東方修練9
ガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!
「化け物じみているにも程があるだろう」
無数の血の触手が地面を穿ち、結界をなぶり、ニコラを打ちのめす。
そんな暴虐を繰り広げているにも関わらず、当のエルバスは頬をひきつらせていた。
理由は単純。ありとあらゆる攻撃の一切がニコラを除いて全て無効化されているからだ。
要特殊職【勇者】
全てはニコラが就くこの職のスキル、『無慾の献身』よるものであった。
スキル『無慾の献身』
庇護対象とした全ての存在へのダメージを、自身が肩代わりする。
破壊した対象が自分だろうと相手だろうと、破壊は破壊。痕跡が残ることは確か。
『破壊しないで勝つ』
そんな無謀な目標を掲げたニコラとしては、例え地面であろうと傷を残させるわけにはいかなかったのだ。
因子『ユニコーン』『樹皇世』『世界樹』『天使』『死を彷彿とさせる魔』 etc.
数多くの回復に特化した因子を融合する形で発現させることで、ニコラは傷を負った直後に肉体を復元するという馬鹿げたことを成し遂げていた。
エルバスが瞬きをした直後、眼前にニコラが迫っていた。触手で間合いを広げ、数十メートルは距離があったというのに。
「むぅ(=`ェ´=)」
ニコラが血の祝杯へと手を伸ばし、間一髪でエルバスが遠ざける。目的が血の祝杯だとわかっていなければ、今のエルバスには避けるどころか知覚することさえできない速さだった。
血の祝杯を奪われればそれ以降ニコラを抑える術がない以上、エルバスは一瞬たりとも油断することができない。
かといってニコラにも余裕があるわけではない。発現方法が負担の大きい"反発"ではなく"融合"であるためある程度余裕はあるが、それでも複数の因子の同時発現はかなりの負担になる。
さらに、エルバスの身体能力は常に上昇し続けている。これだから南の先住民族はとため息を吐きたいところだが、そうも言っていられない。放置し続けて身体能力がニコラに並ばれたら、目も当てられないからだ。
一刻も早くエルバスから血の祝杯を奪うかこの争いの解決方法を思いつかなければ、ニコラの目標は達成出来なくなる。それでまた破壊しかしないなどと煽られることになるのは凄く癪だ。ニコラはそれを打開すべく、ない頭を必死に働かせた。
「、、、この結界の構造どうなってるのかしらぁ?」
「お姉さま。確証はないのですが、先々代の勇者の様にして基盤の本体へと接続しているのでは?」
「だとしたら、解析まで数ヶ月は掛かるわねぇ」
ニコラは一旦エルバスから視線を離し、解析を続ける祟る弑すの方へと目を向ける。他の方面からなら解決の糸口が見つかるかもしれないからだ。
、、、何も思い浮かばなかった。実によろしくない。ニコラは少しむすっとする。
次に、捕まっている人質の方を見る。拘束されているだけで、他に何かされている訳ではなさそうだ。祟る弑す側も脅しに使っても、突きつけた凶器が人質に当たるよりもニコラが駆けつけて攻撃者を肉塊に変える方が早いことを理解しているのだろう。
どうしようかとニコラは悩む。
(このままエルバスと戦い続けても血の祝杯を奪える可能性は低い。どうせ先に結界を解読されて逃げられるのが落ち。
結界を解読している連中の邪魔をする?根本的な解決になってないよね。
祟る弑すのギルドマスターに人質を返して貰う?交渉に応じる様な相手ならこんなことはしでかさな、、、あれ?)
ニコラは気付く。そうだ、交渉をすれば良いんだと。
唐突に動きを止めたニコラに触手が当たり、結界まで吹き飛ばされて全身を強打したが気にしない。たいしたダメージにもならないし、今のニコラは解決策が見つかった興奮で気にも止めていなかった。
今のニコラには交渉の材料など何もない。だが、交渉材料などいくらでも作れる。だって勇者だから。
「因子『覚姫』」
300年前にノストール大陸で起きた人妖大戦。開始僅か10日で終戦したその戦争を終戦させた張本人は、いくつもの種族を救ったと認知されている。
そのうち一つ、東洋の心を読む妖怪の姫君。
心を読む対象はたった一人。ギルドマスターだけで良い。他のメンバーはギルドマスターが言えば全て従うイエスマン(らしい。掲示板には独裁って書かれていた)だからだ。
たった一人。それでも莫大な情報量。エルバスにべちべちされつつも必要な要素だけを読み取ったニコラは不敵に笑った。
なるほど、破壊のない終戦。なかなかどうして行けそうじゃないかと。
「パルツペトス、ボクは他の世界の勇者と交流があるの。そこで聞いた母親が四天王で、父親が魔王になった女の子の話しなんだけど、、、興味、あるよね?」
今さらながらに祟る弑すを祟ル弑スに変えようかと悩み中です。