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異界の植物

「その様子では、解明まで時間がかからなそうですね。でも、何でまた今回はそんなに早いんですか?その調子が当たり前になれば、私達は大助かりなんですが」


信護の素朴な疑問にして、普段の態度に物申す発言に、巫咲は苦笑いを浮かべる。

一応、自覚はある事はあるのだ。


「どうも私、植物との親和性が高いみたいなの。だから、いつも以上に"声"を拾いやすいんだ」


巫咲にとって、前から気が付いていた事でもあるため、返事は明瞭だった。

その言葉に、信護は不思議な気持ちに駆られる。


「植物に愛されているのでしょうかね。……そういえば、植物には独自のネットワークがあり、人にはわからない形で、意思疎通を他の植物と交わしたり、外敵の天敵を呼んだりしているそうですよ」

「へー。頭いいのかしら」

「人間のような脳はありませんがね……。何にしろ、人には知覚が難しいため、気付かれないだけで、実は種の繁栄のために、様々な生存戦略をとっているわけです」


巫咲は話を聞いている内に、信護には何か言いたい事があるのを察した。


「して、その心は?」

「今話したのは、私達の世界の植物についてです。では、異界の植物はどうなのかと、ふと思ったんです」


異界の植物という言葉に、巫咲はパッとすぐ思い付いたのは、とても攻撃的な植物だった。


「異界の植物?あれね。森の中を徘徊し、小型のものから大型の動物、果ては、人間さえ強靭な蔓を伸ばして捕らえ、植物にあるまじき牙を持って捕食する攻性植物……」

「いえ、その凶悪な植物の事を言っているわけではありません。まあ、あれも異界の植物の一つには違いませんが。……本当に植物なんですかね、あれ」

「さあ?そうじゃないの。たぶん。定義がどうのという話は面倒だから、やらないわよ」


巫咲は釘を刺すが、信護としても同感なため、反論する事はなかった。

代わりに、本来の言いたい事を口にする。


「異界の植物達にも独自のネットワークがあり、それぞれ繁栄のための生存戦略があるのだと思います。もしかしたら、この神秘の果実もその一つかもしれません」

「う~ん。でもこれ、栽培がとっても難しいらしいわよ。分析にかけても未知の部分が多く、未だに育成に成功したという話は聞かないわ。その果実自体には、繁殖の機能がないんじゃないかと言われているぐらいなの。種っぽいのはあるのにね」

「その種っぽいのは硬くて、食べてる内に、いつの間にか、飲み込んでしまうかもしれない大きさと聞きます。それが種子でないなら、なんのためにあるのか不思議ですね」


普段意識していない事を改めて考えてみると、気が付く事がある。


「そもそもこの果実って、モンスターが落とす以外で、その存在を確認された事がないって知ってる?」

「ええ。どこが生育環境なのか、まるで謎という話ですね。"アイテム"の中では比較的身近でありながら、謎が多い事でも知られています」


資料に書いてあった文章を、そのまま口にする。


「そう。だから、栽培にチャレンジしては、挫折を繰り返す要因になってるの。でも、あまりにもうまくいかないし、謎だらけなものだから、そもそも神秘の果実は、植物ではないのではないかと主張する学者がいるぐらいよ」

「異界には、未だに未知の領域があり過ぎますね……。人類が出入り出来る範囲でも、先程口にされた捕食植物程ではありませんが、珍妙な植物はいくつもあります。二対の枝だか幹だかを足にして、二足歩行する植物に、毒や状態異常を引き起こす胞子を噴出する巨大なキノコ状の怪物……」

「同時に、美しい花や草木も存在する。決して恐ろしいだけではないわ。今は玉手箱のような状態が続いているのよ」


玉手箱。開けてみなければ何が出てくるかわからない状態。

異界の侵攻を受けてから、50年ばかり経ても失地回復はならず、未だにわからない事だらけだ。

未だに黎明期は続いているのかもしれない。


「異界には、我々の世界とは異なる常識、異なる法則があるのだと思います。それは植物も同じで、私達の思いもよらない形で、独自の生存戦略を取っているのかもしれませんね」


信護はそう言いながら、ふとある考えが漠然と浮かぶ。


(うん……?いや、しかし……)


だが、それがまとまる前に、巫咲の透き通るような声が届く。

不思議と脳へ、柔らかく響いてくるから不思議だ。


「毒キノコもそうだけど、この実を初めて食べた人って凄いわね。尊敬しちゃう。しかも、いい食べっぷりだったそうじゃないの」

「果実の恩恵を受けるには、果実全てを飲み込む必要があるそうです。少しでも残したら駄目だとか。だから、初めて恩恵を受けた人は、硬い実ごと飲み込む勢いで食べ尽くしたのでしょう。結果、その得た力で窮地に一生を得たらしいので、その時は、かなりの困難に直面していて、必死だったと推察出来ます」

「という事は、普通は飲み込まない種……らしき物体を取り込むという変わった行為の大勝利ねえ。私も何かあったらそうしようかしら」

「絶対に止めて下さい!死んでも止めて下さいね!」

「じ、冗談よ……。だいたい、死んだら何も食べたり出来ないじゃないの……」


ぶつぶつ愚痴る巫咲だが、次の言葉でコロッと機嫌を直す。

信護は巫咲が拗ねると面倒な事を、嫌という程知っているため、彼にとっての生存戦略を選択する。


「巫咲さん。今日の夕飯はオムライスにする予定なんですが、いかがですか?」

「!!……そこに、餃子は付くのかしら?」

「はい。巫咲さんの好きな店の冷凍餃子を買っておきました」

「信護くん、素敵!何だか輝いて見えるわ」

「ははっ。その言葉、別のタイミングで聞きたかった」


機嫌を直した巫咲にホッとしながらも、無邪気に喜ぶ姿をこっそり愛でる信護だった。

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