は残酷にも嘲笑う。
守ってみせる…。叶わなかった約束を、今もなお責め立てて。
神は与えない。
死に際の僕にさえ。
白い闇の中、ワスレモノの友が手を振っている。
『君に、会いたい』。
願い儚くと、神は苦笑し、誓う。
もう二度と会えはしない。
命が永遠を息吹くなら、永遠に。
死後の世界でさえ、そう決して。
雑踏の中で酒頭。僕は一人だ。
短い生涯、失う物の数。
すれ違い、言葉交わした人々の影…。
視線を馳せて、僕はつぶやく。
「……この世界、君だけがいない」…。
‐終‐
実験でした。お疲れさまです。
読んでくれてありがとうございました。