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南方戦争1

度々遅れてすいません、、、

 

「、、、、来ません、ね」


 セプリプルブス共和国の首都。その城壁の上にはかなりだらけた雰囲気が漂っている。戦争開始からはや10日。オルジアの軍勢は、一向に姿を現さないでいた。

 最初に緊張が途切れたのはプレイヤーたちだった。戦争という()()()()に参加しに来ているプレイヤーに、何日間もぼーっと待つだけというのは苦痛だったのだ。


 次は兵士だった。自分の国を守るためとはいえ、何日間も集中を維持できる程の体力はない。その上、近くにあからさまにやる気を失っているプレイヤーたちがいる。そのせいで流され、一人二人と集中力を失っていった。


 そして国の上層部。まだピリピリとした空気は漂っているものの、10日間も音沙汰がないことから「もう来ないんじゃないか?」という思いがひっそりと心の中に芽生えだしていた。


 それは、この国て聖女と呼ばれる少女も同様だった。この国の第二王女にしてワルーレン大陸屈指の回復魔法の使い手。幾度とない鉄火場を乗り越えてきた。

 そんな少女をしても、不快感を抱きながら警戒を続けるというのは負担であった。


 そう、不快感。プレイヤーのやる気をそぎ、兵士の士気を落とし、上層部に眉をひそめさせる。その不快感とは、、、


「はーい☆みんな、リピートアフターミーーーだゾ!リリリィ天使!(前にマイクを向ける)リリリィ激カワ!?(前にマイクを向ける)リリリィ最高ー!(前にマイクを向ける)」


「うるせぇ!!!」


 王都の中央のいくぶんか開けた場所で、やけに響き渡るマイクを片手に、某無名のアイドルがコールの練習をしていた。

 勿論応答する人など一人もおらず、それどころか罵声に怒声を浴びせられ続け、ときにはPKされたりもしていた。

 それでも無名のアイドル、プレイヤーネーム『最強激カワエンジェル天使的アイドル。リリリィ・ゲッツ・ミリオンハート』は一人空気を読まずに歌い、踊り、コールの練習をし続けていた。


「、、、、はぁ」


 聖女アナスタシアはその様子を見てため息をつく。彼女の実力、実績を多少なりとも知ってしまっているからこそ何も言えず、止めることができないでいる。同様に国の上層部も。

 酷く耳障りで、上にいくら相談しても一向に取り押さえられない。そんなリリリィの姿を見たプレイヤーのやる気が落ちるのも無理はなかった。


「やーほ。聖女ちゃんげんき?」


 アナスタシアの立つ監視塔の上部。そこに大きな翼をはためかせて一人の竜人(ドラゴニュート)が入って来た。


「これはこれは。アイス31号様。調子はどうでしょうか?」


「どうでしょうもこうでしょうもないよー。怖いに決まってるよ。私はひ弱なトカゲよ?なのに相手はデザイアだよ?私はもともと来る気なかったのにさぁ、脅してまで参加されようとしてくるし」


 はぁぁ、、、と深いため息をつくアイス31号。プレイヤーにして南陽王国の総帥。

 セプリプルブスの上層部は、彼女を軍事力を背景に(脅しつつ)今後の南陽王国への軍事的援助(費用は南陽王国持ち)をだしに今回の戦争に参加させた。


「で、実のところ勝率はどうなのよ」


 ジト目で問いかけるアイス31号に、アナスタシアは苦笑を浮かべる。

 セプリプルブス共和国の中でレベル1000を越える存在は10人。一対一でデザイアに勝てる可能性がある者に絞ると、アナスタシアを含めても三人いるかいないかといったところになる。

 そう。一対一で、でだ。1500体のデザイアを相手にするとなれば、、、


「それでも、勝たねばならないのです。幸いにもアイス31号様も含め、多くの実力者が来て下さっていますから」


 アナスタシアから発せられた言葉からは、彼女が既に死を覚悟していることが察せられた。


「そっか。、、、はぁ。わかったよ。そんな声色で言われちゃ退くに退けないよ。しょうがない。怖いけど私も頑張ってみせるよ。怖いけどね。期待はしないでよ」


 それよりさ、と続けたアイス31号の言葉は、恐怖を帯びていた。


「何かなぁあれ。怖いんだけど。ああ怖い。けど止めたほうがいいよねぇあれ。」


「っ!なにか見えましたか!?空?」


 アイス31号の視線の先。アナスタシアが見上げた遥か上空には太陽があり、アナスタシアは目を細めた。


「見えないよ。綺麗に太陽に隠れてるし。でも、聞こえるでしょ?悲鳴がさぁ。、、、はぁ、怖い。けどやんなきゃいけないだろうし。怖いけど、私はあれ受け止めて死に戻ってくるよ」


 アイス31号が翼を大きく広げ、高く飛翔する。風圧で目を閉じたアナスタシアの耳に、うわぁぁぁぁぁ、、、というかすかな悲鳴が聞こえだした。


 数秒後、ドォンッ!と何かがぶつかり、弾けた音が聞こえて尚、悲鳴、、、いや、此処まできてアナスタシアの中で声の印象が変わった。悲鳴であることに変わりはないが、どことなく喜色を含んだ声がどんどんと近づいてくる。


「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」


 アイス31号が飛び立った時点で詠唱をし出していたアナスタシアの目に、落下物の正体が映る。小さく見えるのは、金髪を持つ灰色の何かに体を囲われた少女。

 少女の姿を見て、アナスタシアの中で一つの疑問が解消された。落下しているとはいえ、竜人であり自身よりもレベルも防御力も高いアイス31号が、なぜぶつかっただけで死んだのかという疑問が。

 簡単なことだ。空から降ってくる()に衝突して無事ですむはずがないのだ。ましてやプレイヤーという存在の中でも屈指の防御力を誇る()に。


「水よ。どうか。どうか我ら卑しき下等生物をお守り下さい。【水神域の水面】」


 対遠距離攻撃最強クラスの防御魔法をアナスタシアが発動したとほぼ同時に、落下物が魔法による水膜に衝突し、弾かれた。


「このクラスの魔法で一発とは。、、、恐ろしい」


 アナスタシアの額から汗が流れる。先ほどの衝突により水膜は薄れ、軽く小突かれただけでも破れそうになっていた。

 すぅっ。アナスタシアは息を吸い込むと、声を張り上げた。


「皆さん!!これはオルジアの攻撃です!!今一度気を引き締め直して下さい!!!」


 防壁が一気に活気づく中、何人かは気付いていた。眼前に広がるヒュジャル砂漠。その先から濛々と煙を巻き上げながら何かが近づいてくることを、、、




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