表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ナマケモノ、コアラ、ラッコ

棚ぼた式悪役令嬢の幸せな日々。by コアラ。

作者: 三香

「悪役貯金、始めました」と同じ王国です。

乙女ゲームの話など同じ設定はありますが、独立した別作品になります。

よろしくお願いいたします。

 私は鏡に映った自分にうっとりとした。

 嬉しい。かわいい。

 前世の千倍も可愛い。

 だってコアラだもの。


 どうやら私は、地球の輪廻転生から外れて異世界に転生してしまったらしい。


 神様が、能力1、外見に99としたような可愛さに全振りしたみたいな生き物のコアラに。でもコアラって知能が大人になっても赤ちゃん時代からほとんど成長しないから、可愛くってごめんなさいって感じなのだ。


 あ、私はちゃんと知能の成長はあった。

 何しろ姿は人間だから、動物のコアラと違って人間の高い知性があるのだ。

 

 コアラの愛らしさと人間の知性、異世界転生の勝ち組と思ったけどコアラの特性もしっかり備わっていて、私の睡眠時間は1日20時間もあるのである。ちょこっとぴぇんと泣いた。


 前世の社会保障や医療が完備された世界ではないのだ。

 コアラは絶滅コース寄りでも自然界だから生存が可能であって、20時間も眠る私は人間としては完全な社会不適合者なのだ。起きている4時間で食事やお風呂や運動や勉強や盛り沢山にあって、自力だけでは困難で誰かにお世話してもらえないと生活できないし。


 もし貧しい平民の家に生まれていたら、労働力にならない子どもとして早々に棄てられていただろう。

 貴族の家であっても、将来的に政略結婚にも使えない子どもとしてコッソリ処分されていただろうし。

 私のようなコアラやナマケモノなど役に立たない特性の子どもは、ほぼ秘密裏に廃棄されるのが慣例なのだ。

 お金持ちの貴族で愛情深い両親の元に生まれた私は超ラッキーなのである。ありがとうございます、お父様お母様。


 この世界は人間と獣人の混血の世界だ。

 容姿は人間で、特性は獣人。獣人の色んな血が混ざりに混ざっている世界だから、誕生する子どもは兄弟でも同種でないことが多々ある。


 私は伯爵家の次女で、お兄様とお姉様がいるのだけど。

 お兄様はジャガーの特性持ちだから、瞬発力は凄いし時速80キロで走れるし、伯爵家の後継者兼近衛騎士でキラーンとカッコいいし。

 お姉様は白鳥の特性持ちだから空を飛べるし姿は優美だし、社交界の花として有名なクールビューティーな美女だし。

 自慢のお兄様とお姉様なのだ。


 そして私は魔法が使える、1種類だけだけど。

 この世界の生き物は、大なり小なり魔力を体内に所有している。空気に魔素が含まれているから。でも、魔法を使えるほど魔力を所有する者は平民では少ない。魔力を貯める魔臓器の大きさが個人個人によって異なるかららしい。


 そして貴族、特に上位貴族になればなるほど魔臓器が大きくて、息をするように魔法を使う者が多い。


 私みたいに1種類だけの魔法に特化した者は珍しくて、最初はハズレとガッカリされていた。

 しかし私の魔法は蓋を開けてみれば有効性が異常に高く、王族の皆様に認められて重宝されるようになったのである。お兄様が近衛騎士になったのも私のせいであった。

 それから、私の婚約者のジグルド様も。

 お兄様もジグルド様も私の〈木〉だから、王族の側近くで警護する近衛騎士になったのだ。


 私は20時間も眠るけど、お父様かお母様かお兄様かお姉様かジグルド様か、誰かに抱きついていないと眠ることができない。

 王族の皆様は私の能力が欲しい。

 ということで、お兄様とジグルド様は私の抱っこ要員として近衛騎士となったのだ。


 スリングのような大きな布で私をすっぽり包んで横抱きにして、お兄様もしくはジグルド様が毎日王族の皆様の近くでピシリと立つ。カッコいい。私はスリングの中でお兄様もしくはジグルド様に抱きつきながら、くぅくぅ。


 コアラの私は全方位に可愛くて、眠るお人形みたいで、

「かわいい、かわいい」

 と王族の皆様にチヤホヤされていた。


 ただしお触り厳禁。


「僕の愛しい婚約者ですから」

 とジグルド様が絶対に触れさせない。許さない。


「わかっている、わかっている。わしはリリジェリンちゃんに〈チョン〉をして貰えれば、それで良いのじゃ」

 と国王陛下が相好を崩す。

「今夜もお願いできるかのう?」


「まぁ、陛下。陛下だけずるいですわ。ぜひわたくしも」

 とイソイソと王妃様。

「父上。わたしも。南の国から限定品を手に入れたのです」

 とウキウキと王太子殿下。

「では、皆で今夜は楽しもうかのう」

 とワハハハと国王陛下が上機嫌で高らかに笑った。


 あ、誤解のないように。

 王族の皆様は、三度のメシよりもお酒が好き、というタイプなのである。

 で、私の魔法は酒精分解というもので。

 指で相手の額をチョンとすれば、あーら不思議、酔っぱらうことなく二日酔いにもならずお酒を好きなだけカパカパと美味しく飲めてしまうのだ。もちろん、どれほど飲んでも肝臓などの内臓を悪くすることもない。


 お酒好きには垂涎の魔法なのである。


 そういうわけで私はスリングに入れられて、王宮に毎日お呼ばれしているのだ。


 時折スリング姿のお兄様やジグルド様をバカにする人たちがいるけれども、お兄様もジグルド様もメチャクチャ強い。返り討ちにあった上に私を可愛がって下さる王族の皆様から睨まれて、王宮から消えてしまった。南無南無。


 それから、この王国は「虹色の王国」という乙女ゲームの世界に似ていて。

 虹の7色の要素を取り入れた7人の攻略対象者とヒロインの恋愛のゲームで、ジグルド様は攻略対象者で。もちろん7人の攻略対象者と対になる悪役令嬢も7人いて。

 なかでも私は、ナマケモノの獣性の悪役令嬢ちゃんに萌えていた。かわいいのだ。動きがスローモーションだからナマケモノの悪役令嬢ちゃんが一歩踏み出した時には、ヒロインはとっくにサッサと通り過ぎていて。それでも頑張って一生懸命にヒロインをいじめようとするのだが、とろとろとトロくて遅いからことごとく失敗して。それに私と同じく睡眠時間が20時間だから歩いている途中で力尽きてパタリと眠ってしまったりして。

 もう! もう! 天然を越えて癒し系悪役令嬢ちゃんとして可愛くて。大好きだった。


 ジグルド様のルートは、本来の婚約者であるお姉様が悪役令嬢になるはずだった──でも、お姉様は同じ鳥系の貴公子と大恋愛の末に婚約をして。

 ジグルド様の家の公爵家から事業提携のための契約として伯爵家に申し込まれていた婚約は、お姉様からスライドして私へと変更されたのだった。


 悪役令嬢なんて嫌だなぁと思ったのだけれど、私はジグルド様のストライクゾーンのド真ん中だったみたいで。正しくは、番の全てをお世話して独占したい狼の獣性のジグルド様にとって、お世話されないと人間社会で生きていけないコアラの私の獣性がドンピシャだったわけで。

 つまり需要と供給が一致してしまったのだ。


 初めての顔合わせのお茶会ではお兄様に抱っこされて登場した私をめぐって、超シスコンのお兄様と溺愛まっしぐらのジグルド様は、

「俺の可愛い妹だ」

「僕の愛しい婚約者です」

 と、抱っこの権利で対立をして大喧嘩を繰り広げた。


 私のために争わないで、という状態だったけど私には〈木〉が必要なのだ。


 魔法と剣の激しいドンパチの中、お姉様に抱きついて眠ってしまった私に、

「俺が抱っこする」

「僕が抱っこします」

 と、今度は超絶シスコンだけれどもブラコンではないお姉様と三つ巴の激戦となったらしい。(お姉様の命令でお姉様の婚約者が戦った)

 

 ちなみにお姉様の婚約者は、空の王者で生涯一夫一妻の純愛主義者として有名な白頭鷲である。


 私は眠っていたので知らないけど、あとで我が家のゴッドマザーであるお母様が教えてくれた。張った結界が破壊されそうになるほど凄絶だった、と。


 そしてジグルド様は毎分毎秒、

「1分前よりも愛らしくなった、1秒前よりももっと愛している、リリジェリン」

 と粘っこく私を溺愛するようになって。

 ジグルド様いわく、私を最後の最期まで上から下まで丁寧にお世話をして、お墓も一緒、墓場からも一緒と、ある意味ヤバイくらい激烈に愛してくれているのである。


 ゲームでは爽やかな騎士なのに、もの凄い粘着力にびっくりしたけど。

 とても大事に大事にしてくれるジグルド様を私も好きになってしまったし。

 政略の婚約なのに相思相愛で。


 し・あ・わ・せ。


 んんん! 言っちゃった。


 それにスリングの中で眠っている私に悪役令嬢なんて無理だし。

 ジグルド様も、王都の警備騎士ではなく近衛騎士だし。

 設定が違っているからゲームなんて関係無いわね、と気楽に考えていたのだけれども。


 なんとヒロインを発見してしまいました!

 びっくり!! 


 今日は第三王子殿下の王宮のお茶会で、第三王子殿下は綺麗な女の子が大好きだから年頃の令嬢がたくさん招待されていた。


 確かヒロインは男爵令嬢で、下級貴族なのに魔力量も属性も多くて話題の対象となって。それで第三王子殿下が興味を持たれて、えーと?


 第三王子殿下のルートの展開って、覚えていない。

 だって私の推しのナマケモノの悪役令嬢ちゃんの出番がなかったから適当に流しただけだったのだ。


 …………うん、見なかったことにしよう。面倒だし。


 私はスリングからぴょこっと覗かせていた顔を引っ込めた。


 触らぬヒロインに祟りなし。


 能力が1しか与えられていないコアラに誰も悪役なんて期待していない。と、自分に言い訳をして知らんぷりをした。


 私の推しのナマケモノの悪役令嬢ちゃんはいつもニコニコしていたけど。婚約者が浮気をして悲しかったはずなのだ。笑顔だから大丈夫なんかじゃない。笑顔で悲しみを隠していただけだ。


 浮気をした婚約者が一番悪いけれども、婚約をしている相手に言い寄るヒロインも私は大嫌いなのだ。


 ここはゲームの世界ではなく現実の世界で。

 彼女もゲームのヒロインではないと理解しているけれども。


 男爵令嬢という下位の身分なのに、第三王子の別名「子猫ちゃんを愛でるお茶会」に参加している時点で、下心や野心がなかったとは言わせない。


 浮気を前提とする恋多き第三王子ルートで、ヒロインもナマケモノの悪役令嬢ちゃんの気持ちを少しは味わえばいいのである。

 ふん!

 ふんだ!

 私は顔は神様に贔屓されて可愛いけど、性格は可愛くないんだからね!


 ぷぅ、と頬をふくらませていると、

「おや、可愛いふくら雀がいるね。どうしたの? 何か気になることがあったのかい?」

 とジグルド様が長い指で私の頬をこちょこちょしてきた。

「……ジグルド様は浮気なんてしないですよね?」

 

 ジグルド様が地上でありえないものを聞いたとばかりに目をみはった。


「なんて恐ろしいことを言うんだい!? 天地が逆転しても浮気などしないよ! 愛しているのはリリジェリンだけだ!!」

 ハッ、とジグルド様が私を見る。

「まさか……、まさか! リリジェリン、誰か好ましい男が……!?」


「誰だい!? 消滅させるから教えておくれ!!」


「落ち着いて下さい、ジグルド様。私も愛しているのはジグルド様だけです。最近、婚約者がおりながら浮気をした男性の話を聞いてちょっと心配になったのです」

「そんな不実な男は抹殺処分がふさわしい。夜になったならば忍びこみに行ってくるよ。安心して。証拠は残さないから」

 口角をあげてキラキラの笑顔で言いきるジグルド様。私は、頬を撫でるジグルド様の指に手を添えた。

「話だけなので誰とは……。それよりもジグルド様が浮気をしないと断言して下さって、私は嬉しいです」

「僕の唯一の愛はリリジェリンだけにあるんだよ。リリジェリンが僕の世界の中心で、リリジェリンによって僕の世界はまわっているんだ」


 きゅーーん!

 愛されるって心臓が痛いと転生して知りました、by コアラ


 胸を押さえているとジグルド様が顔を曇らせた。

「体調が悪いのかい?」

 私は首を振った。

「元気です。ただ、ジグルド様に愛されていて私もジグルド様を愛していて。そのことが幸せだなぁと思ったのです」


 蕩けたジグルド様に、ぎゅっ、とされました。


 幸せです。

ナマケモノの悪役令嬢アリアンジュは無事、ゲームの婚約者を回避して公爵家の子息カイザスと婚約しました。

カイザスはジグルドの従兄弟で、ナマケモノの獣性のアリアンジュを囲い込んでいるカイザスを羨ましく思っていました。

なので、コアラの獣性のリリジェリンとの婚約に狂喜乱舞しました。




読んで下さりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
かわいかったです!! シリーズみんな好きなんですけど、ぴょこんと顔出すシーンが想像するだけでかわいくて、大好きです! ひとつささやかな疑問があるとしたら、コアラがたくさん寝るのは、ユーカリに含まれて…
[良い点] リリジェリンのちょっとちゃっかりさんな性格のせいか他の作品よりポップな感じですけどそれはそれでまたかわいいです。 そして狼の人たち浮気はしないし溺愛だし配偶者として大人気なのでは?と思いま…
[一言] コアラ令嬢の魔法には、思わず納得。 アルコール分解も解毒の一種ですよね~(^^) 次に来るのは、スローロリスかヤマネくらいしか思いつかないかも…(•▽•;) どちらも、見た目が癒し系〜(…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ