東方修練8
(*´;ェ;`*)
「うん。とりあえず出てきたは良いものの、どうしようか」
本当にどうしよう。と先代勇者ニコラは頭をふりふりさせて悩む。
「ラフィー、再発動の準備を頼む。リリムは結界の解析を」
「私ぃ、そこまで得意じゃないわよぉ?」
「私もできるだけやるさ。それに、祟る弑すにリリム以上に魔法に造詣が深い人物が居ないことは知っているだろう?」
「はぁ、しょうがないわねぇ。ウェドゥネスぅ、ビットの制御を最低限にしてリソースをこっちに回しなさいな」
「了解しました。お姉さま、、、4万機分でよろしいでしょうか?」
「エルバス、先代勇者の相手は任せた」
「わかった」
とりあえず結界は張った。これで逃げられる心配はない。問題はここから。どう倒すかだ。風評被害を軽減するためには──────
「[血業]アルズフィート。[流血]ヤハール」
ゴォォォン!!!!!
ゆらゆら揺れて思考を続けるニコラの角に、エルバスの剣撃が叩き込まれた。
非常に強力な聖属性の魔法を操る幻獣。ユニコーン。
角の生えた白馬の姿をしており、山奥の綺麗な水辺で良く見かける。
最大の特徴は、高い効能を持つ霊薬の素材や、非常に効率良く魔力を通すことができることから魔道具の素材としても扱われる角を持つである。
この角を持つ限り、ユニコーンはほぼ無限に自身のレベルよりも高度かつ高火力の魔法を放ち続けることができる。
逆に言えば角を失ったユニコーンの魔法は、非常に弱体化する。
それ故にエルバスはニコラの角を狙い、剣撃を放ったのだ。が、
「無傷か」
「? ボクは吸血鬼だよ?」
ニコラはこてんと首をかしげる。格下の吸血鬼が、格上の吸血鬼に血液操作による攻撃を仕掛け、効果がない。そこに何の不可解な点があるのだろうか。ニコラには分からなかった。
ひょいっ
ニコラが人差し指で大剣を差し、横に振る。それだけで大剣の形が崩れ、エルバスの首筋を血流が襲った。
「、、、格が違うのは分かっていたが、血流操作でこのレベルの差か」
大剣はエルバスが抵抗する間もなく制御権を奪われた。つまり、ニコラ相手にエルバスの吸血鬼の魔術はほぼ全て通じないことを意味する。
(とはいえ、肉弾戦で勝てる気もしない)
ニコラの体を見やる。一見細身の少女の様だが、内包し、循環し続けている魔力と気力が桁違いである。それこそ、エルバス数千人分はあろうかという程だ。当然、そこから繰り出させる数々の攻撃は、例え生身だろうとさぞかしえげつのない威力を誇ることだろう。
エルバスが攻め手に悩む中、ニコラは考え事をしていた。
(元吸血鬼のはず、、、ボクの武者修行中に産まれて転生したの?)
格上の同族と対峙した経験のある吸血鬼ならば、まず血液操作は使わない。というか使うという発想に至らない。
が、ニコラが出合った同族の中にこのエルバスと呼ばれる元吸血鬼と合致する実力者は居なかった。となると、ニコラが百年程行った別世界へと渡る武者修行中に産まれて死んだとしか思えないのだ。
要するに、ニコラは全く戦闘に関係のないことを考えていた!
別に、ニコラが油断している訳ではない。ただ、全く自分にとってのこの戦場の攻略方法が迷宮入りしているだけなのだ。
正直に言って、ニコラはやろうと思えばこの戦闘を一瞬で終わらせられる。
ニコラは強い。それこそ、エルバスを血痕に変え、祟る弑すの面々を塵一つ残さず消し去り、人質たちの支配権を持っている祟る弑すのギルドマスターをこのゲームのシステムに残るデータごと消し飛ばして人質を解放することなど造作もないことである。
だが、それを行えば辺りは草一つ残らない荒原と化す。掲示板の「破壊しかしない勇者」という汚名を晴らしたいニコラとしては、許容できなかった。
「手詰まりだな。仕方ない、使うか」
先に行動を起こしたのは、エルバスだった。懐から金で装飾の施された杯を取り出した。
取り出されたその異物を見て、ニコラは目を見開く。それは、ニコラがこの星では一度たりとも目にしたことがないもの。それは、運営が必死にこの星から取り除いたもの。要するに、あってはならないものだった。
「アーティファクト『血の祝杯』」
コポコポと杯の中から血が溢れだし、エルバスの周囲を舞いだす。
アーティファクト。様々な形状をしており、装備するだけで神をも殺しうる力を授けるもの。場合によっては、究極の武器である桜シリーズにも匹敵しうるそれは、運営が血眼になってこの星から存在を消したもののはずだった。
「どうせこれを使ったとしても勝てないのだろうが、、、時間稼ぎにはなる」
ツッッッ!!!!!!
新しく産み出された大剣が、避けられたとはいえ、角ではなく頬とはいえ、今度はニコラを切り裂いた。