英雄王3
遅れました
「『縮地』、『駿刃』」
(驚いた)
ライメトゥスの剣撃をあえて無防備に受け止めつつ、アーニスは驚愕した。
種族の封印を解放した後、ライメトゥスは数瞬の間固まってはいたものの、即座に攻撃に転じてみせたからだ。
全ステータス値5億。この圧倒的な威圧感を前に、普通誰しもが恐怖に固まるものだ。
動けなくなる者、混乱のあまり分けもわからず逃げ出す者、多少強いからこそより絶望し、破れかぶれに特攻を仕掛ける者。今まで敵対した人間は、アーニスに様々な反応を見せてきた。
だが、ライメトゥスは違った。目が死んでいない。絶望的な状況でありながら、確実に勝利を掴んでみせるという意思が表れていた。
「『完全反射』」
であらば、完膚なきまでに叩き潰してやろうというもの。
「がはっ!」
反射されたダメージによって、ライメトゥスのHPが一気に削れる。
それに対し、アーニスのHPは1たりとも減っていない。
ボゥゥゥゥゥウ!!!!!!!!!!!!!
そして、『火吹き芸』。
アーニスが軽く息を吹いただけで、ライメトゥスの全身を消し炭にせんとばかりの炎が放たれる。
本来、攻撃スキルにしては物足りなく、補助スキルにしては観客を笑わせることしか能のないスキル。そのはずの『火吹き芸』は、暴虐的なまでのステータスによって、並みの上位魔法では足元にも及ばない火力を出していた。
「『十剣技極』」
ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!
ただ必中するだけの、ナイフを飛ばすスキル。それがこれまたステータスの暴力により目にも止まらぬ速さでナイフを飛来させ、当たった直後に耐えきれなくなったナイフが爆散するというものに変化していた。
アーニスがスキルを放ち、ライメトゥスが防ぐ。言葉にしただけでは一見先程までと同じように思えるこの構図だが、実情は全く別のものとなっていた。
あしらうように防ぎ、あまつさえ結婚の許可を貰おうとする余裕さえあったライメトゥスは、今やアーニスの攻撃を防ぐことに手一杯で、アイテムによる食い縛り効果でなんとか生きていられるような状態だった。
そして、現在と先程の、もう一つ決定的な違いを挙げるとすれば、
「『大崩壊』」
スキル『大崩壊』
範囲内の装備、アイテムの耐久値を0にする。この効果でそれらが破壊されることはないが、耐久値が1以上になるまで使用出来なくなる。
「『大崩落』」
スキル『大崩落』
範囲内の土地を崩壊させ、耐久値が0の一切の装備、アイテムを破壊する。
アーニスが、スキル『大解放』に並ぶ、多様で強力な種族スキルを扱うことだろうか。
通常、職はステータスが低い替わりに広く浅く、多くのスキルを獲得する。
対して種族はステータスが高い分、得られるスキルは少なく、尖った性能のものが多い。
だが、アーニスの種族はそんなもの関係ないと言わんばかりに高いステータスと深く多くのスキルを習得する。
圧倒的な質と量の暴力を押し付けるアーニスと、それを必死に耐え続けるライメトゥス。最早二人の戦いは戦いと呼べるようなものではなく、アーニスの蹂躙劇でしかなかった。
だが、ライメトゥスはその程度で諦めるような男ではなかった。
「『臨界速』」
超速によってアーニスのスキル範囲から離脱する。
「『大器大成』『神鬼奉納』『英傑の紋章』」
VTOにおいて、基本的に同系統のバフは掛ければ掛ける程倍率は落ちて行く。
攻撃力を10倍にするスキルを二つ発動したとすれば、二つ目はスキルの格にもよるが、平均して2倍程度しか上昇しない。これは、三つ目、四つ目と重ね掛けする程に深刻になっていく。
だから、スキルの重ね掛けは3つで打ち止めにしておく。
「やっぱおかしいよなぁこのアイテム」
例外は、神具や効果として重複を可能とするスキルやアイテムを使う他ない。
(挨拶の最中に酒を飲むのはどうなのかって思う訳だが、、、背に腹は変えられない、か)
ライメトゥスはアイテムボックスから取り出した瓶を開け、中の大量の錠剤をワインで胃に流し込んでいく。
公式イベント『登頂者の追憶』に参加したマスター謹製の、携帯式バフアイテム。マスターが天破斬と対戦したときよりも上位の重複可能なバフアイテムである。
重複可能なアイテムはどうしても強化倍率が低い。そもそもアーニスに追い付く位の強化を施すには莫大な時間がかかり、ライメトゥスは自身の体やアイテムの在庫がその時まで保てるとは一切考えていない。
やはり、どう考えても絶望的な状況。
だが、
(素の状態でも、せめて片腕くらいは落とせないと示しがつかないよな)
ライメトゥスはアーニスに勝つ気でいた。
追記。誤字報告感謝です
ステータス見返してみたら、マスターの攻撃力100億行ってました。そんなに化け物にした覚えはなかったのですが、、、
保険って大事ですね。
良かった。アーニスの台詞に万が一って入れておいて。