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長女到来

忙しいなー忙しいなーと思ってたらこんなにも時間が経ってました。ほんとすみません。

 

「えー何?綾葉までそのゲームやんの?うちの姉貴全員やってんじゃん」


「ふふふ。良いでしょう?どうですか?綾華もやりませんか?四姉妹でゲームというのもなかなかどうして乙なものです」


 その屋敷では今、奇妙な会話が行われていた。声の主の一人は、派手で露出の多い服装を纏った、いわゆるギャルと呼ばれる風体をした少女。会話の最中でも、今どき時代遅れであろうゴテゴテにデコったガラケーから目を離さない。

 もう一人は、病人なのだろうか。身体のあちこちに包帯が巻かれている女性だ。脇には点滴が置かれており、服や包帯の隙間から見えるその身体は、骨が浮き出そうな程に痩せている。


 一見病人の姉を見舞う妹といったように思えるが、一点、致命的な違和感があった。

 二人は、別々の部屋にいるのだ。

 別に、隣の部屋だから聞こえるというわけでも、電話をしているというわけでもない。数十mは離れた別の部屋で、さも当たり前かのように、二人は会話をしている。


「あたしはパース。ポチと遊んでるほうが楽しいし」


「そうですか。残念」


 ねーポチ、と、綾華と呼ばれた少女は膝の上の子猫を右手で撫でる。

 子猫はそれでもなおガラケーから目を離さない綾華に対し、にゃー!と反感の声を上げ、ガラケーへと向かって飛びかかった。


「ふふふ。宮野、見てくださいな。綾華ったらあんなにも携帯を振り回して。宙に浮いたものを動かしたら、猫は余計に反応するだなんてわかってるでしょうに」


「お嬢様がお楽しそうで何よりで御座います」


 数部屋先の妹の様子を見て微笑む主人に、従事の宮野は賛辞で返した。

 貴女は目が見えないのに、何を見ているのか等という野暮なことは突っ込まない。こんな会話、この屋敷では日常茶飯事なのだから。


「さぁお嬢様。用意が整いました。後はこれを起動するだけだそうです」


「ありがとう、宮野。それじゃあ楽しんで来ますね」


 宮野が綾葉の頭に取り付けた装置を起動すると、綾葉の意識はVTOの世界へと落ちていった。






 ───────────────────

 元ヒュジャル砂漠周辺───


「提示。当機は驚愕の意を示します」


 エーデルヴァイスは結界に覆われた緑地を眺め、懐かしげにそう呟いた。


 ヒュジャル砂漠であったその場所は今、木々は生い茂り、小鳥はさえずり、幾多もの動物が楽しげに生活をしている。そんな場所へと様変わりしていた。

 そしてそれは、エーデルヴァイスにとって600年前までを思い出させる懐かしい風景でもあった。


「提示。当機は納得の意を示します。当時は些かばかりも疑問がありませんでしたが、やはりこれは異常現象なのだと」


 うむうむと頷くエーデルヴァイスの目の前で、突如、結界に大きな穴が空いた。


「?????」


 エーデルヴァイスの脳裏を、そんな芸当が可能な連中が過っていく。この結界は仮にもかの初代南陽眠徒が張ったもの。そう簡単に破られて良いものではない。

【風】、【蟲】、【水】、【天空】、それに七色、ミロク、鳳仙、剣士さん。スノーやメリドーラは結界ならば転移等で飛び越えそうだ。

 だが、それはあり得ない。連中が現れれば、そこまで広くはないとはいえエーデルヴァイスの探索網に確実に引っ掛かる。

 剣士さんならば万一はあり得るが、彼には視覚外までの射程やエーデルヴァイスの探索範囲外から一瞬で移動する機動力は持ち合わせて居ない。

 となると、エーデルヴァイスの知己にない存在だということになる。

 未知は、怖い。自然とエーデルヴァイスの身体は防御形態へと移行する。

 思考開始から防御形態移行まで、この間0.00001秒。機械系の種族だからこそ可能な、超速である。


「そんなに緊張なさらなくても良いですのに」


 が、相手はそれを知覚してきた。


「もし、そこの方。私の妹を存じませんか?確か、N○Kの朝の教育番組のようなネーミングセンスの欠片もない名前をしている娘なのですが」


 忽然と現れた、いかにも初心者ですと言いたげな初期装備を身に纏った彼女に、エーデルヴァイスは警戒レベルを数十段階上昇させた。


「質疑。その他の特徴を要求します」


「その他、ですか。そうですよね。私としたことがいけません。同名異人も多いこの世の中。名前だけで人を尋ねるなど酷なことです」


 そもそも名前も言っていないだろという突っ込みを心の中で抑えつつ、エーデルヴァイスは目の前の人物について思考を巡らせる。

 まず、初期装備。新品のようなそれは、ゲーム開始時に最低限の防具として運営から配布されたものそのままだ。武器も同様のものだろう。

 となると今日が第二陣の加入開始日であることも併せて、彼女はフリュッテン王国にある始まりの街アインから、今エーデルヴァイスがいるルージェ公国付近の中小国家群までの約800キロメートルをたった1日で走破した可能性がある。


 エーデルヴァイスが記憶を辿ると、そんな芸当が可能な人物に一人だけ心当たりがあった。

 厚焼きプリン越しに聞いた、デザイアの姉である。曰く、天才。曰く、怪物。

 目の前の彼女が、あのデザイアが敬意を懐くような存在であるとすれば、全ての辻褄があうのだ。


「特徴、、、人(の肉や繁殖行為)のことが大好きな娘ですね。(2番目の)妹の話に聞く限り、ゲーム内では(分体が1499体もいるので)大層賑やかに和気あいあいと(凌辱やカニバリズムを)楽しんでいるみたいです」


「提示。心当たりが存在しません」


 違った。デザイアはそんな陽気でパリピみたいなことはしていない。別人である。


「他、ですと、そうですね。虫系の種族にだと聞いたときには驚きました」


 ということはやはりデザイアの姉かもしれない。疑念が再発した。


「(2番目の)妹にアバターを見せて貰ったのですが、それはもう可愛らしくって」


「提示。心当たりが存在しません」


 蟻と蠍と蜘蛛の合わさったゲテモノに、普通可愛いという感情は湧かない。別人である、、、、、、とは限らない。

 仮説が正しいとすれば、目の前の彼女はあのデザイアや、天破斬の姉であるということになる。

 たかだか蟲の異形程度、可愛いと思っても不思議なことはないのだ。


「撤回。一つお聞きしたいのですが、その妹君の名前は、デザイアと申しませんか?」


 今まで閉じられていた彼女の目が、パッと見開き、


「そうです、そうです。確かそんな名前にしていると聞いておりまし、、、ゴフッ」


 興奮覚めらやぬ様子で、血反吐を吐いた。


「すみまゴフッゴポッ、ゲボッせ、ガッ、ゲホッ」


 ボタボタと、血液が口から吐き出され続ける。さしもいたずら好きで人の悶える姿が好きなエーデルヴァイスとはいえ、これには引いた。


 そのまま倒れ、地面に伏した彼女は、暫く血反吐を吐き続けた後、エーデルヴァイスに言った。


「すみません。私個人では此処が限界のようで。失礼を承知で申し上げますが、どうか、妹の国まで連れて行ってくれませんか?」


 言葉の合間にコヒューコヒューと空気の抜けるような呼吸音を鳴らしながら、彼女は青白い顔でエーデルヴァイスに頼む。

 、、、人として、ここまで苦しんでいる人を置いて、立ち去ることはできなかった。







 オルジアへと向かう道中、エーデルヴァイスは空を見上げて思った。流石デザイアの姉妹。全員濃いなぁと。




西園寺家のペット。

ポチ

血統書付きの純血ブリティッシュショートヘア。タマではない。


濡れチョコせん餅

こちらも血統書付きのチワワ。命名者の気が知れない。


やや重い設定。読まなくても話の流れに支障はありません。


西園寺家

鹿島市周辺を治める超名家。800年程の歴史を持つ。

直系の人間は基本的に全員どこかしら人格やら某かが破綻しており、奇形や欠損なども多く見受けられる。

それでも家が途絶えていないのは、それだけ歴代の人間が化物揃いだったからだと言われている。

先代、今代と二代続けて兄妹しか愛せない人物と、同性愛者しか産まれなかったため、次代となる四姉妹で血が交わらないと流石に家が途絶えそう。


西園寺四姉妹


長女 綾葉

生まれつき心臓及び幾つかの臓器に疾患有り。聴覚、視覚、味覚、嗅覚が機能していない。右腕に欠損有り。

天才気質で、一度知覚したものごとは身体の許す範囲で全て実現可能。半径数キロメートルに及ぶ範囲の情報を同時に処理し続けられるスペックを持つ。

ネーミングセンスが壊滅的。


次女 綾音

人格と味覚に甚大な欠落が有る。究極の方向音痴で、自分がこちらだと思った方向の逆を進むと必ず目的地にたどり着ける。

好物は人のお肉と情事。いろんな意味でおいしいらしい。

身体的なギフテットで、SMもいける無敵っ娘。

妹二人にできることは大抵できる。


三女 綾乃

両足と左腕に欠損有り。姉のように全盲というわけではないが、視覚に障害がある。耳が聞こえないが、音の振動は分かるため会話はできる。

半径数百mに渡る広範囲の知覚した情報を処理できる知能を持つが、比較対象が姉らであるため、自分に自信がない。幼馴染みに執着している。


四女 綾華

生まれつき右脳に重度の疾患があり、左半身無視を患っている。五体満足ではあるものの、左手足を自由に動かすことができないためかなり不自由している。

右目は見えてはいけないものしか見えず、視界は左目に頼っている。が、左側を知覚できないため、かなり偏った視界を持つ。

味覚と嗅覚に軽度の障害あり。

生まれつき人ならざるモノが見えており、霊能力に長けている。

その筋で彼氏ができたため、姉らを押し退けて西園寺家次期当主に内定した。

よくガラケーを宙に浮かせたままメールを打っているが、周りも慣れているため多少の怪奇現象には動じなくなった。

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