真珠の髪飾り
「…最後にこれを」
白い軍装に身を包んだ夫が、覚悟した表情で家を出ようとした時だった。
肩から垂れた飾緒の位置に気をつけながら、懐から海老色の箱を取り出し、私の方へと差し出してくる。
「これは…」
長方形の箱で、無駄な装飾のない、いかにも高級感漂うその箱には、飾り気のない代わりに、上蓋に「別離」と達筆な字で描かれていた。
他でもない、夫の書いた字だ。
すぐに箱を開けようと上蓋に触れると、夫が優しく手を握り、首を左右に降る。
「これはまだ開けないでほしい」
「ならいつ開ければいいのですか?」
すると、夫は困ったような表情で後ろ髪を掻きながら言った。
「私が死んだと報せが来たときだ」
…酷く、残酷なことをする。
そう言うと、夫は改めて私の方へと向き直り、
「行って参ります」
敬礼をして、戦地へと歩みを進めました。