南方戦争3
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赤卑竜は異様な竜種である。まさしく"ドラゴン"、正当な竜種でありながら竜としての巨体を捨て、代わりに竜人と見紛う人型の体と、多数の子竜を得たのだから。
まるで女王蟻の様な生態。産み出した子竜を強く育むでもなく、まるで捨て駒の様に扱う姿は、他の竜にとっては唾棄すべきものであった。
実際、ある竜からは罵られ、ある竜からは蔑まれた。
それでも赤卑竜は己で戦うことを徹底的に避けた。そも戦闘自体すらも子竜に足止めをさせて避けた。逃げる逃げる逃げる。だって、怖いから。
「圧巻ですね。さすが南陽を支える竜将です」
聖女の視界には、数で圧倒しようとしていたデザイアをこれまた数で押し込める地竜の姿が写っていた。
空間魔法により呼び出された地竜。その数約五万。
レベルは100あるかどうかというものだが、元来の竜という種族の強靭な肉体や、デザイアが種族的にステータスが低めであるということから拮抗を保っていた。
「聖女様!魔法部隊による防壁の応急処置が完了いたしました!」
「聖女様!対ヒュジャル砂漠大蠍用殺虫剤準備完了いたしました!!」
デザイアが押し込まれていることから、セプリプルブス側に所属する者たちは活気付いていた。先ほどまでは死体を見て混乱していた兵士も、事態を引き起こしたデザイアへの怒りによって立ち上がり、率先して自分にできることを求めて動き出している。
「アイス31号様、あの地竜の軍勢を下げては頂けますでしょうか。今度は我々が攻勢に移ります」
兵の報告によって、万全が整ったことを悟ったアナスタシアは、攻勢に移ろうとアイス31号に話しかけ、、、彼女の表情が固いことに気がついた。
「うっわ、誘い込まれてる。ほんとやられたよ、、、」
アイス31号がぼそりと呟いた直後、突如として地面からせり上がった城壁によって、デザイアごと地竜が閉じ込められた。
六芒星唯一の攻撃スキル『決闘領域』。
自身ごと相手を城壁の中に閉じ込め、最大時間を設定し、時間経過ごとに自分以外の領域内の存在の最大HPを削るスキル。この時最大時間が長ければ長い程発動時の消費MPが減少する。最大10時間。
このスキルから逃れる方法は2つ。六芒星本人のHPを0にすること。もしくは城壁に穴を空けて脱出すること。
これら2つの条件は、地竜の攻撃力では達成不可能なものであった。
「あああ、、、私の地竜ちゃん達がぁ、、、ナンシー、ジェニファー、ストラトス、他にも、、、はぁぁ。頑張って育てたんだよ?それが、、、火竜ちゃんにすればよかったよ。空飛べるし。あいつのスキルは上はスカスカだし、、、って、あいつ横に向かって城壁出せるんだったよ。どっちにしろだめだよ、、、」
しゃがみこんでぼそぼそと後悔の念を呟くアイス31号。ひとしきり嘆いたあと、顔を上げた。
「聖女ちゃん、仇討ち頼んだよ。多分、そろそろ出てくるから」
「出てくる、ですか」
見るからに頑丈な六芒星が築いた城壁。アナスタシアには、未だ揺れも欠けもしていないそれから抜け出せる姿が想像できなかった。
「、、、嗚呼。そうでしたね。あなた様方はプレイヤー。登録したポータルさえあれば例えどこだろうと復活できるのでした」
苦虫を噛み潰したように顔をしかめるアナスタシアは、どこからともなく現れた噴水から続々と出てくるデザイアを見て言った。
デザイアの最も厄介なところ。それは何か。複数存在すること?強いこと?虐殺をためらわないこと?プレイヤーであること?
全てその通りだ。だが、聞かれた誰しもが返答するであろうことはそれらではない。
祈祷師系譜の職。8次職、英霊祈祷師。その職がレベル10で入手する魔法、『簡易ポータル生成』が最も厄介なのだ。
一つにつき五回まで使用可能な簡易ポータル。要するにデザイアは、デスペナルティはあるもののHPが尽きるまでほぼ無限に復活できることになる。
「放てぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
デザイアは、ある程度の数がポータルで復活したが否や防壁の先ほど穴を開けた場所を目指して駆け出した。
対ヒュジャル砂漠大蠍用殺虫剤、投石、魔法。ありとあらゆるものが自分へ降り注ぐ中、デザイアは危ないものだけを避け、危険の低いものは無視し防壁へと近づいていく。多少の損失は気にしない。そもそもレベル差で痛手になる攻撃の方が少ないくらいだ。
「『大旋・伽藍堂』」
残り数十mまで近づいた時、一陣の風によってデザイアは大きく吹き飛ばされた。
「ある程度の事前知識はあったんだがなぁ、、、実際見てみるとこえぇのなんの。1500体もいればそりゃ迫力が違うわな。ま、貰った金の分だけはやるがな」
ニヒルに笑う和服の傭兵。白髪交じりの初老の男が、防壁を背に立ちふさがった。
「おめぇら!呆けてんじゃねぇぞ!!NPCに任せっきりで良いのか!?んなわけねぇよなぁ!!いくぞぉ!!!!」
「「おおおおーーー!!!!」」
多くのプレイヤーが傭兵の掛け声に応じ、我先にとデザイアへ攻めに出た。