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夢見る明日に天罰を。  作者: 淡月ゆきや
7/11

ダブルデート【後編】

「大変だ、海凪」

「どした……?」

「何故か注目される」



非常出口から出ると明るい陽射しに目が眩んだが、それ以上に周りからの視線がひしひしと伝わってきた。



「なんだろう……」

「あ、そうか。海凪がお姫様みたいだからだ」

「……ん?」



そういえば姫抱きされながら出てきたんだよな……。そりゃあ、見ちゃうよね。



「千歳くん、ごめんね……。下ろして貰えると……」

「もう平気なのか?」

「うん……。外に出たら大丈夫」

「良かった」



スっと下ろされ、よたついた私は千歳くんにまた支えられた。段々王子様みたいに思えてくる。



「歩ける?」

「……うん。ありがとう」



まだ注目はされていたけど気にせず、近くにあった休憩場所へ行き、休んだ。



「飲み物買ってくる」

「うん」



本当に素敵な人だなと感じる。私は千歳くんの優しさに甘えすぎていないだろうか。



「リンゴジュースで良かったか?」

「うん。甘いの飲みたかった」

「そうか」

「千歳くんは珈琲?」

「カフェモカだ」

「可愛い名前」

「味も可愛いよ」

「新しい表現だね」

「飲んでみる?」

「いいの?」

「どうぞ」



お言葉に甘えて頂く。苦味と甘みが程よいバランスになって飲みやすく後味もスッキリしていた。



「美味しい」

「良かった」

「……千歳くん。さっきはごめんね……。楽しみ奪うような事しちゃって……」

「気に病む事じゃない。オレも気付けなかった。嫌な思いさせて済まなかったな」

「違うよ……千歳くんは何も悪くないよ。ちゃんと言えなかった私の所為だから」



申し訳なさが溢れてきて気持ちが沈む。折角楽しい場所に来たのにやらかすなんて本当に馬鹿みたいだ。



「お化けが怖いって言うのは、霊感があるからとか?」

「えっ……いや、見たことないけど……。以前、テレビで怖いの見ちゃってそこから苦手になったんだ……」

「その影響は大きいな」

「すぐ夢に出てくるタイプだから余計怖くて……」

「添い寝しようか」

「……えっ」

「一緒に寝たら怖いのも安らぐと思うから」

「……優しいね」

「そうだよ」



千歳くんは謙遜しないタイプなんだな。


「──みーちゃーん!千歳くーん!」



お化け屋敷から出てきた凛都と虎太郎くんがルンルンでやってきた。あんな怖い所に行ったのに何故そんなルンルンなんだ……。



「みーちゃん、お化け大丈夫だった?」

「いや……リタイアしちゃって……」

「怖かったもんねー。凛都もたくさん驚いちゃった」

「そう……」

「こったんがゾンビと戦う所とか凄かったよ!」

「なんの話?」

「ゾンビが追いかけてきてね、こったんがえいってやったら更に脅かしてきたから戦ったんだよね」

「おう!凛都を守らなきゃと思ってな」

「かっこよかったよ、こったん」

「凛都も可愛かった」



ラブラブし出す二人に入る隙は無い。

お化け屋敷で何をしてきたんだ二人は。



「あ、そうだ!凛都、あれも乗りたくて」



指さす方向にあったのは空中ブランコ。空高くぐるぐると回っている。眺めは良さそうだが、あの高さはかなりのものだ。



「みーちゃん、乗る?」

「……ごめん。あれはヤバいやつだ」

「高さエグいもんねぇ。こったんは?」

「凛都となら何でも乗るぞ!」

「やたー!じゃあ、乗ってくるね!」

「行ってらっしゃい」



本当に子どもみたいに無邪気だなと楽しげに行く凛都を見ながら思う。虎太郎くんも流石だな。



「千歳くんも苦手?」

「あまり高いと酔うからな」

「しかもグルグル回るしね」

「ヤバいやつだ」



私に合わせてくれたのかもと思ったけど、千歳くんにも都合があったみたいで良かった。付き合わせてしまっては申し訳ないからな……。



「──済まない、海凪。電話してくる」

「うん」



携帯を操作しながら千歳くんは離れた。



「凛都達、見えるかなぁ」



結構な距離があるのではっきり捉えるのは難しい。でも凛都は可愛いからすぐ分かる。そう眺めていたら、ふと気配に気付いた。私を囲むように数人の青年達がニヤニヤしていた。



「一人?」

「一緒に回らない?」



大学生だろうか。まぁまぁなスタイルでルックスも程よい。遊び慣れてる感が凄く漂ってくる。



「……ごめんなさい。友達と来てるので」

「じゃあ、その友達も一緒にさ。奢るよ」

「いえ……ボーイフレンド……」



私が訂正し直す前に彼らの背後に千歳くんの姿が見えた。



「彼女になにか?」



千歳くんが睨むと彼らは表情を引き攣らせた。



「ちょっと声掛けただけ……」

「そうそう……!一人みたいだったから……」

「もしかして、彼氏?」



更に千歳くんが凄みを増して睨みを利かす。彼らは恐怖を悟ったのか慌てた様に逃げていった。



「何もされてない?」

「うん……。ありがとう」

「良かった」



安堵の表情を浮かべながら、千歳くんは私の前に座った。



「電話は大丈夫?」

「あぁ……。妹から、お土産よろしくって連絡」

「あ、お土産かぁ。私も買って行こっかな」



美味しそうなクッキーとか稀も喜びそうだな。



「そろそろ合流しておくか?」

「そうだね。そしたら、お昼にしよっか」

「丁度良い時間だな」



私達は話しながら凛都達の元へ向かった。

近くで見るとエグさは半端なかった。なんであんな高い所でブランコしなきゃならないんだと思う位、迫力が凄まじかった。



「あ、みーちゃん!千歳くん!」

「凛都」



頃合いも良かったらしく、凛都と虎太郎くんはすぐに出てきた。



「お疲れ様」

「めっちゃ楽しかったよー!景色も綺麗だったあ」

「良かったね」

「でね!こったんとも話してたんだけど、この後お昼にしよっかって」

「うちらも話してたとこだよ」

「じゃあ、食べよう!」



凛都は嬉しそうに私の腕に抱きつき、先程見つけたというお店を案内してくれた。千歳くんと虎太郎くんも気が合うのか、楽しそうに話している。良かった良かった。

凛都が行きたいと言ったお店はイタリアン系のレストランでオシャレな外観が外国を思わせ、店内も明るい雰囲気だった。私達は四人席の広い奥の部屋に通され、 寛ぐ事が出来た。



「どれも美味しそうだね」

「飲み放題もあるんだ」

「凛都、炭酸飲みたい。みーちゃんは?」

「紅茶かな」

「あ、飲み放題セットってあるよ」

「良いんじゃない?」

「こったんと千歳くんは?」

「一緒で」

「おれも!」



メニューも決まり、凛都が代表して頼んでくれた。私と凛都が奥の席になったのは多分外野から守る為。イケメンは行動すらもイケメンだから敵わない。



「この後、ショー見に行かない?」

「何のショーなの?」

「メイキュアレディのショーやるんだって!」



目をキラキラさせながら凛都が話し始めた。メイキュアレディは子ども向けの戦隊ものアニメで女の子が変身して悪と戦う内容だ。凛都から何度か聞いたことがある。



「こったんも最近見始めたんだよね」

「おぉ!キャラが可愛くてハマった」

「みーちゃんは見たことある?」

「まだ無いかな……」

「日曜日の朝にやってるから見てみてね」

「うん」

「ショーの時間って何時?」

「二時位じゃなかったかな」

「じゃあ、そろそろ行った方が良いな」



頼んだメニューも丁度来て、たっぷりと味わいながらお腹を満たした。

レストランから出た時には一時を過ぎたばかりでショーが行われる広場までは歩いていくのに多少時間が掛かった。



「ごめんね、焦らせちゃって」

「大丈夫大丈夫」



半ば早歩きで私達は広場へと着いた。既に席取りしているファミリーの姿もあり、早い者勝ちだと凛都が素早い動きで真ん中の二列目の席を陣取った。四人並んで座ると丁度良い長さだった。



「これだよ」



始まる時間まで凛都が携帯でメイキュアレディのホームページを出して教えてくれた。最近のアニメは絵がとても綺麗だ。衣装も細かく表現されているし、髪の質感や目の描き方まで見惚れてしまう程。子ども向けだとバカにしてはいけないな。


「男の子もいるの?」

「うん。時代に沿ったみたいで、女の子になりたい男の子が女の子に変身して悪と戦うんだよ」

「今はアニメもジェンダーレスか」

「凄いよねぇ」



凛都は感心の声を上げる。



「そろそろ始まるぞ」



虎太郎くんに促され、私達は舞台に向き直った。

少しして司会進行役のガイドさんが現れ、一通りの説明をしてくれた。コールアンドレスポンスに子ども達が元気に反応していく。その中に混じって凛都も大声で応援の声を向ける。

そして物語は進んでいき、悪役の黒い格好をした人達が暴れたい放題になり、ガイドさんが観客に促す。



「せーの!」



メイキュアレディー!と子ども達が呼ぶ。凛都も本気で叫んでいる。けれど一度や二度じゃ出てこないのが演出。



「もっと声出した方が良いのかなぁ」



いや、凛都は凄い叫んでる。隣にいるからものすごく分かる。それでも応えてくれないのは台本なのかアドリブなのか。ガイドさんも焦ってきたのか狼狽えていた。



「威勢のいい女がいるな」



率先して叫んでいた凛都を悪役の一人が舞台に連れ去った。



「早く出てこい!レディども!客がどうなっても良いのか!」



舞台裏に向かって悪役が叫ぶ。凛都はただ捕まっているだけだったので様子を見守っていた。



「──そんなに呼ばなくても聞こえてんだよ」



袖から出てきた紅いドレス衣装の女性が気怠そうに言い放った。

その瞬間、子ども達が沸き立つ。



「早く出てこないお前らが悪い!」

「……は?こっちは残業続きで頭痛いんだよ。せっかくの休みだったのに騒動起こしやがって」



めちゃくちゃ口の悪いヒロインだな。アニメもこんな感じだったっけ?



「戯言を!さっさとこの女を助けなさい!」

「めんどくさい」



え……これ大丈夫なやつなのかな……。

子ども達は真剣に見ている。凛都も何も言わない。こういう設定の話なのか。



「こちとら寝不足で身体鈍ってんだよ」

「あら、ルベル。昨日ジムに行ってなかったかしら?」



袖から蒼いドレスの女性と黄色のドレスを着飾った女性が現れ、また子ども達が歓声を上げた。



「バラすなよ、フラウ」

「良いなぁ、ルーちゃん。何処のジム?」

「カルラ、お前もキックボクシングやってんだろ」

「ルーちゃんより強いしねぇ」



蒼いドレスの女性、カルラと呼ばれた子は凛都に雰囲気が似ていた。まぁ、可愛いし。黄色ドレスの女性、フラウは麗しいというか妖艶というか魅惑的な雰囲気を放っている。



「さぁて。じゃあ、戦うとしますか!」

「やったれやったれ」



ルベルは本当にやる気無いんだな……。

フラウとカルラが軽やかなステップを踏みながら悪役達を倒していく。展開としてはお決まりだけど。

凛都も無事に助けられて席に戻ってきた。



「凄い良い経験しちゃったぁ」



とても喜んでいるから良しとしよう。



「なぁんだ。雑魚は弱っちぃね」

「こんなものよ、雑魚なんて」



倒された悪役達は舞台袖へと退場していき、彼女達が大いに観客達を沸かす。

そしてやっぱり最後は勝つのだと子ども達を安堵に導いた。



「ご鑑賞、ありがとうございましたー!それでは第二部までお待ち下さーい」



……お?

これはただのショーではないのか?

第二部ってなんだよ。



「次はラスボスと対決かなぁ」

「……ラスボス……?」

「うん。いつも最後の方にラスボスが出てきて彼女達が悪戦苦闘するの」

「……ねぇ、凛都。これ、普通にアニメやってるの?」

「うん。設定が今のご時世風なのが売りなんだって」

「残業とかジムとか言ってたけど……」

「ルベルちゃんはOLさんで、カルラちゃんは地下アイドルで、フラウはウェディングプランナーさんって設定なんだって」

「……随分と現代に寄せたね」

「子どもと一緒に見てる親もいるみたいだよ」

「すげぇな…… 」

「でね!あと二人いるんだけど」

「五人いるの?」

「そう!あとの二人は紫のヴィオレッタと翠のエメルって言うんだけど」

「大分濃い五人だね」

「まぁ、他の色に染まるような人間なら戦えないからねぇ」



その言葉にはグサッときた。なんというか、的を得ていると思う。



「エメルって子がジェンダーレス男子だよ」

「これ、やる人も男の人なのかな?」

「そこはあくまで設定だから関係ないと思うな」



そんな話をしていると第二部が始まる合図が鳴った。観客達は拍手で開始を喜ぶ。



「今回のラスボスはなんですか?」

「悪の根源、ストレスだよ」



そう話しながら出てきたのは先程凛都から説明された紫と翠の子だった。どちらも役の色の煌びやかなドレスを纏っており、ジェンダーレスの子も女の子にしか見えなかった。

……いや、役柄だから女の子がやっているのか。

一度ちゃんとアニメを見ないとダメだな。



「ボクには関係ないかな。ストレス溜まらないし 」

「そんなに巨悪なのですか?」

「当たり前だろ。じゃ無かったらあたしは寝不足にならない」



ルベルが加わり、不機嫌そうに呟いた。



「お仕事お疲れ様」

「……お前も社会に出たら分かるぞ」

「そうかな。でもボクは人の下に付くつもりないから、起業するんだけどね」

「経営者になるんですか?」

「うん。やりたい事やって稼いだ方が人生楽しいからさ」

「挫折しろ」



エメルって子は学生なのか。起業出来るという自信があるのが凄いな。ヴィオレッタって子は世間知らずな感じがする。



「今回はギャラリーもいるし、張り切っちゃうな」

「頑張ります」



やる気満々のエメルとヴィオレッタは出てきた悪役を見据えて意気込んだ。悪役は小柄な黒子みたいな感じで全くラスボス感がなかった。



「行きます」



最初にヴィオレッタが攻め、多彩な蹴り技を披露する。スタントマン宛らの動きに子ども達も声援を向ける。

隙を見てエメルも加勢する。

そしてフラウとカルラも登場し、一気に畳み掛けた。

攻撃力では勝っているのにラスボスはビクともしない。

また演出か……?



「なんなんだよ!さっさとくたばれよ!」



体力を消耗しながらエメルが叫ぶ。

みんな演技上手だなぁ。



「何も効いていない様に思います」

「こんなにアタックしてんのに?」

「ストレスが相手って厄介ねぇ……」

「メルちゃんでも勝てないなら、策ないよー……」



嘆く四人を他所にルベルは状況を見守っていた。



「倒れるまで攻撃を続けます」

「ヴィオレッタ!」



向かっていくヴィオレッタに対し、悪役が黒い霧の様な空気砲を放ち、反撃した。それをまともに受けたヴィオレッタは動きが止まり、俯く。



「……帰ります。もう無理です」

「弱気にならないでよ…」

「私が居なくても世界は平和です」

「ヴィオレッタ!」



やる気を奪われたヴィオレッタは意気消沈し、座り込んでしまった。



「──出来れば何もしないで帰りたかったんだけどな」



呟きながらルベルが前に出る。



「ルーちゃん……」

「お前らは下がってな」



黒子が放つ攻撃を受けながらルベルは近付いて行く。



「ストレスってさぁ、溜めすぎるとそれ以上のストレスって感じなくなるんだよ」



ガシッと悪役を捕らえると焔が包み込んだ。

これも演出なのかと感心する。CGとかマジックの類かも知れない。ショーの割に凝ってるなぁ。

悪役は跡形もなく塵と化し、ルベルは安堵の息を漏らした。子ども達もわっと歓声を上げ、ルベルに拍手を向けた。




「ルーちゃん素敵!」

「ヴィオレッタは?」

「……あ。元に戻ったみたい」



フラウに支えられながらヴィオレッタは正気に戻っていた。



「今回はルベルの一人勝ちかぁ」

「お前とは相性の悪い敵だったな」

「次は勝たないと報酬が……」



ガイドさんが促す中、五人はそれぞれ観客達に手を振りながら舞台袖へと退場していった。



「ちょっと御手洗い行ってくる」

「はぁい」



混まない内に済ませたかった。

手洗い場は舞台裏にあったので迷惑の掛からないよう静かに向かった。



「……じゃない?」

「そこは平等だって最初に契約しただろ」

「でも今回は貴方の一人勝ちよ、ルベル」

「能力見せるのはあたしだけで十分だ。あんな子どもらの前でお前らの能力は破壊力がヤバすぎる」

「気を遣ってくれたの?優しいわね」

「最適解だろ」



トイレから出れなくなってしまった……。

声からするに先程のレディ達だろう。あたしが聞いていい話ではないよな……?

能力とか……じゃああれは本物……?ああいう敵が実際に存在してるっこと……?

彼女達が去るまで待つしかないかな……。


「ヴィオレッタ。いつまで籠ってるつもり?」

「あいつなら楽屋にいたぞ」

「……あら?じゃあ、そこに入ってるのは誰かしら」

「もしかしてぇ、次の敵だったりして」



……ヤバい。これは出ていった方が賢明だろう。

私は静かにドアを開け、彼女達の前に出た。ドレス姿とは違ってラフな私服?姿も似合っている。



「あー!この子さっき前に座ってた子だぁ」

「そうねぇ。綺麗な子だったから覚えてるわぁ」



私より綺麗な人達に褒められると反応に困るな……。



「あたしらが此処に来ること見越して潜んでたのか?」

「ち、違います……。近くの御手洗場が此処だったので……」

「後方にもあった筈だけど」

「えっ……。すみません、知らなくて……」

「まぁ良いわ。ねぇ、ルベル?」

「あたしらの話聞いたんだろ?悪いけど他言無用でお願いしたい」

「誰にも言いません」

「そうか」

「あの……さっきみたいな敵ってまだいるんですか……?」

「いるわよ。ただ貴方達みたいな人間には害は無いから」

「教えていいのー?」

「ここまで話したら秘密もクソもないわ」

「もしあんたが誰かにあたしらの事口外したら、その日に死ぬと思え。それ位、知った罪は重いんだ」

「分かりました……」



私達の知らない敵と彼女達は戦っているんだ。

気軽に知っていい事じゃない。



「もう行っていいよ」



ルベルに促され、私は一礼しその場から早足で去った。

忘れよう。それが一番良い。彼女達にももう会うことは無いだろうから。



「あ、みーちゃん!」



私が戻ると凛都達はクレープを食べていた。近くにあったかなと見渡していると千歳くんが私の分のクレープを渡してくれた。



「ありがとう」



千歳くんは優しく笑み、私は一口食べた。さっきの事もあってか甘いものが美味しく感じた。



「これ食べながら観覧車乗ろー!」

「良いね」

「凛都はこったんと乗ってー、その後みーちゃんと!」

「二回乗るの?」

「観覧車は二週するのがオススメだよ」

「そうなんだ……」



そんなオススメがあるとは知らなかったな。



「千歳くん、高さ大丈夫?」

「あぁ。ゆっくりなものは平気」

「良かった」



クレープを味わいながら私達は観覧車乗り場へと向かった。

列も無くスムーズに乗れて、先に凛都と虎太郎くんが乗っていった。私達も次に来たやつに乗り、キャストさんに見送られながら進んでいく。車内には二人だけ。窓からは絶景が見える。



「凄いショーだったな」

「うん。まさか二幕あるとは思わなかったよ」

「子ども向けだと侮っていた」

「私も」

「文化祭でも演劇をやるんだろう?」

「えっ……」



いきなり話が変わったので何の事か分からなかった。



「恵海が言っていた。海凪は演劇を推すって」

「……透花も候補に出すって言ってたけど」

「オレは見たいよ。海凪のレディ姿」

「まだ何やるかも考えてないけど」

「夏休みが開けたらすぐ文化祭だ」

「そんなすぐなんだ。場合によっちゃ、休み無くなるかもだね」

「オレで良ければ付き合うよ」

「ありがとう、千歳くん」



そうこう話している内に1番上まで差し掛かっていた。見下ろす景色は綺麗だ。



「コンテストもやるんだっけ?」

「あぁ、ミスコンだろう」

「千歳くん、エントリーするの?」

「しないよ。オレは恵海を応援するから」

「透花は出るんだ」

「イケメンだからな」

「千歳くんも格好いいよ」

「ありがとう」



てっぺんの景色も壮観だったけど、やっぱり微笑む千歳くんには敵わない。



「海凪は出るの?」

「凛都に誘われたら出るかな」

「その時は応援する」

「やったぁ」



凛都は可愛いからみんなの勧めで出るだろうし。文化祭には虎太郎くんも来るだろうし。今度は透花も一緒に楽しく出来たら良いな。

そういえば大丈夫だったかな……。妹のカウンセリングって言ってたけど……。



「──あ。千歳くん、シェイ……なんとかって知ってる?」

「……だれ?」

「シェイ……なんだっけな……?なんとかビア?」

「あぁ……シェイクスピア?」

「そう!それだ」

「恵海から聞いた事あるけど、その人についての本も無かったから理解に困っている」

「私も。ネットでも調べてみたんだけどヒットしなくて」

「大方、何かの作品のキャラクターだろう?」

「そう思う。この間、透花から名言みたいなの聞いたからさ」

「若しくは恵海が考えた架空の存在とか」

「でも妙にしっくりくるんだよね」



知らないのは私だけじゃなかったか。



「観覧車のあとはお土産買いたいな」

「賛成だ。混まない内に済ませたい」



お店の場所はパンフレットで確認したし、閉園までまだ時間があるからファミリーでごった返す前に欲しいもの買い込もう。



「──海凪」

「ん」

「今日は楽しかった。ありがとう」



不意にお礼を言われ、ドキッとした。



「こちらこそ……。一緒に来てくれて嬉しかったよ」

「海凪からの誘いなら拒まない。また何かあったら頼って」

「じゃあその時はよろしくだね」

「あぁ」

「千歳くん、彼女は作るの?」

「……今は欲しい感情は無いな。この先は解らないけど」

「そっか」

「海凪は恵海と付き合わないのか?」

「えー……?うちらはそういう関係じゃないからなぁ……」

「本当にそうなの?」

「えっ……」

「恵海は恋愛感情も込みで海凪と一緒に居るんだと思うんだ」

「……そうかな……」

「好きじゃないの?」

「……透花の事は……親友として見てるから……」

「他の女と付き合っても平気?」

「多分……」

「そうなったら、今の関係は無くなるんじゃない?」

「……セフレのこと?」

「彼女がいるのに、セフレが居るって失礼な事だよ。彼女の子も透花を疑うだろうし。自分と付き合ってるのに他の女と身体の関係を持ってるって知ったら残酷だ」

「……そっか……」



そこまでの考えは持っていなかった。まぁ、確かに嫌な存在にはなるよな……。彼女って存在の意義が無くなる訳だし。都合の良い女付きの彼氏なんて世間の女は絶対受け入れ無いだろうよ。透花が本当に好きな子に出逢って今の関係を辞めるなら私は了承するしかない。



「外野が口を挟む事じゃないな」

「いや……気付かされた……。そうだよなって……」

「海凪は彼氏を作っても透花との関係は継続するの?」

「……絶った方が良いよね……」

「その方が付き合い易くない?」

「うん……。助言ありがと、千歳くん」

「彼氏出来たら教えて」



優しく微笑まれ、その瞬間、解ってしまった。

千歳くんは、私を彼女には選ばないのだと。



「良い人見つけてみせるよ」

「祈ってる」



淡い恋心はその日の内に消滅した。

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