南方戦争15
久々の3000字です。次回は短くなるかもしれないし長くなるかもしれません。
ドォォン!!!
展開された怪域の中、兵士らを襲うユースティアを私の放った砲弾が吹き飛ばした。
「、、、誰?」
「初めまして。天破斬。私はルージェ公国軍第一砲兵大隊大隊長シルビア・レコネットという」
起き上がり私を睨み付けるユースティア。黒い帯によって目を塞がれているはずなのだが、、、実に不思議な体験だ。
「長い」
「そうか。ではシルビアと呼びたまえ。ここにいる兵士ら諸君!!彼女は私が受け持つ!他の者の擁護へ赴け!!」
「逃がすとでも思ってるの?」
この場にいる兵士らへと呼び掛ける。それに対しユースティアはより一層睨みを強くした訳だが、まあ上官らほどではないな。
「勿論だ。何故ならこの私が相手なのだからな」
突如として飛来してきた剣を砲の側面で受け流しつつ答える。
「あっそぉ」
とたん、闇から出現した多数の剣による猛攻が始まる。そも私は接近戦主体との戦闘はあまり得意ではないのだが、この程度であればどうとでもなる。近づいてきたところを砲弾で破壊。難しければ吹き飛ばす。加えて吹き飛ばした風を受けて自分も距離を離す。
「ふぅん。あれだけ大口叩いておいて逃げるんだ」
「逃げる?貴女は遠距離武器を相手に随分と手厳しい事を言うものだ」
砲弾で吹き飛ばし、下がる。吹き飛ばし、下がる。その一連の動作の中に混ぜて、ユースティアへと聖属性を込めた弾丸を放つ。
ユースティアはそれを手に持つ刀で受け止め、直後に上に反らした。
「おっもい」
「伊達に大隊長を務めていないからな。私はこれでも英雄と呼ばれる領域に片足を突っ込んでいる人間だ。そう簡単に止められるものか」
私の言葉に、ユースティアは睨みで返す。
その直後、目の前のユースティアの姿が消えた。恐らく怪奇系の転移能力だろうな。
「『天破斬』」
ズッガァァァァン!!!!!!
「当たったら痛かっただろうな」
「痛いで済ませるられるのが驚きだよ」
砲弾の衝撃波で逃れた私をユースティアが睨み付ける。そして不愉快そうな表情を浮かべつつ、またも姿を消す。
「ガッ!?」
体が重い!成る程。ユースティアは己の怪域内に複数体の怪異を飼っていると聞く。その能力か。
だがな、
「残念ながらこの程度の束縛ならば多少の時間があればアイテムの効果で解除される」
私の左斜め後ろに向けて砲を放った。
「ッ!!」
砲弾と何かがぶつかる音がした。振り替えれば目を回した異形を片手に私を睨むユースティアが立っていた。
貴女からすれば私はかなり理不尽な存在なのだろうが、私からすれば貴女のこの空間も相当に理不尽なものなのだがな。
「あーもうめんどくさい」
片手の異形を放り投げた後、ユースティアが白と黒の2つに別れた。分身か。
彼女を相手にし始めてから何度も奇っ怪な現象を目にする。通常の砲弾ではかすり傷も負わないことや、姿がぶれての分裂を行うなどな。
情報としては頭に入れてあったとしても、実際に目にすれば驚くというものだ。
「死ね」
「ねぇねぇねぇ。さっきからずうっと疑問だったのだけれどさぁ。なんで私を見て死んでないんだ?おっかしいなぁ。怪域使ってるはずなんだけどなぁ?どういうカラクリだ?アイテム?スキル?どっちにしろかなり高位の物じゃないと防げないはずなのだけれど」
「アイテムだ」
白いのと黒いのがいつの間にか私を挟むようにして刀を振り下ろしている。全くもって厄介ではあるが、
ドドォォン!!!
2方向同時に砲を放てないとは言っていない。
「・・・」
「わぁお。すごいなぁ!それ後ろからでも放てるのかぁ。てか一発が痛い!!聖属性ついてるって言ったって、その属性じゃああんまり私ダメージ負わないはずなんだけどな。レベルか?」
「宵闇」
「わかっているって。さぁて。近距離武器2人相手にどこまでもつかな?」
しばらくの猛攻を耐えてわかった事。白いのは人としての形を崩さないが、黒いのは割と自由に形を変える。
変化は怪奇系特有の物だろう。反に、形に縛られるの方が変だとも言える。
「『天破斬』」
「『聖砲・ティアドラ』」
これはレベル差か。おそらくだが、分裂によってレベルが低下しているのだろう。
白いのが例え己の二つ名を冠する技を放とうと、多少多めに魔力を注げば私のスキルで容易く相殺、あるいはそのまま押し勝てる。
「相変わらず硬いねぇ?でもさでもさぁ。最初よりも威力弱くなってきてるよな?最初よりも本気で射ちだしてるよな?ならもうすぐだね」
その通り。私はアイテムにより余程の即死能力でなければ死なないが、アイテムが保証しているのは即死のみ。この怪域の弱体化は普通に効く。
国の為にももう少しデータが欲しかったのだが、敵に言われるということは潮時だろう。
さて、ではやるか。
「リリリィ最高!!!リリリィ最カワ!!!」
私はかなりの全力で叫ぶ。叫ぶだけでも推しているとしてわずかながらバフが付くのだ。やらない理由はないだろう。
また、このバフは現状掛かっているバフ、デバフに関係なく元の値を参照する。つまりだ。
「・・・えぇ」
「折角減らしたのに!?嘘でしょって!?はぁー!これだから神系統の種族はっ」
白いのがドン引き、黒いのは嫌そうに天を仰ぐ。同人格と資料にはあったが、体側に精神が影響されているのか?個性的なものだ。
「あーもう良いや。薄氷」
「『介入・範囲切断』」
ドクンッ!!
世界が切り替わったような印象を受ける。白いのが唱えた瞬間、腕に巻き付けていた砲が一気に重くなった。あまりの唐突さに、態勢を崩して砲の先を地面に着けるところだったな。
が、実はこれは私が狙っていた状況でもある。
ドンッッ!!!
、、、ドサッ
「・・・は?え?なん、、、」
直後に振り上げた砲によって、私は黒いのの頭を撃ち抜いていた。
その一発によって黒いのを討ち取れたであろうことは、倒れて煤になって消えて行く黒いのの姿から容易に察せられる。
「言っていなかったな。私は■■■■の補助がなくとも魔術を使える。一兵士として回復能力の重要性は理解している。ゆえに、聖系統の魔術の腕前はなかなかなものだと自負している」
そして、怪奇系種族の中でも、とりわけ都市伝説型という奴らはステータスの無い状況下では弱いというのも知っている。
無論、そういった連中が北の大国や南極のクレモリスの里では無類の強さを発揮するというもの知っている、がここは南。祖国には申し訳ないが技術的発展という面では我々南の者が陽の目を見ることは先ず無いだろう。
おっと、話がずれたな。
「まあ何が言いたいかと言うとだな、私は始めからステータスが消されるのを待っていた訳だ」
「・・・っせない!」
私の発言が不愉快だったのか、白いのはその圧だけで人を呪い殺せそうな目付きで私を睨んでくる。
「次は、、、りょしない。全力で、、、れる!!!」
「そうか。ごめん願いたい」
ドンッ!!!
睨みつけるままで動こうともしない白いのをそのまま砲で撃ち殺した。
勿論、肉体が煤となって消えるのも確認する。
「ステータスは、、、戻っているな」
怪域が解け見晴らしが良くなっている。今一番加勢するべきは、、、雷神の相手だな。この一撃、止められなければこの首都ごと一帯が滅ぶぞ?
とぅぉぉぉぉぉ────ん
聞き慣れない擬音。この音が鳴ったということは、姿は見えないが、、、加勢は必要なくなったということか。
ならば当初の撃破目標通りに六芒星を狙うとす────
「『天破斬』」
ガギギギギィン────
「安心して。殺しはしないからさぁ?」
「結構だ。お帰り願いたい」
全く。今ので私の砲が壊れたらどうするつもりだったのやら。
まあ、そんな冗談は置いておいてだ、第二ラウンドを始めるとするか。
「怪域『完全再現』」
前話の最後と今回の最後がだいたい同時刻です。