プディング村の災難
村に着いてさっそく村長さんに話を聞くことになった。
やってきたのが勇者様とあって、年配の村長さんは大層、驚かれていた。
「それで、困りごとって聞いたけど具体的には何に困ってるの?」
「最近、北の都市ノーザンからの行商の荷馬車が野盗に襲われることが増えてしまいまして……」
「なんだ、モンスターじゃないのかぁ……」
ナツメ様はあからさまにガッカリしたようだった。
いわく、勇者としての力をふるうなら人よりモンスターのほうが手加減なしで戦えるのでワクワクするらしい。
人の役に立つべき勇者様として、それはちょっとどうなのかな、と思ったり思わなかったり。
「ナツメ、行商の荷馬車が襲われるのは村にとって死活問題ですわ。もっと気を引きしめなさいな」
「はいはい、わかってるよ」
これはさすがにアイリス様が正しいです。
農業で食べることには困らなくとも衣服や薬、生活用品は行商人から買わなければ生活が成り立たない。
小さな村出身の私からしてみれば村長さんの悩みが痛いほどわかる。
「次の馬車が来るのはいつですの?」
「明後日、ノーザンから出発して三日かけて到着する予定です」
「ふむ……」
考え込んだアイリス様はとなりに立っているリズ様をチラりと見て、
「それでしたら、わたくしたちでノーザンからの道中を護衛いたしましょう」
「お願いできるのですか!?」
「お嬢様!」
感激する村長さんとは裏腹に、リズ様は慌てて主人を止めにかかった。
「お嬢様、我々の今回の任務はあくまで調査です。危険がなければ助力することに否はありませんが、野盗との戦闘も想定するならお嬢様を連れていくわけには参りません!」
ショコラータ公爵家のご令嬢に危険が及ぶようなことはボディガードとして許可できない。
まじめなリズ様の言う通りなのだけど、それくらいで引き下がるほどアイリス様も従順な方ではありませんでした。
「リズ、領主の務めとは何ですの?」
「……領地を統治し、領民を守ることです」
「なら、この村の皆様の生活を守ることもわたくしの務めではなくって?」
アイリス様の身分に気付いて目を丸くしている村長さんとは裏腹に、やっぱりこうなったか、と言いたげにリズ様は大きなため息をついた。
ナツメ様とはまた少しちがう方向でつっぱしるアイリス様。
リズ様、今度お時間のあるときに「主人のお世話に苦労する従者のお茶会」でも開きましょう。
甘いお菓子を食べながら日頃の文句をいっぱい吐き出してやりましょう。
「まあまあリズ、わたしもアイリスの安全を第一に考えるからやってみようよ。いざ危なくなったら行商人さんも連れて逃げればいいし」
モンスター退治じゃなくてガッカリしていたナツメ様がめずらしくリズ様に慰めの言葉をかけた。
アイリス様は一度「こうだ!」と決めたら意地でも意見を引っ込めないことを私たちは知っている。
主人の意向には逆らえないのがお世話係のツラいところです。
結局、アイリス様の提案通り、私たちはノーザンの街に行って行商の荷馬車を護衛することになりました。