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仕事の成果

信護は巫咲と共に朝のお茶を飲みながら、どう課長に言われたことを切り出そうか頭を悩ましていた。

いくら考えても妙案が浮かばず、困り果てていたのである。

そんな信護を不審に思い、巫咲は声をかける。


「何だか今日は朝から暗いね。どうしたの?」

「え!ああ、そう見えますか……」

「私に出来る事があったら言ってね。私達、友達でもあるでしょ」


巫咲の言葉に事実故のダメージを受けながら、確かにあなたなら出来るんだけどねと心の中で呟く。

信護はそろそろ覚悟を決めて切り出さないといけないと決心を固めつつあった。

これで当分口を利いてもらえないかもと諦観しながらも、職務を果たそうと口を開こうとした矢先、巫咲が先に口を開いた。


「あ、そうだ。冬崎くんに知らせたいことがあったんだ。後を付いて来てくれる?」

「あ、はい」


慌ただし気に立ち上がりながら席を後にする巫咲を信護は追いかける。

二人が辿り着けた部屋は、地下にあった。

そこは、神社に見合わないような大きな金属の扉があり、本人認証が求められるセキュリティ対策がなされていた。

また、"アイテム"と思わしきものが近くに見受けられ、それもセキュリティの役割を果たしているようだ。


巫咲は鼻歌交じりにセキュリティを解除していき、中に入っていった。

信護も慌ててコードを入力し、後に続いた。

信護はもしかしたらと期待しながら、巫咲に声をかける。


「は、春野さん。もしかして……」

「ふふふ。冬崎くんはきっとまた私の担当だと思ってね。それを祝してあなたが喜びそうな事を頑張って用意したのよ」


巫咲は自信たっぷりにそう言い、信護を見やる

その姿に感動さえ覚えた信護だが、内心は不安も抱いていた。


(大丈夫かな?俺が期待する内容だったらいいんだが……。春野さんは斜め上の発想をする事があるからなあ)


信護が期待半分、不安半分でいると、巫咲は遂に目的の物の前に立った。

それは木箱であり、巫咲はその封を解き、中にあるものを取り出した。

それは、見た目で言うなら剣と鏡だった。

剣は西洋の剣でロングソードと呼ばれる剣とそっくりだった。

ただ、柄の部分に不思議な文様が刻まれている。

一方、鏡は鏡面が鈍い輝きを放ち、縁の部分は申し訳程度に装飾されているが、取り立てて特筆するものはない。一点を除いて。

その一点とは、鏡面のある一画が黒い靄がかかった様になっている事だ。

いくら磨いても落ちる事はない。

そんな剣と鏡だったが、信護には見覚えがあった。


「こ、これって……。あの不死王を倒した時に出現したという"アイテム"じゃあないですか!」

「ふっふっふっ~。よく分かったわね~。お姉さん、花マルをあげちゃいます♪」


不死王。

異界の侵攻を受け、異界の住人と戦った中で、中期における最大の激戦だったという不死兵達の王。

見た目は骸骨がローブをまとっている姿だったといわれている。

不死兵とは、骸骨が武装した出で立ちだったり、幽体と呼称される幽霊のような実体のない飛翔体をいう。

それらの怪物を率いていた故に不死王といつしか言われるようになった。


いくら銃で粉砕しても骸骨の兵士は死なず、すぐに復活した。

ある箇所さえ砕けば機能停止する事が判明するまでは、その不気味な見た目と相まって、兵士達を恐怖させ、疲弊し、消耗をさせる恐るべき敵だった。

対処法が判明しても、その急所は小さく、当てる事に難儀し、消耗させられる相手として今でもやっかいな相手と見なされている。

幽霊のような存在は実態がない。

いくら撃っても斬っても動きは止まらないのだ。

ただ、幽霊の方も実体がない分、それだけでは物理的な脅威ではなかった。

だが、兵士達の精神を乱し、いずれは発狂させかねないやっかいな特性も有していた。

また、心が弱り切った兵士に乗り移り、その兵士の身体で暴れまわったともいわれている。


そして、不死王はそれらの怪物以上に強かった。

骸骨兵士の不死性はもちろん有していたが、それだけでなく、魔法と呼ばれている不思議な力を操る能力を有していたのである。

突如、前触れもなくバタバタと死んでいく兵士達。

火炎放射器を持っていないにもかかわらず、辺り一面を瞬時に火の海にする力。

こちらの銃撃や大砲、果てはミサイルの直撃を受けたにも関らず、健在だった。

そんな不死王の軍勢と軍は戦い、何度もぶつかってはおびただしい犠牲者を出し、敗走するを繰り返した。

その犠牲者は襲撃された民間人を含めて最終的には十数万人に膨れ上がった。

だが、そんな絶望的な戦いもある戦いで終わりを告げる。

詳細は特級の機密事項とされ、極秘にされているが、見事不死王を打ち破ったのである。

そして、その不死王はある"アイテム"を落とした。

それがこの剣と鏡だったのである。


「春野さん。期待していいんですね。この"アイテム"を解明したと!!」

「うん。まあ半分は」

「半分!?ど、どういう意味ですかそれ」


案の定、期待していた答えと幾分違う事に焦りながらも、巫咲の言葉に耳を傾ける。


「うん。剣の方は解き明かしたのよ。使い方とその効果を。でもね、鏡はまだなのよ。いい所までいってる手ごたえはあるんだけどね

「ああ、半分ってそういう意味なんですか。いやいや、半分だけでも大手柄ですよ。不死王が落とした"アイテム"には昔から関心が高かったんです。その片割れの秘密を解き明かすなんてやっぱり凄いなあ」


信護が素直に感心していると、巫咲は眩しそうな表情で信護を見ており、信護もそれに気が付いた。


「?どうしたんです、春野さん?俺、何か変な事言いました?」

「……いいえ。信護くんはずっとそのままでいてね」

「??はあ?」


信護は、釈然としないまま頷くと、巫咲は説明を続ける。


「知っての通り、この剣はこのままじゃあ何も斬れないわ。でもね、この柄にある紋様をこういう手順でなぞっていくの。その際他の事に意識を向けてちゃ駄目よ」


巫咲は紋様をなぞっていたかと思うといったん手を放し、別の紋様をなぞる。

すると、剣身が黄金色の光を帯び始める。


「この手順を少しでも間違えると駄目だかんね。……よし。これで完成よ!」


巫咲が完成と宣言すると、刀身の部分が一際光り輝く黄金色の剣が出来上がった。

信護はその黄金色の輝きに目を奪われてしまっていた。


「綺麗だ……。春野さん。この剣はこうなったらどんな効果があるんですか?」

「そうね。口で説明するよりも、行動で示した方が分かりやすいか。よし。冬崎くん、腕を出して」

「はい?」


途端、不吉なものを感じた信護は思わず聞き返す。

すると、巫咲は再度腕を出すように言うのだった。


「どうしたの、冬崎くん?実行できないじゃない」

「あの、着かぬ事をお聞きしますが、ひょっとして、その剣で俺の腕を……?」

「そうよ。大丈夫。怪我はしないわ」

「いやいやいや、だ、駄目ですよ、人体実験なんて。ていうか、斬られても大丈夫なら、何の役に立つんですか?!」

「それを説明するのに腕を斬ろうとしたのに……。いいわ。冬崎くんにはハードルが高かったようね。大丈夫。分かってる。いつだって最先端を走る人は孤独だってことを知ってるもの。じゃあ、はい冬崎くん。あなたが私の腕を斬って」

「は、はあ?」


春野は勝手な独演をしたかと思うと、今度は自分に剣を渡し、腕を差し出した。

その行動に信護は目を丸くする。


「ひょっとして、俺に春野さんの腕を斬れと?」

「そうよ。見て分からない?」

「だーかーらー。こういうのやめましょうよう」

「大丈夫だって。それとも冬崎くんは私を信じられないの?」


潤んだ目で見上げてくる姿に心が動きかけるが、万が一があってはいけないと自制する。


「と、とにかくこんな事は認められません。万が一があったら取り返しがつかないんですから」

「大丈夫だって。だってもう試したもの。だから言ってるの。さすがの私もぶっつけ本番ではやらないわよ。……じゃあこうしましょう。ちょっとだけの切り傷でいいから。それでも実証できるわ。そのぐらいならいいでしょ。私は危険には臆さないけど、痛いのが好きなわけじゃない事ぐらい知ってるでしょ。さすがにこのぐらいは、私の助手でもあるんだからやって頂戴。」


巫咲が頑固モードに入った事を確認すると、これはもう収まらないなと思い、信護はそのくらいならと覚悟を決める。

確かに巫咲は本当に危険な事には慎重に期するタイプだという事を思い出したのだ。


「分かりました……。僕も覚悟が決まりました。では、ちょっとだけの切り傷だけですよ」

「ええ。さあ、来なさい!」


自信満々、堂々と告げる巫咲の腕を見やり、力加減を慎重に期しながらついに信護は剣を振るった。

と、その時、巫咲の腕が上に跳ね上がったかと思うと、剣の刀身は巫咲の右腕を綺麗に断ち切った軌道を見せたのである。


「え?!?」

「ぎゃあああああああああああああああああ!!」


巫咲は右腕を抑えながら絶叫し、のたうち回った。

信護は呆然と一瞬なったが、巫咲の絶叫で瞬時に我に返り、慌てて巫咲に駆け寄る。


「だ、大丈夫ですかああああ!!ああ、きゅ、救急車を。い、いや、課長に連絡して大至急回復薬を!あ、いやいや、確か居間の戸棚の中にあったような……」

「だ、大丈夫、よ。よく見て。私の腕を」


信護は思わず携帯電話を取り出したが、巫咲はそんな信護に大丈夫だと自分の腕を指し示す。

信護はその腕を反射的に目で追いかけると、思わず目を見張り、携帯電話を落とす。

確かに右腕を剣身が通過し、切断の軌跡をしてたにも関らず、巫咲の右腕が健在だったのである。


「え?え?どういうことですか、これ……?」

「つまりね。はあっ、はあっ。こういう事よ」


巫咲は息を整えながら立ち上がり、大声で宣告する。


「じゃじゃーん。この剣はね、実態以外を斬る神秘の剣だったというわけよ。どう?大発見でしょ」


巫咲は嬉し気に語るのを見ながら、ホッとしたと同時に、今日の昼食はお茶漬けだけにしてやると心に誓った信護だった。


読んで下さりありがとうございました。

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