東方修練1
再投稿。多少ですが加筆訂正しています。
同胞に囲まれ、小さき同朋生い茂る中、二人の人間が互いの得物を交えあう。
片方は女。名はラッツェルディーン・メイ・ワルーレン。近頃宮殿にて住まう同胞によるところの学ランなる衣服を纏い、さらしなるものでその乳房を覆っている。これ又宮殿に住まう同胞の言葉だが、所謂れでぃーすやんきーなる者の格好らしい。
対して男。名はアレクセイ・ウォル・ノストール。いや、今はキュー等と名乗っているんだったか。所謂冒険者なるものを名乗る人間の装束を纏い、魔槍と呼ばれる類いの槍を手にしている。白髪に黒色の瞳。人間より稀に産まれる忌み子などと呼ばれる種族の特徴を持っている。最も、只人間が区分し、天がそれにあわせて名付けた形だけのものに過ぎないが。
「あっれぇぇ~~!!!どうしたんですかぁ?んなちんけな槍なんて使っちゃってぇ。いつも宜しく装備任せに戦えば良いものを、頑張って自分の力で戦ってますアピールでもしてるんですかぁ?そんなちんけなものでクソババアに褒めてもらおうとか考えちゃってるんですかぁ!?」
狂喜の形相を浮かべ、ひたすらに魔素を撒き散らす拳でアレクセイを殴り付けるラッツェルディーン。
対して防戦一方ではあるものの、アレクセイはぎりぎりながら魔槍によってラッツェルディーンの連打を堅実に捌いている。稀に直撃しているが。
「装備だよりで戦って負けて死んだ訳だからね。ぐほっ!今度は装備に見合う様に体を鍛えないとってぐべっ!思ってさ」
アレクセイの顔が歪む。苦悩と後悔の念でも抱いているのだろう。
敗北を悔い、繰り返さぬよう力を尽くす姿には好感を持てる。が、それが六大巨頭への反逆の為と考えると不快感しかないな。
「あと、僕はエッフェに特に恋愛感情とか持ってないから、そういうことは思わないな」
「 ゑ? 」
直前まで容赦なく殴り付けていたラッツェルディーンの動きが止まる。大きく眼を見開いている。確か、人間では驚きを表す表情だったか?
「エッフェルディーンに、褒められて、嬉しくない、人類が、いるのですか?」
「そうだね。僕にとっての彼女はずぼらな姉みたいなものだし、、、、褒められても何か欲しいものが有るのかな?って疑問の方が先行するかな」
「、、、、、、、、、、、、お、お、お前人間じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
先程とは比較にならない覇気。空間が歪み、周り全てがラッツェルディーンに染まる。馬鹿げた時空間の中でラッツェルディーンはアレクセイに拳を振り下ろす。
「こ、これ訓練だよ!?」
バキッ
「あっ!今生初めての作品が壊れた!!って違う!!今の僕がそれ受けたら死ぬから!手加減!手加減してって!!!」
とっさにアレクセイが魔槍にて受けるが、呆気なく二つに割れる。まあだろうな。あの魔槍とラッツェルディーンの拳では纏う魔力の桁が違う。
「ママをバカにする奴に慈悲なんざ必要だと思いますかぁぁ!?いらねぇですよねぇ!!!??」
「あっちょっ」
ギャァァァ!!!!!!!!!!!
アレクセイの甲高い悲鳴が響き渡る。
穴だらけの肉体が消え、近くに置かれたクゥンシア様を象った像から万全となったアレクセイが現れた。
人間、餌といえど侮ってはならない存在がいる。俺はそう認識している。例えばアレクセイ。東衛賢人と呼ばれた男。例えばエッフェルディーン。南方眠徒と呼ばれた女。例えばあかつか。先々代の勇者。
六百年前、東西南北を象る四つの王家と、我らが六大巨頭が一人、【蟲】のファープル様による戦争が起こった。
無論ファープル様が圧勝した。が、この戦争、もしアレクセイが手放した桜刀が手元にあれば。もしエッフェルディーンが万全に戦えていれば。もしあかつかが参戦していれば。勝負はファープル様の敗北に終わっていたと言われている。
この様なことはあってはならない。上の考えはわからないが、樹皇種にとって六大巨頭とは"絶対"なのだから。
そのために俺はこの星に派遣された。ファープル様が戯れに残された四方家のその後の動向を観察する為に。世界を変え得るような特異点が顕れないかを見届ける為に。
だが、最近判らなくなってきたのだ。先代勇者然り、プレイヤーという人間どもの"剣士"と呼ばれる男然り。
「やぁ。樹皇人。この世界の支配階級様。聞きたいのだけれど、あの折れた槍を持ったのがアレクセイ・ウォル・ノストール。彼処の大木の下でボケッとサンドイッチを頬張っているのが封麟。で、合っているかな」
笑顔で俺の首に刃物を突きつける集団然り。
「ああ、合っているな」
本当に稀に、なのかどうかが。判らなくなってきている。
四方家
エルフェス及びファープルの決定に反旗を翻した四人の王、その一族の末裔を指す。
一応王としての地位の継続は許されたものの、特に制裁が厳しかった南陽眠徒の国家は大国と呼ばれる国家郡からは脱落している。
北方盟主 何気にこの星一の大国
西端覇者 ソラスティー大陸の半分を国土として保持
東衛賢人 他3国との協定により確固たる地位を維持
南陽眠徒 ワルーレン大陸の左端の小国