夏芽先生
この日は何故か、二組と三組の合同集会が行われた。多目的室に移動させられ、並び順など関係無く親しい者同士で床に座って教師達を待っていた。
私は凛都と前の方で待機し、近くには透花と姫月の姿もあった。千歳くんの事も探したけど見当たらず、気まずい不安は拭えた。
「何の話だろうねー」
「さぁ……?この二クラスってのが気になる」
「一組と四組はホールで集会やるらしいよ」
「そうなんだ」
凛都は情報が早いな。
「美人多いからじゃない?」
「凛都が居るしね」
「みーちゃんも。恵海くんとか姫月ちゃんとか、偏ってるから」
「確かに……」
一組と四組にもそれなりに可愛い子はいるが性格がちょっとあれなので関わらないようにしている。それに、容姿で目立っているのは私と凛都くらいだから組み分けがバラけたのかも知れない。
「正野とか来ないよね?」
「あれはあっちに行ったって」
正野を"あれ”呼ばわりする凛都が頼もしく思える。注意されたあの日以来、凛都は正野を教師と思っていないらしい。
ザワザワとした空気の中、静かに室内に入ってきたのは担任の夏芽先生と英語教師の蘇芳先生だった。
「朝から悪いな。先に周知事項がある」
蘇芳先生が話し出し、最近遅刻や無断欠席が多い事への注意だった。私も透花とサボった事は悪いと思っているけども。
「──で。本題だ」
急に声のトーンが変わり、蘇芳先生は生徒達を見渡した。
「男同士の恋愛は違法か?」
空気が重くなったのを感じた。恋愛禁止という校則は無い。
生徒達は何の話だと言わんばかりの顔で先生の次の言葉を待っている。
「同性同士は気持ち悪いか?あってはいけないことか?」
「当たり前じゃないですか!そんなの、風紀の乱れだ!」
そう断言したのは三組のガリ勉くん。休み時間も勉強していていつも透花と成績を競っているから密かに有名だ。
「異性の恋愛は風紀の乱れじゃないのか?」
「不純異性交遊又は不健全性的行為、性的逸脱行為に該当しないならば恋愛はしても良いとは思います。けれど、責任も取れないのに淫らに交じわうのは如何なものかと」
「確かにな。若い内に子ども作って責任取れずに自殺した奴もいる。ただ好きだからと言ってセックスをするのは自滅行為だ。避妊をしてるとは言え、気の緩みが望まれない子を宿す事になる」
なんかグサグサきた。まるで私と透花の関係を指摘しているかのようだ。
「だが、男同士のセックスなら子どもは出来ないし、責任を負う必要も無い。それでも、してはいけない事だと思うか?」
「……それは……でも……端から見たら気持ち悪いです」
ガリ勉くんの意見に頷く生徒もちらほら。所詮、そんなものはファンタジーだ。漫画の世界で認められるもの。実際には目に触れさせたくない現象と捉えられてしまう。
「──そうか。まぁ、当然の意見だな」
そう呟くと蘇芳先生は徐に夏芽先生に近付いた。
「お前らの常識、覆してやる」
ニヤっと不敵な笑みを浮かべた直後、何の躊躇いも無く蘇芳先生は夏芽先生に口付けした。夏芽先生も嫌がる事無く受け止めている。目の前で行われた行為に生徒達は釘付けだ。先程まで気持ち悪いと豪語していたガリ勉くんも魅入っている。
先生達は何度か口付けを交わし、どうだと言わんばかりの表情を向けた。
「この先も見せてやろうか?」
呆然としていた生徒達はハッと我に返り、ぎこちない様子で発言を迷っていた。
この先ってなに……?セックスまで見せてくれるの?
「誰も何も言わないって事は、やってもいいんだな?」
「先生達って付き合ってんの?」
不意に発言したのは透花だ。まぁ、その質問は皆が抱いたものだろうから聞いてくれてありがとうみたいな顔をしている子もいる。
「付き合って…………たのは学生の頃だ。今は友人?」
「同僚です」
夏芽先生は冷たく言い放った。
学生時代って同級生だったのか。同じ高校の教師になるなんてすごいな。
「好きでも無い相手とキス出来る位の仲だったの?」
透花が容赦なく質問する。
「おれは今でも好きだけど。大人になると色々面倒だからな。周りの目とかあるし」
「未成年だと世間体を気にしなくても良いから、同性愛はしてもいいと?」
「まぁ、そういう事だな。おれと夏芽先生のキス見て、お前らどう思った?感想が無いならセックスするぞ?」
「蘇芳先生。男同士でもセックスって出来るんですか?」
挙手をしながら二組の女子が聞いた。
「やろうと思えば。今はほら…………えっと…………」
「ビーエル」
「そうそれ!そういう漫画も女子は好きなんだろ?」
「蘇芳先生。その言い方には語弊があります」
夏芽先生は常に冷静でいる。
「そういう趣向を好む男子もいるんですよ。差別的な発言は控えて頂きたいです」
「……すみません……」
「男同士のセックスはお尻を使います。女性と違って柔らかい身体ではありませんので少々キツいかも知れませんが、慣れれば大丈夫です。今はジェンダーレスが主流に乗ってきているので偏見や差別はこれを機に霧散すれば良いと思いますね。人それぞれ価値観や思考は異なりますが、互いの意見を尊重しながら共存すべきです。スクールカーストなどという巫山戯たランク付けも撤廃されるべきなんですよ。大人のルールも知らないクセにあいつはブスだとか陰キャだとか他人が勝手に評価を下げないで貰いたい。解りますか?言われた方は何倍も傷付くんですよ。一生癒されない傷になるかも知れない。親から頂いた顔をブスだなんて一刀両断にする奴らはくたばればいい。そうでしょう?みんなもそうは思いませんか?大体……」
「ストップ!!」
一体どこまで話すんだと思っていると蘇芳先生が止めてくれた。こういう長い話をし出す時の夏芽先生はとても怒っている。生徒の不満を一緒に抱えていたのかも知れない。それにしても普段は沈着冷静で受け答えもサラッとしているのに、こういう状態になると歯止めが効かないんだろう。
「……なにか?」
「いやいや!話しすぎ。あと自分の解釈与えすぎ」
「…………失礼しました。取り乱しました」
「いや……そんなに鬱憤が溜まっているとは知らずにすまん……」
「別に。私の不満など生徒達の抱える不満に比べたらちっぽけなものでしょう」
「同等じゃないのか……?」
「そうですか。なら、そう受け取って頂いていいです」
「センシティブな内容をスラスラと良く言えるな。すげぇよ」
「濁した説明では分からないでしょう?口頭で言っても理解に及ばないかも知れませんが……。この際、実際にやって見せますか?その方が生徒達もどういうものなのか明らかになると思います」
「流れで何言ってんだ?その口塞ぐぞ」
「上等です。先程のはなんですか?あれが接吻ですか?大人になったらもっと上達するものですよ、普通は」
「……バカにしてんの?」
「煽っています。余りにも下手くそだったので」
「泣かされたいのか」
「出来るものなら」
イラッとした蘇芳先生は夏芽先生の長い髪を掴み、そのまま引き寄せまた口付けした。今度は濃厚なキスだと見ている私達も分かった。ほんとにさっきのはなんだったんだ……?
いや、それよりも生徒達の前でイチャつき始める教師は放置しておいていいのか?このまま先もやる様なら流石に悪影響なのでは……?
蘇芳先生がキスをしたまま夏芽先生の服に手を掛けようとした時、ガラッとものすごい勢いでドアが開き、ものすごい形相をした正野が入ってきた。
「お前らは教師としての自覚が無いのか!」
室内全体に響き渡る怒声を放ち、さぁこれからやるぞという雰囲気だった蘇芳先生と夏芽先生は冷めた目で正野を一瞥した。
「ごめーん。夏芽先生、蘇芳先生。オレらも叱られちゃった」
正野の後ろから柊先生と椎名先生が静かに現れた。
「もう少しだったのになぁ」
「ナイスタイミングです」
「お前、こうなる事を見越して……?」
「半分は」
夏芽先生は変わらぬ口調で答えを濁す。
「生徒達の前で何をやってるんだ!トラウマになったらどうする!」
「そしたらオレが癒すから、気分悪くなった子は保健室来てねー」
柊先生が生徒達に手を振りながら正野に応える。
「生徒を唆すのはやめて頂きたい。柊先生」
「……そんな事する訳ないじゃんね」
「あんたを好きな生徒がいると聞いたが?」
「そりゃ居ますよ。オレ、モテるし」
あんたと違って。と余計な一言をわざと付け足し、柊先生は正野の反応を窺っている。
「それにしてもだ!なんなんだこの授業は!」
「特別授業です」
何の迷いもなく夏芽先生が答えた。
「大人の私達が手本にならないと子どもには伝わない事もあるんです」
「さも当然だと言わんばかりの顔で何が手本だ!生徒達の前で卑しい行為は厳罰だ!」
「そんなに怒ってばっかで疲れません?」
「誰の所為だと……!」
「正野先生が一番怖いですよー」
先生達はまるで正野を手のひらで転がすみたいに流している。私達には出来ない言動だ。
「……いいから、早く解散しなさい!」
半ば押し負ける様に正野が促し、生徒達は各クラスへ戻るよう言われた。
「なかなかだったね」
教室へ戻る中、透花が話し掛けてきた。
「先生達の対応が素晴らしいとしか感想が…… 」
「まぁ、正野に対してナイスな応えだったな」
「……ねぇ、透花。夏芽先生なら理解してくれるんじゃない?」
「…………保留。ちょっと考えさせて」
「分かった……」
あまり好きじゃないのかな……。
「──姫月」
一人で前を行く姫月に気付き、呼んだ。姫月はビクッと肩を揺らしながら振り返る。
「……海凪」
「身体の具合、どう?」
「……痣は消えてきてるけど……。夢にみるのよ……」
「……そっか」
「透花がね……色々……してくれて…… 」
「うん」
「海凪、透花と付き合い始めたのね」
「……聞いたの?」
「あたしには教えてくれたわ」
「内密にしとこうって透花が言ったから」
「その方が賢明じゃないかしら。また酷い目にあうのは嫌でしょ?」
「そうね……」
慣れてはいるけどね。同い年のやるいじめなんてたかが知れてる。痛みを感じるのは辛いけど、すぐに終わるから耐えればいい話。
「…………なぁ……さっきのってさ……」
「やっぱりそうだよな……」
どこからか呟きが聞こえ、視線で方向を探る。私達の斜め前方で姫月を見ながらコソコソと話している男子達がいた。三組の子らじゃないな。他のクラスの子か。
「キモイよな、ホモってやつだろ」
「男同士でヤルとか意味不明だし」
ニヤニヤしながら異物を啄くみたいに彼らはぼやく。
「……気にしてないよ」
「姫月……」
「言われるのは慣れっこだから。小さい頃から自分は皆と違うって思ってたの。女の子みたいに可愛くなりたいのに身体は男の子だし、好きになるのも男の子……。変だって虐められても仕方ないって諦めて生きてきた。だから、言わせておけばいいんだよ」
それは強がりでも誤魔化しでもなく、姫月の本心なのだと解った。辛い経験を幼い頃から重ねているなら今更何を言われようが構わない。構っている時間が勿体ないよね。
「……姫月。一つ、実験的な事しない?」
「えっ……怖いこと?」
「違うよ。偏見とかを取っ払う方法」
「どうやるの?」
「来て」
そう言って姫月の手を引き、保健室へとやってきた。中には保健医と夏芽先生がいて目の保養になった。
「……すみません。お邪魔しましたか……?」
二人が話していただけの光景なのに邪魔をしてはいけない雰囲気だと悟り、私は戸惑ってしまった。
「……いえ。気になさらず」
「そうですか。じゃあ、ちょっとこの部屋借りて良いですか?」
「どうぞー」
柊先生は理由も聞かずに承諾してくれた。いちいち突っ込まれないのでほんとに助かる。
私は姫月を連れてベッドに行き、カーテンを閉めた。
「……海凪……?」
「姫月。制服脱いで」
「……えっ、なんで……?」
「取替えっこしよ」
「……取り替え?」
「そう。私の制服を姫月が着て、姫月の制服を私が着るの。それで今日一日過ごす」
「……それに何の意味が……」
「似合ってたら、気持ち悪いとかホモだとかあいつらも言わなくなると思うんだよね。姫月は絶対似合うと思うし、多分みんな惚れるよ」
「……そうかしら……」
「嫌なら無理にとは言わない。でも、私は姫月の事悪く言う奴らがいるのは許せない。何も知らないくせに勝手な事ばっかり言って自分達はどうなんだって話よ」
「海凪……。でも、海凪はいいの……?私の制服なんて……」
「気にしないから平気だよ。私はちょっと香水付けちゃったから匂いあるかもだけど」
「その位大丈夫よ。ほんとは……女子の制服にしたかったんだ」
姫月は嬉しそうに微笑み、私に背を向けながら着替えた。私も姫月の制服の袖に腕を通す。少し大きいかもと思っていたけれど意外とピッタリでしっくりくる。スカートと違って足下も隠れるから動きやすい。下ろしていた金髪をポニーテールにしてみる。
「あら、海凪。とても素敵ね」
着替え終えた姫月が可愛らしく笑った。
私の制服を着た姫月はどこからどう見ても女子だった。スラッとした体型に膝上のスカートから映える長い脚、腰下まである長い髪とも相まってとても綺麗だった。
「ありがとう、姫月。サイズどう?」
「丁度って感じね。足下がすぅすぅする位」
「姫月、すごく似合ってるよ。綺麗だし可愛い」
「……ありがとう」
私が褒めると姫月ははにかみながらお礼を言った。
「全然違和感無いよね」
「……だけど、海凪……。スカート、短すぎやしないかしら」
「そう?姫月は足も綺麗だからすごく映えてるよ。モデルみたい」
「……そんなに褒められたら調子に乗るわ……」
「いいじゃん。好きなものに手伸ばして掴めたんだから、満喫しなきゃ」
「……そうね」
そのままカーテンを開け、先生達にお披露目した。
「めちゃくちゃ似合ってるじゃん!美男美女って感じ」
「海凪さん。御髪が少々乱れています。手直ししても?」
「はい。お願いします!」
何をやっているんだお前らは!って注意をせずに髪型を整えてくれる担任にはとても感謝だ。こんな優しい先生いないんじゃないかな。柊先生も褒めてくれるし、先生達には恵まれているのかも知れない。
「──痛くありませんか?」
「大丈夫です。ありがとうございます、夏芽先生」
手櫛だけど自分でやったのより髪が滑らかだ。さすが。
「今日一日それで過ごすの?」
「一種のデモです。先生達に感銘を受けたので」
「良いじゃん良いじゃん!やりたいことをやれるのって今しか出来ないしね。正野に何か言われたらオレらの名前出しな。提案されましたって」
「え、でも……」
「そうした方が正野先生も私達に矛先を向けるでしょう。生徒に嫌な思いはさせたくありませんから」
「……良いんですか?」
「こういう時こそ大人を利用するんだよ、若者よ」
心強い味方だ。こういう大人になりたいと思った。
「──では、教室に戻りましょうか」
「あ、オレも付き合っちゃお」
些か楽しんでいる様子の保健医もついてきて、私達は静かな廊下を歩いた。
もう他のクラスは授業をしている時間だ。次の授業はなんだったかな。
「姫月。また後で」
「うん」
姫月は柊先生と一緒に教室に入っていった。その直後どよめきが聞こえてきたが、一瞬で消えた。
そりゃあ、見惚れるよね。姫月は綺麗だし、可愛いし、私より制服が似合う。
「……わぁ!みーちゃん、男装!?すっごく似合ってるよー!」
室内に入るなり、凛都が褒めてくれた。他の生徒達も珍しそうな視線を向けている。
「ありがとう、凛都」
「なにそれ、コスプレ?吉原、そういう趣味あったの?」
男子達がからかうような言葉を放ってきた。
「私が提案しました。制服も、男女関係無く選択制にすればいいと思ったので」
夏芽先生が庇ってくれたのでほっとする。
「つーか、さっきのもなに?って感じなんですけど。夏芽先生、ゲイなの?」
「いけませんか?同性愛者は他人の許可が無いと付き合ってはならないのですか?」
「気持ち悪っ!男同士でラブとか有り得ねー」
「担任がゲイとか無いんですケド」
「差別的発言ですよ」
騒ぐ男子達を尻目に夏芽先生は平然と答えている。
「制服自由ってんなら私服で良くねー?」
「確かにー。制服だりぃよ」
「先生、うちのクラスだけ私服にしよーよー」
うちの男子達は夏芽先生を下に見ていると思う。何言っても怒らないし、表情も変えない。つまらない人なんだろうと見誤っているのだろう。
「したいならご自由に。注意されても私は構わないので」
「なんでそんな放任主義なの?おれらの事、生徒と思ってないんじゃね?」
「……ただの担任と生徒じゃないですか」
溜息混じりに夏芽先生は言葉を吐き出し、キリッと保っていた姿勢を崩す様に片足重心になり、腰に手を置いた。
「私が貴方達の担任になったのも、貴方達が私の生徒になったのも偶ですよ。望んで受けた訳じゃない。この教室の中でだけ成り立つ立場です。外に出たらお互い他人同士。ぶっちゃけ、貴方達が外で何をしようが警察にパクられようがどーでもいい。担任だからって面倒を見る気もサラサラない。私は貴方達の成績だけを評価し、一年だけ共に過ごす。取るに足らない存在なんですよ。だから、明日君達が私服で登校しようが私には関係の無い事ですし、正野先生に捕まっても助けはしません。その覚悟で望むのならどうぞご勝手に。責任の取り方も知らないクソガキが大人を舐めるのも大概にしなさい」
静かな声で静かに怒られて、誰も反論しなかった。男子達も夏芽先生の迫力に押し負けたのか、戸惑っている。
「白井くん」
「えっ……あ、はい……」
いきなり名指しされた男子はビクッとしながら返事をした。さっきから調子に乗って色々言ってた罰か。
「何故、同性愛は気持ち悪いと?」
「……そりゃあ……恋愛は男女で成り立つもんだからだろ」
「では、仮の話をしましょう。貴方は仲の良い友達とグループの連絡ツールを使っています。そこに、"あいつ、ゲイなんだって”という発言がされたらどうしますか?」
「えっ……えっと……ちゃんと聞き返す。それで肯定されたらゲイだっていう目で見ちゃう」
「暴露された子の気持ちは考えますか?」
「………えー……?わかんねー……」
「そんなもんですよ。人の価値観なんて。知らない内に誰にも言えない秘密を信じてた仲間に暴露されて、非難の目で見られる。その結果、暴露された子は自ら命を断ちます」
「……は?仮の話じゃねーの?」
「そうですよ」
「暴露された位で死ぬとか意味わかんねーし」
「……例えが悪かったですね。分かりやすい話にしましょう。その連絡ツールに、"あいつ、まだ母親の手握りながら寝てんだって”と書き込まれたとしましょう。一気にマザコンだってバラされたらどうですか?」
「はっ……?!なに言ってんだ!もうそんな事してねーよ!」
白井くんは慌てふためきながらまるで自分の事みたいに否定した。
「誰も貴方の事だなんて言ってないでしょう?」
「えっ……」
「外では反抗期面して家の中では"ママ”と呼んで甘えているだなんて男子高校生としては知られたくない秘密じゃないですか?」
「なっ……!誰に聞いたんだよ!」
「愛しのママから貴方が直接聞いたら良いんじゃないですか。私には包み隠さず話してくれましたよ」
「はぁ……!?ふざけんなよ……」
この後暫く、白井くんはマザコンとからかわれて立場を失う事になる。
生徒の秘密を知っていた夏芽先生に恐れを成したのか、この日を境に先生を見下す生徒は居なくなった。