ジャンプスケアな彼女
僕の名前は阿久紫苑。映画研究部所属の高校一年生だ。好きな映画のジャンルはアクション映画。僕自身はそんなに運動が得意ではない分、映画の中でカッコよく戦ったりするヒーローに子供の頃から憧れていた。そしてその反面、ものすごく苦手なジャンルもあって、それは…。
「おはよう、紫苑君」
唐突に耳元に声をかけられて反射的にそちらを見ると、視界いっぱいに女の子の顔が飛び込んできた。
「ギャー!」
真っ黒な髪を前に垂らし、髪の隙間から目が覗くという…某ホラー映画の貞○そのもの顔を間近で見せられて、僕は情けなくも叫び声を上げて飛び退いた。
「…いつまで経っても慣れないね」
「じゃあ普通に遠くから話しかけてよ!」
苦手なジャンル…ホラー映画。幼い頃から彼女…幼馴染の堀亜子に驚かされ続けて来た事とは、関係無いと思いたい。
「大きい声出すの苦手…紫苑君はいつも凄いよね」
「僕も出したくて出してるんじゃないんだけど…」
通学路を2人並んで歩く。ここで適切な距離を保って隣を歩いてくれるならいいのだけど、彼女の定位置は僕の右斜めすぐ後ろになる。あんまりにもピッタリくっついて歩いてくるせいで、幽霊に取り憑かれてると本気で勘違いされた事もあるくらいだ。
「この距離感もやめようよ…もう高校生なんだしさ」
「目立つのは嫌…」
(目立ってんだよなぁ…)
亜子は子供の頃から引っ込み思案で、常に誰かの影に隠れているような子だった。基本的には家族の後ろに隠れるのだけど、僕が居る時は僕の後ろに隠れたがるのだ。頼りにされてるといえば聞こえがいいのだけど、彼女のビジュアルですぐ近くに居られるのは正直に言って…。
「ねぇ」
「ギャー!」
急に目の前に顔を近づけてられて、僕はまた叫び声を上げる。
「なんか今日はボーッとしてる?」
「だから普通に声掛けてってば!」
(正直言って心臓に悪い。…色んな意味で)
その後下駄箱でも一回驚かされながらもようやく教室までたどり着いた。なんで僕は毎日こんなに疲れる登校をしてるのだろう?
「おはようー。今日も叫んでたなぁ」
自分の机に近寄ると、すぐ前にから声を掛けられる。
「だから…好きで叫んでる訳じゃない」
江角風太。僕と同じく映画研究部に所属している高校からの友達だ。
「通学路でも二回叫んでたろ?あれで思い出したんだけど中学の頃話題になってたんだよな、どこからともなく叫び声が聞こえる事があるって」
「…風太の中学って隣町でしょ?そこまで届いてたの?」
「えーと…こっちに近いとこから通ってた奴かな?俺はデマだって思ってた。でもまさか本人と出会うなんて思わなかった」
まさか隣町でもそんな噂になっているとは…。僕の叫び声は近所ではもはや風物詩。たまに新人の警察が駆け付けたりするけれど、大抵は僕の声を覚えていて軽い注意をするくらいに馴染んでしまっている。何もかもあの距離感がおかしい幼馴染が悪いのだけど…当の本人は自分の席で友人達と楽しくおしゃべりをしていた。
(…実はもう引っ込み思案治ってない?)
確かに小学生までは僕ぐらいしか友達が居なかったように思えたけど、中学になってから僕以外の女子の友達が出来ていた。だというのに、登下校は頑なに僕としようとするし…何を考えてるのか分からない。
「あ!そういえばあの新しい映画の告知見た?」
「見た見た。あの宇宙を舞台にした奴でしょ?主人公は銃が得意だけど剣での戦いも見てみたいよね」
風太はSF映画が好きなのであのタイトルは当然チェックしていたみたいだ、かなりアクションにもこだわった作品なので僕も期待している。始業までのわずかな時間、僕と風太はその映画の話で盛り上がった。亜子の事については、忘却の彼方のに消えていった。
ほんとは4コマ漫画を描きたかった。絵心がないので挫折した。