英雄王
二、三話ライメトゥスの話が続きます
ノストール王国王都に構えられた宰相の屋敷の一室。そこで、一人の男が頭を抱えながら絨毯に転がっていた。
「だー!緊張するぅぅ、、、」
「だらしない。兄さんと陛下とナーダルテちゃんのおじいさんにはもう挨拶済ましてるのに」
「あ、ちょ、痛い。痛いっ」
そんな男、ライメトゥスの頬を、ジト目の少女が高速でつつく。
彼女の名前はリュークル・エ・レボンス。彼女の民族では富士山等と呼ばれる、生え際が白く、先端にいくに連れて深い青になっていく特殊な髪をした少女だ。
戦闘能力に長けた民族に生まれた彼女のつんつんは年頃の少女が行うような甘酸っぱいものとは威力と精度と速度が違う。
いくら英雄王と呼ばれるライメトゥスと言えども、頬の一点を集中的かつ高速、しかもそれなりの威力でつつかれれば、かなり痛みを感じる程には痛かった。
「リュークル、いい?人をつつくときはもっと思いやりを持って、、、いやむしろ愛情を持ってつつくんだ。そんな俺の頬に穴が開きそうな威力でつつかれてもこま」
「愛情、込めてるよ?」
「、、、あーくそ。可愛い。許した」
ライメトゥスは、こてんと首をかしげて不思議がるリュークルに、なす術もなく敗北した。
バタンッ!
「ライメトゥス!そろそろアーニスがこの王都に到着するとの情報が入った。本当にお前一人で大丈夫か?まだアーニスは教皇代理の雨の範囲外だ。今からでも遅くない。私がアーニスを暗殺して」
「大丈夫!大丈夫だから!!」
部屋の扉を勢い良く開けて入ってきたのはこの屋敷の主、ガイズス・アイシア・フォングラッセだ。
焦りに焦り、若干涙さえ浮かべた彼女の提言をから飛び起きたライメトゥスは抱きしめることでやんわりと断った。
「おーん?本当か?わしの国の四天王だぞー?強いぞ?魔界八将の一人と同じ種族のエリートだぞー?」
「ヤバい不安になってきた」
苦笑しつつアイシアを抱きしめていたライメトゥスをの耳元で、金髪の少女が煽る。
ライメトゥスの背が高いため、爪先立ちになりながら囁いていた少女、ミクロネシア・バン・バルバドレイグの言葉を聞いた途端にライメトゥスは真顔になり、数刻後の戦闘への不安を募らせ始める。絨毯
「ッ!やはり私が暗殺を!!」
「って、だめだって!俺は大丈夫だから!!ほんと、信じてっ!」
「ライ、矛盾してる」
「リュークル!?つつくのやめよって言った言ったよね!?」
ミクロネシアに煽られ、アイシアを落ち着かせ、リュークルにつつかれる。てんやわんやなライメトゥスを見つめ、笑みを浮かべる少女と言っても過言ではない見た目をした女性。
「クスクス。キミタチ、ほんと元気だよね」
「そう言うナーダルテ、うぬも混ざればよいではないか」
「私は私みたいな押し掛けを受け入れてくれただけで十分だよ」
ミクロネシアの呼び掛けに、彼女、ナーダルテ・ラズ・アストラルはニコリと微笑んで答えた。
「あー。こういう時どう言えばいいのか全くわからんのだけどとりあえず、最終的に受け入れたのは俺なんだし、ナーダルテも思ったことがあればいつでも俺にぶつけてくれな?」
ナーダルテはライメトゥスの言葉を聞き、笑みをより深める。
「ライメトゥスくんもこう言ってることだし、先程の発言には"今は"と付け足しておくよ」
「ふっうぬが本気になったときにライメトゥスからの愛が少しでも残っていればいいがな?」
ライメトゥスとその愉快な仲間たちは、今日も代わらず元気に過ごしているのであった。
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宰相邸でのじゃれあいから数刻後、ノスタード王国の首都、ノービアの東門の外に二人の男が立っていた。
片方は言わずと知れた英雄王、ライメトゥス。先程までのTシャツ短パンのラフな格好ではなく、今は赤黒いマントと漆黒の軽鎧を身に纏い、背に大剣、腰に直剣を差している。
もう一人は金髪碧眼の勇者然とした男。腰に聖剣を差し、白銀の鎧を身に纏っている。
「じゃあライ、そろそろアーニスがくる頃だし俺は防壁に観戦の準備をしにいくよ」
ひらひらと手を振りつつ、閉まりかけの門をくぐろうとする勇者、カエサル。その肩を、ライメトゥスはがしりと掴んだ。
「カエサル?散々煽っておいてはいさよならってなると思ってるのか?」
「やだな。俺はライが緊張しないように声をかけてただよ。実際、もう直前だけれど緊張は殆どないだろう?」
ライメトゥスは押し黙る。カエサルが言い訳をしているようにしか聞こえないが、家でも喚き、門へ来るまでの道中でも心に根差していた不安や緊張がかなり減っているのは事実だった。
「、、、はぁ、そういうことにしておくか。サンキュ」
「どういたしまして。まあライなら不安だろうと緊張していようとやる時はやるだろうから心配はしてないんだけどね」
また後でと言いながらカエサルが門の内へ入って行くのを見送りながら、ライメトゥスは大きく深呼吸をした。
「すー。はー。すー。はー。すー、、、うっし。やるか」
深呼吸が終わると、ライメトゥスの目の色が変わる。先程までの不安は無くただただこの先来るであろうアーニスを見据えた真剣な眼差しへ。
ライメトゥスは腰の直剣を引き抜き、上段に構える。一切剣先が揺れることもなく、ライメトゥスはそのまま微動だにせず剣を構えたまま停止した。
そして、数分が経った後、突然ライメトゥスがスキルを発動する。
「『韋駄天』」
直後、ライメトゥスの姿がその場からかき消え、遥か遠方にて砂ぼこりが舞った。
しとしとと優しく降り続ける雨の中、ゆっくりと首と胴体が繋がっていくアーニスを見つめ、ライメトゥスは残心をといた。
アーニスの首が完全に繋がり、開いていた瞳孔が元に戻った瞬間、ライメトゥスは再びアーニスの首へと剣先を向けて、そして言い放った。
「初めまして。ライメトゥスと申します。どうか私とミクロネシアさんの結婚をお許し下さい」
英雄王ですもん彼。ちゃんと強いんですよ?種族を性能封印してるアーニスくらいなら一撃で首ちょんぱできるくらいには
誤字報告感謝です