窓に残ったメッセージ
ちょっとしたメッセージものです。
楽しんでもらえるかな……。
窓に残ったメッセージ
沖田博史は何時ものように先頭車両の一番前のドアから電車に乗り込みボックスシートの窓側に腰を下ろした。終電より何本か前のこの時間の電車は空いていてシートに腰を下ろせるのが、もう年配の博史には嬉しかった。この車両の中にはポツンポツンと数名の乗客が座っているだけである。窓から停車中のホームをぼんやりと眺めていた博史は、自分の吐息で窓が曇ってきたのに気付いた。そして、そこに何か書かれている事にも気が付いた。
・・・なんだろう? ・・・
博史は興味に駆られて、さらに息を窓にかけてみる。電車の窓にハッキリと文字が浮かんできた。
・・・たすけて ? ・・・
確かにそう見える。
・・・何故、電車の窓にこんなメッセージが? ・・・
博史はイタズラだろうと考えるが、どんな人がこれを書いたのか気になった。この電車は、この駅に到着した電車がそのまま折り返して、この駅始発の電車となる。おそらく、このメッセージを書いたのは、この電車でこの駅まで乗ってきた人。博史は、この電車が到着した時に降りた人を思い出すが、スーツ姿の若いビジネスマン、セーラー服の女子学生、ジーンズにラフなジャケットを羽織った中年の男性、他にもいたように思うが思い出せなかったが、この席の近くの乗降口から降りてきたのはこの三人だったように思う。博史は改めて書かれた文字を見る。“た“と“け“に比べて、“す“と“て“の文字は小さいように感じる。それに、この丸っぽい文字は女性が書いたのではと想像出来た。それに、ビジネスマンや中年の男性が書いたと考えるより、セーラー服の女子が書いたと想像する方が楽しいよな。博史は一人想像に没頭する。
・・・あのセーラー服の女子学生か ・・・
博史はさらに想像を膨らませていく。中学生くらいの彼女が窓に息を吹き掛けて文字を書いていく。
・・・どんな場面が想像出来る? ・・・
女性が窓にメッセージを書く。博史は考えながら窓を見つめていた。そして、ふと思い付いた。なるほど、そういうことか。博史は可笑しくなった。
・・・そういえば彼女 電車から降りるとき、悪戯をした子供のように口許が笑っていた ・・・
彼女の可愛い悪戯に博史も微笑んでいた。きっと彼女は今、恋をしているのだろう。好きな人、あるいは恋人の名前を窓に書いてしまった。降りる駅が近くなって彼女は、窓に書いた名前を消そうとした。でも消せなかったのだ。たとえ窓に書いた文字でも好きな人の名前を消すのに抵抗があった。一部分だけ消してしまった好きな人の名前を見て彼女は考えたんだ。ここに文字を加えて全然別な意味にしてしまおうと。
好きな人の名前は「たけし」や「たけひろ」とかそういう名前だったのだろう。窓に残った「た」と「け」の文字に、他の文字を付け加える。
これを見た人はどう思うかな。彼女はそれを想像し、思わず笑みを浮かべてしまったのだ。
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