送る道化のお迎え道中4
皆さんは12という数字で何を思いつきますか?
「来たぞ!仕掛けろ!!」
「「「はいっ!!」」」
弔いの浄焔。数百メートルという圧倒的なまでの射程を持つこの魔法でも、さすがに一発で都市全体を覆うことはできない。必然的に討ち漏らしが出てしまう。
射程の範囲外だった。たまたま何らかの遮断する方法やスキルを持っていた。理由は様々だが、先ほどの弔いの浄焔から生き残った者たちがアーニスへと攻撃を仕掛ける。
本来都市内での戦闘など言語道断の筈であるが、このままアーニスを通して覇王を拐われたとなれば世界大戦にも繋がり得る。
ヴィッシュナー辺境伯は、その未来を憂い不承不承ながら都市内での戦闘を許可していた。
「『レディィィィィーーーーーーース&ジェントルメェェェェンッ』!!!!!!!!!」
仕掛けられた魔法陣から飛び出す魔法も、飛来する矢も一切を無視して、アーニスが口上を述べた。これによってある一つのスキルが発動する。
スキル『ショータイム』
職特性や同系統の職のスキルや魔法を大幅に強化する特殊スキルである。
また、その強化率は、大衆の注目を集めれば集める程に上昇する。
街中、しかも空中という絶対的に注目を集める場所において、この強化率は恐ろしい程に上昇する。
これによって、振りかかる魔法は演出に。飛来する矢や槍などは小道具に。特殊による補正によって成り下がる。
「嘘だろおい。あいつ、罠に自分から飛び込んで行きやがったぞ!?」
アーニスは防壁を蹴り、軌道を修正。時には魔法や矢なども足場にして罠へと自ら掛かりにいく。
だが、まだアーニスの口上は続く。
「本日お見せするのは類い稀なる連続脱出劇!!この都市ハルゲンに仕掛けられた数々の罠、全て潜り抜け、見事脱出して魅せましょう!!!!!!」
都市全体に響き渡ったあり得ない宣告に、住民プレイヤー問わず注目が一気にアーニスへと集まる。
そして、アーニスは罠から罠へと、跳んだ。
ジャンプではなく、ワープの跳ぶ。アーニスは文字通り捕らえられた罠から、別の罠へと脱出してのけたのだ。
それももちろん一度ではなく、連続で。
罠から罠への脱出。そんなあり得ざる手法を用いて、アーニスはハルゲンの街を一瞬にして踏破してみせた。
わずか30秒にも満たない時間で、彼女は直線距離4キロメートルはある都市を横断したのである。
──────────────────────
ハルゲンの西門の外で、14人の全く同じ顔の少女が雑談に勤しむ。都市内の戦闘による喧騒とは違い、ここは彼女らの笑い声や話し声による騒がしさが広がっていた。
牡牛「どー思うよ私」
牡羊「それなー」
水瓶「わかりみが深い」
魚「ぴちぴち」
双子「「私、魔法少女になります!」」
蠍「実質似たようなもんじゃない?」
天秤「もんじゃはないよ(ヾノ・∀・`)
私が全部食った!」
射手「ちゃうねんなー。そっちのもんじゃじゃない」
獅子「は、良いとして、そろそろ作戦建てない?」
魚「ぴちぴち」
蟹「おい私。私が作戦通りに動くと思っているのかー」
乙女「思わない。全く思わない。むしろ率先して外れにいく」
山羊「そゆことー」
魚「ぴちぴち」
十二神「よーし!それじゃあ私よ。各々頑張ってねー。検証班には死んだら死んだで全滅するのかってデータがとれるから良いよって言われてるけど、ライメトゥスには全力で足止めしてってお願いされてるから、できるだけ死なないように!」
乙女「誰に言うてんねん」
双子「「こちとら私やぞー」」
魚「ぴちぴち」
天秤「そーだそーだー」
牡牛「女三人集まれば姦し。じゃあ私13人集まれば?」
蠍「私。私は二人で一人で14人」
射手「あ、ほんまや」
魚「ぴちぴち」
双子「「しくしく」」
牡羊「やーい⊂(・∀・⊂*)私が私を泣かしたー」
蟹「やーいやーい」
山羊「収集つかなくて笑う( ´∀`)」
水瓶「ぴちぴち。じゃなかった仕方ないよ私がたくさんいるんだし」
魚「ぴちぴち」
十二神「メンゴ」
大変楽しく姦しく、騒ぐ彼女らを他所に事態は大きく動いていた。
「『─────種も仕掛けも魔法も氣力もありはしない!純粋無垢なる魔術の真髄。とくとご覧あれこの神憑り!』『幻炎無限』!!!!」
都市内を突破し、アクロバティックな動きで防壁を登っていたアーニス。彼女は防壁から飛び降りると同時に、真下でガヤガヤと談笑し続けているマヌティノーゼへと向かって業火を放った。
放たれた魔法は即座に全てのマヌティノーゼを包む。
ハルゲン内で散々に盛りに盛り続けたバフ。その一切合切を余さず乗せたアーニスのマジックは、周囲一帯を飲み込み、弔いの浄焔ですら比べ物にならない範囲を火の海に変えた。
「『火葬』」
アーニスのスキルが発動し、辺りを包む炎全てが特殊効果『葬斂』の効果を持つ炎へと変わる。
特殊効果『葬斂』
死者を送る意味合いを持ち、アンデッドやレイスなど、死霊系や不死の種族に強力な特効補正を持つ。ことさら、何度死んだとしてもリスポーンして復活するプレイヤーには絶大な威力を発揮する。
この効果を持った攻撃は、生者や無機物などには一切の攻撃性を失う変わりに、ありとあらゆる防御や耐性を無視して対象者にダメージを与える。
魚「ぴちぴち」
パァンッ!!!!
『火葬』を使い、空中で体勢を整えていたアーニスの頬を、マヌティノーゼの魚が跳ねるようにして放たれた蹴りが強かに打ちつけた。
水瓶「触れたら死ぬ炎」
十二神「でも」
双子「「水で消火できちゃう様ならやりようはあるよねー」」
炎が消えた後、水浸しではあれど無傷な14人のマヌティノーゼの姿がそこにはあった。
牡羊座なマヌティノーゼ 《アリエス》
牡牛座なマヌティノーゼ 《タウルス》
双子座なマヌティノーゼ 《ゲミニ》
蟹座なマヌティノーゼ 《カンゲル》
獅子座なマヌティノーゼ 《レオ》
乙女座なマヌティノーゼ 《ヴィルゴ》
天秤座なマヌティノーゼ《リブラ》
蠍座なマヌティノーゼ 《スコルピウス》
射手座なマヌティノーゼ 《サギッタリウス》
山羊座なマヌティノーゼ 《カプリコルヌス》
水瓶座なマヌティノーゼ 《アクアリウス》
魚座なマヌティノーゼ 《ピスケス》