車中にて
「村人の困りごと?」
馬車にガタゴト揺られながら私たちはプディング村を目指していました。
「民草の悩みを解決するのも公爵家の者の務めですわ」
えっへんと胸を張るアイリス様。
でも貴族のご令嬢が自ら出向くほどのことなのかしら。
ナツメ様も同じことを思ったようで、
「そんなの冒険者に依頼を出せばいいんじゃない?」
冒険者ギルドに所属する冒険者は日々さまざまな依頼をこなして生計を立てている。
複雑な事態には領主様が関わって直接、指揮をしたりもするけれど、簡単なことは冒険者に依頼を出して解決するのが一般的です。
ナツメ様も生活自体は冒険者と似たような暮らし方をしているけれど、勇者という立場上、王都や王宮に出向いたりと通常の冒険者とは異なる役割を果たすこともあります。
そのため冒険者ギルドに舞い込む依頼をこなすことはさほど多くありません。
「今回の件は冒険者ギルドから上がってきた話なのです」
リズ様が含みのある言い方で説明した。
通常の冒険者では力不足というわけではなく、領主様の目を通してもらったほうが良い案件だと冒険者ギルドが判断したわけだ。
「それでアイリスたちが調査することになったのね」
「あくまで調査なのでアイリス様の同行も許可を得られました」
「なんでしたら問題を解決してしまっても構わないのですわ。わたくしの魔法でちょちょいのちょいですの!」
アイリス様は自信たっぷりに腕を組んでみせた。
「お嬢様、あくまで調査です。危険なことに首をつっこむようなマネは私が全力で阻止させていただきます」
好奇心にうずくアイリス様にリズ様がピシャリ。
水をさされたお嬢様はほっぺたをブーとふくらませた。
アイリス様は好奇心旺盛な方ゆえにアカデミーで魔法の修得にも精を出したおかげで、その腕前はそこら辺の冒険者にも引けを取らない。
とはいえ、貴族のお嬢様には違いないのでボディガードのリズ様は気を緩めることができないのだった。
「まあ何かあればわたしもアイリスを守るから心配ないでしょ」
「ナツメに守られるほど、わたくしは弱くありませんわ!」
何かとナツメ様に対抗心を燃やすアイリス様をしり目に、私は今回の小旅行が無事に終わることを願いました。