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閑話 ワルーレン大陸

ちょっと本来と違うテイストなので、興味ないなーって人は閑話は読み飛ばして下さい。毎話その話の要点だけ置いておくので、それを見て戴ければ本編に支障はありません。


・シルビア、『漠砂のヒュジャル』ラスボス 日向 日向(ひむかい ひなた)に出会う

・乙姫、弟子ができる

・大公、頭を抱える

の、三本だてです。

ヒュジャル砂漠にて───


「うむ。迷ったな」


「迷ったな。じゃないっすよ!?」


 ぽつりと呟き、砂漠のど真ん中で立ち止まった銀髪の少女、シルビア・レコネット。彼女の唐突な発言に、副官であるファータ・ソルシェは思わず突っ込みを入れた。


「だから迂回しようって言ったんですよ!軍務は終わったんすっから、多少日数がかかっても正規のルートで帰れば良かったんです!」


 そして、ファータはびしっ!と砂だらけの地面を指さして言い放った。


「そしたら砂漠のど真ん中でにっちもさっちも行かなくなることなんてなかったっす!」


 シルビアたちルージェ公国軍第一砲兵大隊がヒュジャル砂漠に入ってから早二週間。唐突に狂い出した方位磁針と、ただでさえ代わり映えのしない風景が続くのに風によって常に地形が変わり続けるヒュジャル砂漠。この二つの要因によってルージェ公国軍第一砲兵大隊は完全に道に迷っていた。

 本来、砂漠を越えるのにかかる道程は三週間。まだ焦る必要はない日数である。

 だが、二週間という時間は豊かな湖によって砂漠という地形とはあまり縁のないルージェ公国軍の面々には、この迷っているかもという不安に限界をきたすのには十分な日数だった。


「あ~終わりっす。もう自分らは国に帰れないんです。このままさまよって、死んで、数百年後の人類にミイラとして発見されるのがおちっす」


「まだ焦る必要がある程日は経っていないのだが、、、」


 頭を抱えて踞ったファータを困った表情で眺めるシルビア。夜はあんなにも頼もしいママなのに、昼はどうしてこんなにもだらしないのだろうと疑問に思う。

 だが、と、シルビアは後ろに続く自身の大隊の面々に目を向ける。

 彼ら彼女らも、ファータ程ではないが、全身に疲労が見え始めていた。このままでは近いうちに瓦解する危険性が高い。一体どうしたものかとシルビア自身も頭を悩ませていた。


 そんな折に、


 ザザ、、、ザザザザ、、、、、、、、、


 唐突に砂の動く音が響いた。


「散開!!!互いに互いにを見張れ!!!砲の届く範囲に砂の動きがあり次第報告しろ!!そして撃て!!」


 疲労を見せていた隊員も、頭を抱えていたファータも、シルビアのその号令によって一斉に陣形を組み上げた。

 いついかなる状況でも、上官の命令に絶対的に従うその姿勢は、流石軍人と言えるだろう。


 ザザ、、、ザザザザ、、、、、、


 再び響く砂音。そして、シルビアの前方に深い砂の渦が出来始めた。


 大隊の緊張が一気に高まる。これまでも、数多くのヒュジャル砂漠原産の魔物に襲われてきた面々。だが、蟻地獄のような渦を作り出す魔物など、ルージェ公国の書記にも、これまで会った魔物のうちにも居なかった。


 しばらく渦巻いたのち、ズズズと渦の中央からナニカが上がり始め、


「撃てぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」


 ドドドォォォォォォォオン!!!!!!!!


 シルビアの号令によって一斉に砲弾を撃ち込まれた。


 が、


「随分な挨拶だな。これがルージェ公国流の挨拶か?」


 砂の中から上がってきた男(何故か肩より下は埋まったまま)には一切の痛痒を与えられて居なかった。


「ヒューガ、、、ヒューガ、、、」


 出てきた男を前に、ぼそりと震えた声を上げたシルビアを除き、大隊の面々は誰一人声を上げられなかった。

 漠砂のヒュジャル日向 日向(ひむかい ひなた)。600年前にこのヒュジャル砂漠に根をおろし、以後支配し続けてきたと言われる怪物である。

 ロロがワルーレン大陸に作ったダンジョン『漠砂のヒュジャル』のラスボスにして、ロロの魔物のうち、三番手にくる実力者でもある。


「俺の名前はひむかい ひなただ。何度言わせる」


 過去600年、幾度となく名乗りをあげている日向。

 かなしきかな。本来の全長にして300メートルはある蠍の巨体の威圧感と、ワルーレン大陸に現れた転生者や異世界からの勇者、βプレイヤーによって面白半分で呼ばれ始めたヒューガヒューガといういかにも化け物といった呼び名の方が広まっていた。


「そ、それでヒュジャルの主よ。我が大隊に如何なる用件で現れた」


「それは此方の言葉だ。何故我が領域に貴様らがいる」


「我が領域?・・・っ!!」


 日向の言葉に、シルビアは今大隊が何処にいるのかに気付く。迷宮だ。大迷宮『漠砂のヒュジャル』の内部にいるのだ。

 だから一向に砂の砂漠から出ることが叶わず、方位磁針も狂ったままなのだ。


「・・・私はいい。如何なるようにして貰っても構わない。が、隊の面々はどうか見逃してやって欲しい」


「大隊長!!」「大隊長も一緒に帰りましょうよ!」「大隊長とこんなとこでお別れなんて嫌っす!!」


 覚悟を決めたシルビアの発言に、大隊の面々は涙を流しながら引き留める。対して、日向は困惑していた。


「話が見えん。俺はただ何故この場に居るのか、と聞いただけでそれの何処をどう飛躍したら人身御供の話となる?一から十まで説明しろ」


「あ、ああ。実はだな」


 そこから、シルビアは遭難の経緯から現状に至るまでを日向に話した。


「理解は、した。だがな、そもそも俺はこの迷宮を攻略しにきた奴しか相手にする気はない。遭難者や迷子等であれば逐一その者の国に送り返している」


「送り返して?それでは!」


「いわんや貴様らをや、だ。砂と風に身を任せろ。送ってやる」


 日向がそう言った直後、風と砂が辺り一面を覆い、、、全てが晴れた直後、シルビアたち大隊はルージェ公国の国境付近に立っていた。









───────────────────

セプリプルブス共和国首都アーレスティバイレ


「本人と判別できるものは、この頭部だけです。すみませんが経った日数と損傷度合いからして、うちの神官様でもどうにも、、、」


「・・・いえ。見つけてもらえたただけでもうれしい、です」


 申し訳なさそうな絶対幼女神聖教の神官から、紫髪の女の子はお友だちの頭を受け取ります。


「なんで、なんでこんな目に、、、」


 しばらくぼーっと立っていた女の子は、しまいにはお友だちの頭を抱えて泣き始めてしまいました。

 服は血や砂ぼこりで汚れてしまいますが、女の子に気にしている余裕はありません。だって、大切な友達が死んでしまったのですから。


 ここはセプリプルブス共和国の首都、アーレスティバイレ。つい一週間程前まで戦場だったこの町は、今は終戦直後の、戦後処理の真っ最中です。

 辺りには他の街からやって来て、親戚や肉親の姿を探す者、紫髪の女の子の様に、知人か死んで泣き崩れている者。様々な人が入り乱れています。


「あー残念だね。かわいそう。お友だち死んじゃったね。まだ小さいのにね。十才、行ってないんじゃないかな」


 突然の話し声に、女の子はびくりと、肩を震わせます。振り向くと、女の子とお友だちの頭を覗きこむようにして、一段と豪華な修道服をきた、真っ白な女の子が立っていました。


「でも、キミは幸運だね。その子みたいに、デザイアの玉にされた村人はみぃんなぐちゃぐちゃになってるんだよ?

 おとなの男の人でもそうなのに、そんなに小さい子がよくもまあこんなにもキレイに残ってるなって、私感心したくらい」


 修道服の女の子が言うことの意味がわかりません。紫髪の女の子は困惑してしまいます。なので、ただ修道服の女の子の赤い瞳を見つめることしかできません。


「よかったね。幸運だね。最後に一目見れたもんね。だからさ、笑いなよ。嬉しいでしょ?有難いでしょ?キミみたいに幸運な人が笑って居なくちゃ、他のもっと不幸な人たちはどうすればいいのさ」


 紫髪の女の子には、修道服の女の子が何を伝えたいのかがわかりません。そもそも、早口な貴族言葉なのであまり聞き取れません。

 ですが、何故でしょう?涙が止まりません。悲しくて仕方がありません。

 今も話し続ける修道服の女の子の言葉が、意味も理解していないまま呪いの様に耳にするすると流れ込んで来ています。

 紫髪の女の子にはまるで、暗闇にズブズブと落ちていくように思われました。


 ちょうどその時です。


 ドスッ


「ルイニーエさん、あまり不愉快な行動をされると私、殺したくなってしまいます」


 紫髪の女の子には、一筋の光が射し込んだように感じられました。

 彼女には、今も彼女を問い詰める修道服の女の子の胸に槍を突き刺して、ぐりぐりと回している青い髪の女性が、救世主に見えて仕方ありませんでした。


「ゴフッ。あはははは。面白い冗談だね。海の中の国をいくつも滅ぼした人に、そんなこと言われるなんて。

 あれかな?自分がやるのはいいけど、他人がやるのは嫌ってやつ?それとも、遠い場所で大多数が死んでいくのはいいけど、目前で人を虐められるのは嫌ってやつ?

 わぁい偽善者ぁ。凄いねぇ。面白い感性だねぇ」


 今度は、救ってくれた女性に標的が移ってしまいました。

 ですが、修道服の女の子の言葉は長くは続きませんでした。


「あまりにうるさいと、あなたの国(中立派)ごと海に沈めたくなるのですが?」


「・・・ちぇっ。しょうがないなぁ。今は私も争う気はないし、ここは一旦引いてあげるよ」


 カッコいい。去っていく修道服の女の子には目もくれず、女性のあまりのかっこよさに紫髪の女の子は胸をときめかせました。

 出来れば、友だちと一緒に出会いたかったなと、小さなしこりを残しつつも。


「大丈夫でしたか?あの女に変なことを吹き込まれたんですよね」


「は、はい。でも、もう大丈夫です」


「そうですか。では、私はまだ仕事があるので行きますね」


 にこりと微笑み、立ち去ろうとする女性。あまりの美しさに、女の子はお礼も言えずに立ちすくんでしまいます。


「あ、そうだ」


 ですが、チャンスは訪れました。女性が立ち止まって振り返ったのです。


「とはいっても、まだ心も落ち着かないでしょうし、私でよければ、いつでも相談に乗りますからね」


 女性の一言に、女の子は決心します。


「助けてくれて、ありがとうございます!あ、あと、、、私を、あ、あなたの、弟子にしてくだしゃい!!!!」


 女の子は決心したのです。もう悲劇が繰り返されないように。

 今度は、立ち向かって助けられる自分に成れるように。


「     ゑ?     」


 対して、女性の方は大きく目を見開いて固まってしまいました。






 まあ結局のところなのですが、よかったね!乙姫。弟子ができるよ!








───────────────────

ルージェ公国・大公の執務室


『ママー。ママー』


『大隊長?何回も言ってるっすけど、自分はママじゃないっす』


 ロンパースを身に纏ったシルビアが、ファータの無慈悲な発言に涙を浮かべる


『ファータ、、、ママじゃないの?』


『あーもう!わかったっすよ!今日だけ!今日だけですからね!!』


 シルビアのうるうるお目目にファータは呆気なく陥落し、何度目かもわからない今日だけを言い放った。


「良いッ!!実に!実にうとぅくすぃ!!!」


「うーむ成る程。百聞は一見に如かずとはよく言ったものですな。自分も軍師殿の言うことがようやっと分かった気がします」


 そんな、光景を水晶越しに見て、悶えるバカ二人(軍師と宰相)。大公は頭を抱えた。


「良いものですな。赤ちゃんプレイとは」


「そのうえ百合!宰相よ!分かりますか!?これぞ!これが!これこそが!!楽園(エデン)!!!!!」


(どうして、どうしてこうなった、、、)


 きっかけは大公がシルビア・レコネットをセプリプルブス共和国への援軍として送り出したことであった。

 報告によれば、シルビアは紆余曲折ありユースティアと会敵。気がつけばこうなっていた。訳がわからない。

 そして、何故だかは知らないが、百合赤ちゃんプレイというものが軍師の癖にぶっ刺さったのだ。

 以後一週間。天才と言われた彼の軍師の姿は見る影もなく、今はただの陰キャヲタクである。


「あ、陛下。わたくし、今の今まで自分の天命は軍略にありと心得ておりましたが、どうやら違ったようです」


「は?」


「わたくし、辞職してシルビア嬢とファータ嬢の追っかけになろうかと、、、」


「・・・は?」


「ですが軍師殿、それでは金銭面的に問題があるのでは?昔、帝国の女帝が言うておりましたが、なんでも推し活とやらには随分と金がかかるとか」


「ッッッ!!!わたくしとしたことがっ!!!なんたる失念を!!そうです!わたくしの全財産を賭したところで、彼女らの愛をより深めるには雀の涙にも足らぬ額にしかならないというのに!!!!」


 軍師が血走った目で大公を見た。大公は見ないで欲しいなと思った。


「わたくし、やはり辞職は取り止めます。そして、働きつつも彼女らに貢いでいこうかとッッッ!!!」


「は?」


 ルージェ公国大公ハルス・フル・タスタロス・ルージェ人生最大の困惑が、この日更新された。






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