しるびあちゃんのきょうふたいけん!
不快に思う方もいると思います。今話は読まなくても支障はないので、読まないことを推奨します。
これは本日2話目の更新です。前回の埋め合わせみたいなものです。
「怪域『完全再現』」
瞬間、視界の全面が黒に塗り潰され、外界の音が遮られていく。
正直に言って、ここまでは先程の怪域とさほど変わらない。違いがあるとすれば、だ。
「──────」
いつまで経っても怪域の内容が形成されず、音が一切聞こえないことだな。
温泉郷、滝、街道、宴会、都市、墓地。東方が主流とはいえ、怪域についてはある程度知っているつもりだったのだがな。
ザンッ!!!
「────!!!」
斬られた!!何処だ?わからない。右後ろを斬られたが、先程の戦闘から考えるに奴がばか正直に右後ろにいるとは考え憎い。全く、ある程度とはいえ不定形というものは厄介だ。
さて、混乱による多少の油断があったことは認めよう。だがだ。次斬りかかられれば必ずや砲で撃ち返す。
一分、
二分、
三分、
、、、、、、、、、、、、、、、
十分、
いや、少し待て。私が警戒し始めてから本当に10分が経ったのか?実際はそこまでの時間は経っていないのではないか?そもそも私の砲は放てるのか?
すぅぅぅぅーーーーーー。
落ち着けシルビア・レコネット。混乱はユースティアにとって都合の良いものでしかない。
とりあえず砲の確認だ。やってみないことにはしょうがない。
ドンッ!!!
・・・。
腕への反動はある。だが着弾による音がまるでわからない。恐ろしいものだな、耳も聞こえず目も見えないとは。
さて次だ。魔法は放てるのか。詠唱は行えるのかだ。
「──────────」
私は詠唱を行う回復魔法で先程の傷を癒した。
、、、ふむ。詠唱は行えている。ただ、私の耳には私の詠唱は届かない。声を出す時のように声帯が震える感覚はあるのだが。
30分が経った。
何も起こらない。初頭の斬撃以降動くつもりはないということか?
兎にも角にもこのままでは埒が明かない。この空間から出られるかどうかだけでも試してみるか。
トン、
「───────────!!!!????」
なんだ?何が触った?歩き出した直後だ。右肩に何かが触れた。ユースティアか?ということはこの場から動かれれば困るということ。
ならば走るか。
「─、─、─、─、─、、、」
何も、起きない。走り続けてどれくらい経った?何分?何時間だ?本当にこの場にユースティアはいるのか?
わからない。わからないがこのまま走り続けたところで何かが変わるということもないだろう。ひとまず休み、万全の態勢を────
あれから、、、、何時間が経ったんだ?
正気を失いかける度にポンと肩を叩かれる。一応その度に叩かれた方向へと全力で砲弾を放っているのだが、視界ぎ効かない上に無音。確かめるすべもない。
さてどうするべきか。この怪域の真骨頂は、視覚と聴覚という感覚が遮られた状態での戦闘だと思っていたが、、、"待つ"ということにこそこの怪域の嫌らしさが現れていると思う。
何もない、何も起きない。困ったな。私はこの場から正気で帰れる自信があまりないぞ?
父からの殴られるの、痛かったな。あれは幼い頃か。政争に敗れ、地方へと飛ばされた父。それに私と母もついていった。
やさぐれた父はどんどんと酒に入り浸るようになり日々の不安や政争相手への不満の矛先は私や母へと向けられるようになった。あの頃の父は怖かったものだ。
そうか、そういえばそうだ。あれが私の騎士への原点だ。父の理不尽にさらされるだけの人生。それが嫌で、父の恐怖からの脱却を求めて、武力を身につける為に、、、
「───────────!!!!!!!」
なぁ?何時になったら終わるんだ?これは。おい聞こえているんだろ嘲笑っているんだろばかにしているんだろしっているぞさっさと解放しろどうにかしろここから出せ殺すぞ勿論ただ殺すだけじゃない嬲り殺しだ砲なんて使わないナイフだその帯で隠した目をえぐりとってやろう私と同じように暗闇で苦しめばいいんだそうだそれなら耳もいらないなお前が言葉を聞く必要なんてないんだああもちろんそれだけじゃないぞえぐった目の穴には酒を入れてやる痛いだろう辛いだろう耳からは脳みそを引きずり出すんだお前は怪異なんだどうせ脳がなくたって生きていけるさだから──────────────
すぅぅぅぅーーーーーー。はぁぁぁぁぁーーーーーー。
落ち着け私。ああして恨みを吐いて居ても意味がない。どうにかしてこの状態からの脱出方法を考えるんだ。ああそういえば腹が減ったな。食事を取っていなかった。食事を取ろう。腹が減るというのは良くないことだ。ああ美味しい美味しい。
ファータ大尉は食事が好きだったな。思えばあいつには色々と世話になったものだ。今度二人で食事にでもいこうか。あいつの進めるレストランに行って、戦争なんて関係ない平和な話題で盛り上がって、それで、それで────────────
「─────────────────!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。
なぁもう良いだろう私が悪かった。さぁ許してくれ。どうかこの通りだ。もうお前とは戦ったりしないだから許してお願いだから許して本当にお願いします許してください許してくださいごめんなさい申し訳ありません許してください謝りますなんでもしますだからここから出してくださいごめんなさい許してくださいお願いしますなんでもしますからもう逆らいませんからどうか許してくだ────────
ご飯、美味しくない。ファータ、いない。あの~ッスって喋り方が聞きたい。助けてファータ。もう無茶振りとかしないから。優しくするから。お願い。ファータ、寂しい。隊のみんなも会いたい。ここは暗いからやだ。こんなところはやだ。助けてみんな。ここから出たいの。シルビアは寂しいよ─────────
「────────────────!!!!!!!!!!!!!!」
もうやだ!!!ここやだ!!!怖いの!!!寂しいの!!!!!やだ!!!やだ!!!たすけて!!だれでもいいから!!!!!!!!ここから出して!!!こんなところやなの!!!そとでたらいい子にするから出して!!!!!!!!怖いから!!!こんな場所やだから!!!出して!!!!!出して!!!!!!!
ポン。さすさす
ここにきて、最初からあるこの手。暖かい。なでなで、気持ちいい。心がぽかぽかするの。ここちいーの。もっとしてほしいの。
あっ!はなれていっちゃった。やだよ。またわたしが1人になっちゃう。やだよぉ。1人は怖いよぉ。撫でてよぉ。寂しいよぉ。
「────────!!!!」
ふぇ、びぇぇぇぇぇん!!!!
ほら、わたし泣いちゃったよ?なぐさめなきゃダメだよ?もっと泣いちゃうよ?
泣き止むから、いい子にするから、早くなでて?
えへへ。いい子にしてたらもっとなでなでしてくれる。おててにつけてたでっかくて重たいのはずしたら、ひざの上でなでなでしてくれたの。あとね、服のなかにいっぱい入ってたどうぐもね、全部だしたの。そしたらね、ほっぺたをすりすりしてくれたの。わたしね、とってもうれしかったの。
さいきんね、ママがね、ごはんをたべさせてくれるようになったの。やわらかくてね、とってもふわふわしたパン。美味しいんだよ?ママがね、手で持って食べさせてくれるの。ぱくってね、食べるとね、ママはほめてくれるの。えらいねって、なでてくれるの。
ママ?なでてくれるひとのことだよ?あるときね、ママにわたしのママなの?ってきいたの、そしたらね、とびっきりなでてくれたの。なでなですりすりしてくれたの。えへへ。ママとほっぺたすりすりするの、わたしだぁいすき。
寝るときはね、ママといっしょにぎゅってして寝るの。そうするとね、暖かくてね、とっても気持ちいいの。でもね、夢のなかでね、わたしがママはわたしのママじゃないって、怒ったおかおで言ってくるの。ひどい。ママはママなのに。
それでね、ママにそのことを伝えようとね、いっぱいぎゅってするの。そしたらね、ママもぎゅってしてくれて、やっぱりママはわたしのママなんだって思えるの。
ママ、ママ、ママぁ、、、えへへ。
「ん、んんん?ママ、眩しいよぉ」
起きたら、そとがちかちかする。とってもまぶしい。わたしはママといっしょにぎゅってしようとして、りょうてでママを探す。
「あれぇ?ママ?ママぁ?」
見つからない。近くにママは居ないのかな?あと、さっきから耳にへんな声が入ってきてうるさいの。こんなのきいたらママがうるさがってはなれちゃうよ?だから静かにするの!め!!
、、、あれぇ?声?こえ、、、声!?
声?眩しい?光?そういえば、今私の視界に映っている光景は、、、!!!
私は周囲を見渡した。
立ち上る煙、倒れ伏す人々。逃げる樹皇人に追いかける迷宮主。泣きわめき謝罪する雷神に慰める皇蟲人。
「中佐ぁ~!!大丈夫っすかぁー!!!???」
手を振り駆け寄ってくるファータ大尉。
一つ、言えることがあるとすればだ。私が錯乱している間に、戦争は終結していた。
怪域『完全再現』
ユースティアに言わせれば完全とは言いがたいらしい怪域。
半径15メートルを範囲とし、円形のドーム状の怪域を形成。視覚及び聴覚を遮断し、足による移動を無効化する。
また、外部と時間の流れが異なり、怪域内での1秒が、外部での100秒程となる。
攻略方法。ペテロかデザイアを呼びましょう。彼女らは視覚、聴覚、嗅覚、触覚のどれか一つでも生きていれば余裕で抜け出してきます。