優先順位
「これまで人類は、色々な”アイテム”を入手してきましたが、使用方法や効果を解明出来た物は、一握りです。春野さんのような方々の努力等で、徐々に解明は進んでいるのですが、その道は遠く険しいのが実情です」
「一方で、”アイテム”を求める声は年々増えています。”アイテム”が原因で災厄が発生するマイナス要素で忌避される事はありますが、それ以上に恩恵の方が重視される傾向にあるんです。でも分析には、巫咲さん達の頑張りもわかるのですが、現実問題として時間がかかる以上、その解析する”アイテム”には順位付けをせざるを得ません。」
最上館長と信護の説明を聞いている内に、事情はだいたい巫咲にもわかってきた。
後はその推測が正しいのか確かめるため、いくつか質問をする。
「じゃあ、その順番だけど、どうやって決めているの?」
「実用性が高そうな順ですね。そこは見た目や入手した経路、もたらされた情報を元にリストを作っていきます。使用してみないと実際どんな効果なのかわからない物が多いですから、酷く漠然としているように聞こえるでしょうが、なにぶん判断する材料に乏しいので。そのため、明らかに優先度が低いだろうと思われる物はすぐに後回しにされ、こういう場所に置かれたままになったりするんですよ」
周囲を手振りで示しながら、こういう場所を示す。
巫咲はその言葉に納得したように呟く。
「明らかに優先度が低いのは何かなると、人間には扱えなさそうな”アイテム”にそりゃなるわね。この大剣なんて、その典型例だわ」
「そうですね。それに、この大剣の場合は、巨人が使っていたため、どういう効果があるかはわかっています。わからないのは、我々人類が使用しようとした場合の、あの不思議な力の使い方ですね。まあ、もしわかった所で、元の持ち主の巨人のようには使えませんし、重機を使い、無理矢理使おうとするにしても、その効果なら、他で代替えが利くため、そこまでする必要性がありません。」
「不遇な扱いね……」
しみじみと呟く巫咲に苦笑いをしつつ、独特な見方を示したのは、最上館長だった。
「私はその不遇な扱いで恩恵を受けている立場ですよ。すっかりこの剣の美しさに魅せられてしまいました。気持ちが荒んだ時、ここに来て、この怪しい青の輝きを見つめていると、心が洗われます」
「そ、そうなの。それは良かったわね……」
たじろぎながら応じる巫咲に対し、マイペースに解説を進める信護は、淡々と言葉を続ける。
「今の所、解析が済んでも”アイテム”は量産や他への応用が出来ていません。オンリーワンの物です。使用方法や効果はわかっても、どう作られたのかがわかっていないですから」
「え?あ、うん。そうなのよ。私も今の所、どう作られたかは、わからないかなー」
「再現性が無い以上、ここに置かれたままなのはしょうがないのでしょうね……。ここの館長としては、複雑ですよ。ほっほっ」
皆が吊るされている大剣を見上げるが、どことなく寂し気に感じるのは気のせいだろうか。
それからは、同様の境遇にある”アイテム”を何点か紹介され、その後は一息を入れようとなり、ラウンジでティータイムとなった。
「需要と供給のバランスが取れていないんですよ。”アイテム”は便利な物です。皆が使いたがる物ですが、その恩恵に与れる者は限られています」
「生産したくても、未だに製造方法はがわからず、ミステリアスなのが”アイテム”の特徴ですからね。当博物館の職員の中にも、その謎に挑み、破れた者がいますよ」
「でも、安全面を考えると、生産出来るようになったらなったで大変よね」
3人いる場所は、職員専用のラウンジの中でも奥まった場所にあり、他に誰もいない。
そのため、多少大声でもトラブルになる恐れはなかった。
「ええ。この日本では、現在”アイテム”は原則国が管理しています。もし、”アイテム”を見つけ、手に入れても、国に届けるのが規則です。ですので、非合法な経路で入手した者、たまたま見つけたが、届出をしない者を除けば、この国で”アイテム”を表立って使える者は、公務員か、”アイテム”を使用してもいいという免許証を得た者、後は一部の医療機関や学術機関ですね。”準アイテム”になると、その幅は広がりますが」
「まあ、抜け道も結構ありますがね。時々、私共の博物館に、売買を持ち掛ける方がいますよ。非合法な所持者は結構いるんじゃないでしょうか」
「もっと規制緩和をと訴える人達がいるけど、その気持ちもわかるのよね。だって、便利だもの。兵器としか使いようがない”アイテム”は、規制されるべきとは思うけど、そうじゃないのも多いから」
現状の”アイテム”の扱いについての話に、いつしか移行していた。
それぞれ色々思う所がある表れではあった。
「お偉いさん達は色々な口実を作って、便利な”アイテム”を個人的に所有してるんだもの。中には非合法でもね。時々摘発されるけど、そんなニュースが舞い込む度に、真面目に法を守るなんて馬鹿みたいって、そりゃ思う人も出て来るわ」
「巫咲さんのご不満も最もです。私も公僕の一人として、腹立たしい限りですよ。こんな事のために、報告しているわけではないですから。でも、厳密な管理も、皆に配布も、それはそれで問題がありますしね」
それぞれ不満を言い合っているのが、現状の”アイテム”についての問題点だった。
”アイテム”は現在の所、規制されているが、いくつかの抜け道があり、持つ者持たざる者で、格差が生じていた。
自衛の意識は大戦から50年経った今でも、根強いままだ。
最近では大人しくなってきたとはいえ、大戦が終わった後でも、異界の存在との争いや、異界にまつわる事件は起こり、秩序に混乱をもたらしてきた。
大戦から今に至るまで、人の文明の利器よりも、”アイテム”の方が、異界の住人や怪異に役立つというのも背景にある。
また、異界の介入があった時、治安機関に連絡しても、対処に間に合わないというケースも多かった。
そんな時、役に立つのが人を超人に変えてくれる”アイテム”だったのだ。
そして、”アイテム”の中でも、生命に関わる物は、とりわけ人気があり、需要が多い。
凶器の類いでないのだから、所持を認めろという声や、出し惜しみしないでもっと活用しろという声は、絶える事はなかった。
もし、ひょんな事で”アイテム”を手に入れ、それが医療に使える類の物だとわかれば、届け出ず、隠匿するケースは多いだろうと想定される。
”準アイテム”が持たざる者へのフォローになっているが、やはり”アイテム”に比べて利便性は劣るため、代替えには成りきれていないのが現状だった。
丁度いい機会とばかりに、愚痴でもあり議論でもある言い合いをしている中、最上館長はポツリと呟く。
「”アイテム”を求める人々が多い中、この博物館の裏側で埃をかぶっている”アイテム”が多いのは、残念な現状ですねえ。もしかしたら皆が知らないだけで、思わぬ効果を秘めている可能性もゼロではないだけに、尚更です」
「……おっしゃりたい事はわかります。でも仕方ない話ですよ」
「う~ん。仕方ないで済ます気には、段々なれなくなってきたわね」
「え?今、何と言いましたか?」
信護が呆気に取られた顔を見せている。
本当に、予想外だったのだろう。
もしかしたら誘導されたのかもと思ったが、そういうわけでもなさそうだとわかり、ちょっとホッとする。
(手の平コロコロは癪だもんね)
巫咲の言葉の意味に遅ればせながら気付いた信護は、静止の言葉を掛ける。
「巫咲さん……。ここには休暇に来たんですよ。これでは休暇にならなくありませんか。せっかくそのために来たのに」
「あら、意外ね。てっきり、喜ぶものとばかり思ったけど」
「それこそ心外ですよ。巫咲さんには休む時はしっかり休んで欲しいと常々思っています。……つい先日の件では思わぬトラブルに遭遇してしまいましたからね。これでも反省しているんですよ」
先日の件とは、ヘンルーダにまつわる件だろう。
確かにあれは予期せぬ事態であり、大変だったのは事実だが、実を言うと、ワクワクしたのも事実だ。
自分の天敵に遭遇したのは、さすがに参ったけどねと心の中で呟く巫咲だったが。
行くと決めたのは自分だし、不慮の事故みたいなものなのだから、そんなに気にする必要はないのにとと思いつつも、その気遣いを嬉しく思う巫咲だった。
が、同時にしたたかな女を目指す巫咲はそんな事はおくびにも出さない。
「ふっふーん。なら、後で五段アイスでも奢ってもらおうかしらねえ」
「ええ。そのくらいなら、お安い御用ですよ」
「あと、これは特別に裏側まで見せてくれた事へのちょっとしたお礼というか、サービスよ」
「はあ……。まあ、巫咲さんさえ良ければ、私はこれ以上口は挟みませんが」
さすがに大層なものは要求できない理性くらいはある巫咲だった。
そんな二人の会話に困惑の色を隠せず、置いてきぼりだった最上館長だったが、ようやく口を挟めた。
「あの、どういう事でしょうか?」
その言葉に信護と巫咲は顔を見合わせ、同時に振り向いた。
「「お礼かつ、サービスです」」
見事にハモリながらの答えだった。
読んで下さりありがとうございました。




