南方戦争4
遅れました、、、
「ま、無理だわなぁ」
白髪交じりの初老のアバターのプレイヤー。傭兵は、実感の籠った呟きをこぼす。今回の戦争に参加しているプレイヤーのほとんどがレベル50以下。
いくらデザイアが他の上位種と比べステータス上昇値が低い種族であろうと、1000を越えるレベル差をプレイヤースキルだけで埋めるのはほぼ不可能。それこそ剣士さんやスノーくらいにしか不可能な芸当だろう。
そんな当たり前のことを、傭兵はデザイアに蹂躙されるプレイヤーという形で再認識させられていた。
「傭兵。これ抑え込める?」
「あ?余裕だ。だから中央広場のスーパーアイドル(笑)の護衛に回っててくれや」
「はいよー」
翼をはためかせて傭兵の下に降り立ったアイス31号の問いに、傭兵は堂々と答えた。
1ミリも慌てる様子ない傭兵を他所に、状況は着々とセプリプルブス側が不利へと傾いていく。同時に、プレイヤーや兵士の間に、諦めの雰囲気が漂い出している。
ダンッ!テレテレテレレレ~~~~~♪
突如、敗戦ムードをぶち壊す様に軽快な音楽のイントロが流れ出した。
『はーい☆みんな~元気カナー?元気がない?それは良くないゾ☆テンション上げてこー!それじゃ、最初の曲はぁ~リリリィちゃん渾身のデビューソング!『カレーにらっきょう入れる奴ボコス☆』ーーー!!!』
中央広場に(勝手に)作られたステージの上。(無許可で)先ほどまでのコール練習とは比較にならない爆音を首都中に響かせる(自称)アイドルの少女、リリリィ。
耳にその声が聞こえたプレイヤー達は、それはもう烈火のごとくキレた。デザイアに蹂躙され意気消沈するなか、そんなことは関係ないとばかりに雰囲気を破壊するリリリィの歌声。当然の結果だろう。
「あ、あれ?」
だが、キレる中であるプレイヤーは気がついた。いつもよりも体が早く動くこと。自身の振るう武器の威力が高いこと。恐らくは、(デザイアからしてみれば誤差レベルであろうが)防御力上がっているだろうこと。
しばらくの後、戦闘に参加するほぼ全ての者が気がついた。己のステータスの全てが、2倍以上強化されていることに。
『はーい☆みんなバフが欲しいかー!!!!』
響き渡るリリリィの問いかけ。練習の時と同様、なんの返答もされないそれ。ただ練習と違うことがあるとすれば、リリリィの声を聞く全てのプレイヤーの中に、全ての兵士の中に、期待の熱意が籠っていることだろう。
『だったら私を、推せぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!』
「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!」」」」」」
良くわからないまま、ただこれで良いという実感だけを胸に、プレイヤーたちは、兵士たちは叫び声を上げた。
そしてバフが跳ね上がる。今までは一瞬で叩き殺されていたプレイヤーたちがデザイアの一撃を耐え、なんの痛痒も与えられなかった兵士の攻撃がかすったデザイアの表情をわずかながら歪める。
『リピートアフターミーーーだゾ☆リリリィ天使!』
「「「「「リリリィ天使!!!!」」」」」
『リリリィ最カワ!』
「「「「「リリリィ最カワ!!!!」」」」」
リリリィへコールを行う度に団結力があがり、掛かるバフが跳ね上がる。
リリリィはコールをされる度に掛けられるバフの上限値が上がっていく。
(こういうものはトップを潰すのが一番効果的なのですが、、、遠いですね)
後方で待機するデザイアが、メニュー画面から今も踊り歌い続けるリリリィを上から眺めつつ思考する。
デザイアにとって、現状はとても楽しいと思えるものではなかった。リリリィによって強化された者たちは、自身の限界をぶつけられるような強者でもなければ、如何様にでも調理できる弱者といえる程弱くもなかったのだから。
潰すことはできる。だけれど楽しめなければ折角割り込んでまで指揮を取らせて貰った意味がない。
(新川。彼女に頼るのは情けないと言いますかなんと言いましょうか)
現在進行形で自身のメニュー画面にリアルタイムの衛星画像を送り続ける少女。彼女に自分と六芒星がログアウトしている間のポータルの防壁を頼んでいる身としては、ここでも頼るのは気がとがめた。
「そうですね。人力カタパルトでもしましょうか」
「うぇ!?あれ結構怖いよ?」
「貴女が落ちてきた高度と比べれば大したことはありませんよ」
いやぁうんそうだけどさぁそうなんだよ?だけども私のほうが固いわけだしそういう面から見れば柔らかいデザちゃんはもっと気を付けるべきで、、、
等とぶつぶつ呟く六芒星を意にも介せずデザイアは糸を出して準備を進める。
(中央広場まではかなり距離があります。高度を確保できたほうが良いでしょう。となると、、、このくらいでしょうか)
失敗したらまたやり直せばいい。とりあえずやってみましょう。そんな軽い気持ちで他の自分を即席カタパルトに乗せて、飛ばした。
ドゴンッ!! グチャッ!!!
「うわっ痛ったそ」
「いてっ」
「もっと痛いよね!?いてっで済む感じの痛みじゃないよね!?」
無表情でいてっっと呟いたデザイア。彼女の視界には、防壁に激突して手足が折れ曲がり、けれども蟲種族特有の生命力によってまだ意識が途絶えない、顔の半分が潰れた自分がいた。
今は潰れた自分と感覚を共有していたため、デザイアはもろに激突した痛みを味わったわけだが、本人は特に気にも止めていない。
痛いなとは思いつつも、止めを刺すべく自分を武器で滅多打ちにするプレイヤーのことは無視する。角度の調節の方が優先度が高い。
2射目。
「良いですね。越えました」
首都の中。とある建物の屋根を貫いて落下したデザイアは、簡易ポータルを生成し登録する。これでどのデザイアであろうと死ねばこのポータルから復活できるわけだ。
「さああのうるさい発声器を殺ぐぇっ
リリリィの元に向かおうとしたデザイアに、何かがぶつかる。衝撃によって倒れたデザイアは、ぶつかった正体に目を向け、、、眉をひそめた。
(成る程成る程。それはそうなのでしょうが、、、厄介ですね)
「わたちのいえにはいるな!」
「ナーシャっ!何てことを!!」
「あなた!兎に角ナーシャを守って。私があの怪物を足止めしている隙に逃げて!!」
この家の住人。ただの一般人である彼ら。普段なんの力もないであろう彼ら。しかし、リリリィを推している今ならば、ステータスが数百倍にも跳ね上がり、押し倒す、等という行為が実現できてしまった。
(本当に、本当にめんどくさいですね)
一家をミンチにしたデザイアは、外の光景を見て思った。そう、彼女を取り囲む、決死の表情をした首都の住人たちを見て。
職系統・偶像
自身が推されればされる程能力値へと付与できるバフの上限値が上昇する。
自身を推せばする程対象へ付与されるバフの値が大きくなる。
現状、セプリプルブス側が強い興奮状態にあることもあって、上限値は342倍。平均値では125倍にまでステータスを上昇させている。
このバフの効果は自身よりレベルが高ければ高い程上昇値が減少する。
尚、この職種に就くと全ステータスが強制的に10固定。HPは100固定となる。