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閑話 ウェーデア大陸

・ティアー様、進化する

・魔王三姉妹と見守る護衛陣

の二本立てです

式場にて(1)


「ぷっ!ふはははははっ!どうしたよティアー死にかけてるじゃんか」


 式の会場のとある一角で、一人の樹皇人らしき者が涙を浮かべる程笑いながらティアーの背を叩く。体が縮んでいるからか、その樹皇人の力が強いからか、叩かれる度にティアーは迷惑そうに前後に揺れる。


「あ、あのー、へーか。そちらの樹皇人さん?とはどういう関係で?」


 そんな二人を呆然と見ていたプレイヤーの樹皇人、ツキカゲは、我に変えるとティアーに薄緑に光るその樹皇人は誰なのかと尋ねた。


「こいつは───


「おー!おー!どうしたよ君ぃ!良く生きてられるねぇ。アレ?最近良く聞く逆ビーガンって奴?植物(同胞)しか食べないって奴?」


 ツキカゲの問いに答えようとしたティアーを遮り、樹皇人らしき男がツキカゲに話かける。

 そして、樹皇人らしき男にしてみれば、ツキカゲの体はかなり痩せ細っているように映ったのだろう。あたかも当然かのように、根で自身の後ろに立つ貴婦人の心臓を貫いた。


「ちょっ!?」


「駄目だろー?まだ若いんだし。食事はバランス良くとるのが一番だぞ?ほら、食え」


 ツキカゲの驚きの声などまるで気にせず、樹皇人らしき男は笑顔で根に突き刺さった死体をツキカゲに差し出した。


「辞めろウィステリアス。こいつの中身はプレイヤー。つまりは人間だ」


「ふぅん成る程?けどなぁティアー。肉を食えば樹皇に染まるだろう?樹皇の身体なんだから精神も樹皇であるべきだろ」


「辞めろと言っている」


 何度制止してもツキカゲに食べさせようとするウィステリアスを、ティアーは思いきり睨み付けた。


「分かったよ。この星(ここ)はお前の管轄下だ。確かに俺が口を出すのは間違ってるな」


 つまらなそうに言ったウィステリアス。ウィステリアス自身は特段腹が減っていた訳ではないのか、もう未練はないとばかりに貴婦人の死体は根から床へと落ちた。

 が、その後。ウィステリアスは再び笑みを浮かべ、


「でもそれはそれとして。死にかけのティアーに睨まれても可愛いだけなんだよなぁ!」


「っ!おいっ!辞めろ!俺を持ち上げるな!!」


 ティアーを両手で持ち上げ、くるくるとまりだした。




「あー、それでへーか。仲が良いのは分かったんだが、いったいこの樹皇人さんはどちら様?」


 しばらくした後、ウィステリアスの高い高いから無事解放されたティアーは、ツキカゲの問いに仏頂面で答える。


「こいつはウィステリアス。種族は園霊樹。今この星に施されている世界基盤的に言えば樹皇人が三段階進化した種族だ」


「やーやーどうもウィステリアスだ。それより君さ、そんなみっともない家畜根性(人間としての精神)なんて捨てちゃいなよ。

 君の星では支配者面できてるんだろうけどさ、世界的に見れば家畜にも劣る知能も身体能力も足りていないただの野生生物だ。そんな下等生物としての弱っちい精神なモガモガモガッ!?!?!?」


「俺の管轄下で暴れないという話は何処へ行った」


 そうしてしばらく3人で話をした後、ツキカゲを他のプレイヤーの元へ行かせ、ティアーとウィステリアスは二人きりとなった。


「それでティアー。本当に良いんだな?」


 先ほどまでのふざけた表情とは一転して真剣な眼差しを浮かべるウィステリアスは、ティアーに問いかける。


「ああ、構わない。所詮憧れは憧れ。俺にはそれよりも優先すべき任務がある」


 そう言ったティアーの視線の先には、献身的に豪華な衣装を身に纏った緑髪の少女の世話をする、一人の樹皇種の姿があった。


 緑風令嬢護衛総督、霧谷。ティアーの憧れの女性にして、物理特化の樹皇系列の最上位種【武寵天樹】にまで進化した叩き上げの実力者である。

【風】に娘が産まれるまで軍部に所属していた霧谷。幼い頃にその勇姿を見たティアーは、いつしか憧れとも恋とも、なんとも言えない感情を抱くようになっていた。

 もっとあの人に近付きたい。もっとあの人のようになりたい。そんな思いを胸に、ティアーは日々鍛練を積んできた。

 だが、ティアーには物理特化の系統である樹皇将へと進化するための才能が絶望的無かった。皮肉なことに、霊魔力やその他の"力"を得意とする系統の樹皇霊へと進化する才能には有り余る程恵まれていたのに。


 それでも鍛練に鍛練を続け、数千年の時を掛けて、ようやっとあと数年で樹皇将へと至れるという時である。

 先日の祟る弑すの襲撃があった。

 あれによってティアーの体は疲弊し、今は苗木の幼樹状態。積み重ねてきた努力は、全て水の泡となった。

 さらに追い討ちをかけるように、ティアーにとって不幸なことがある。幼樹状態では戦闘能力が著しく低下し、【蟲】に課されているこの星の管理とプレイヤーへの罰則を行うという責務が全うできないのである。

 樹皇種にとって。いや、彼らの存在する世界、緑深界の全ての存在にとって、六大巨頭の従属は絶対。

 現状を解決する手段があるならば、憧れよりも、そちらをとらねばならないのである。


「だから、お前の枝を俺にくれ」


『接ぎ木』

 樹皇種の持つ特性の一つ。自身よりも上位の種の枝を接ぐことで、その系統の種に進化する技。ただしあまりにも格差がある場合や、その種への適合能力がない場合は、台木となる樹皇種は乗っ取られるか死ぬ。


「ほらよ。今のお前弱ってるんだし、乗っ取られるなよ?」


「俺を誰だと思っている。同年代一の樹皇霊適正を持つ男だぞ?」


 樹皇種の進化など、そう滅多に見られるものではない。いつしか、周囲の視線はティアーに集まっていた。

 そして、ティアーが枝を自身に突き刺し、進化が始まった。


「二段階か」


「・・・俺、かなり努力してここまで登ってきたんだけど?」


 淡い青緑の光を纏い、普段の大人の姿へと戻ったティアー。進化した種族は霊樹皇。弱って居たというのにも関わらず、破格の進化であった。


「これなら明日(あす)までには園霊樹にまで進化できるな。ウィステリアス、リスト以外の者なら数人食べて貰っても良い。俺はレベル上げに行ってくる」


「・・・ええぇ」


 リストを手渡され、困惑しているウィステリアスを置いて、ティアーは会場から出ていった。






───────────────────

会場にて(2)


「はむっ!はむっ!はむっ!おいひい!お姉ちゃんこれ美味しいよ!!」


「ハッハッハ。そーでしょそーでしょ妹よ!この国料理は旨いんだよ!」


「ミュン、お主休戦中とは言え敵国に堂々と乗り込むのはどうかと思うのだが」


「いーじゃん折角のねーちゃんの披露宴なんだし。お祝い時に難しいことは考えないの!」


 ありとあらゆる料理が山積みにされたテーブルを囲み、姦しく会話をする三姉妹。そんな彼女らの隣のテーブルでは、アーニスが頭を抱えていた。


「私、もうこの国から帰った筈なんだけど。なんでまたいるんだろう」


「あはは、、、お水、要ります?」


「ありがとう」


 アーニスは、隣に座った少女に申し訳なさそうに水を注いで貰った。


「ターニャ殿、お気遣い感謝する。

 アーニス。我々は今、()()陛下の護衛として来ているんだ。何度も言った筈だ。気持ちは察するが我慢しろ」


 同じくテーブルを囲んでいる男に注意を受けたアーニスは、コップの水を飲み干して反論する。


「確かにミクロネシア様のご結婚は祝った。けど正直、私はまだあの子が覇王国の新王だなんて認めてない。私にとって王は、ミクロネシア様の一人だけ」


 アーニスは顔を隣のテーブルへ向ける。その視線の先には、はぐはぐと料理を頬張り続ける三姉妹の末っ子がいた。


「同感だ。俺もあのガキに国の長が務まる度量があるとは思っていない」


「じゃあ!」


「だがだ。あのガキを王に任命したのは他ならぬミクロネシア様だ。そうである以上俺はあのガキを王にするから任せたという"ミクロネシア様の命"に従う。アーニス、お前はどうだ?」


「・・・分かってても嫌なものは嫌なの」


(他国(魔王国)の人間の前で堂々と国内の不和を明かさないで欲しいんだけどなー。良いの?私そこに付け込んで荒稼ぎしちゃうよ?商業国出身の血を存分に発揮しちゃうよ?)


 等とは口に出せない自称小心者の少女、魔王国幹部ターニャ・タフノトーネは、大人しく水注ぎに徹するのであった。


ちなみに、魔王国と覇王国の料理はあまり美味しくありません。

魔王国は魔族の大多数が食文化にあまり興味がないため。

覇王国は新興国なのでまだ食にまで熱量を傾ける余裕がないため。

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